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告白。

 告白されて教室に戻ると、健汰がにやにやして待っていた。


「いよっ、女たらし」

「誰がだよ。人聞き悪いこと言うなよ」

「事実だろ?三組一人気の姫花ちゃんに告白されて。ちなみにミスK高の有力候補だかんな?」

「どこ情報だよ、怪しいな」

「失礼だな、俺調べだから信憑性高いよ?」

「あ、今信用度が二十%から三%に下がった」

「ひっで。ま、でも付き合うんだろ?」

「いや?」

「だよなーまったく羨ましいぜ……って、はあ!?」


 健汰が理解できないというように目をまんまるにして俺を見る。


「……お前、今彼女いたっけ?」

「いないけど」

「だよな。え、もう一度聞く。姫花ちゃんと付き合うんだろ?」

「いや。断った」

「ええ!?」


 目が落ちてきそうなくらいに見開いて、健汰は言う。


「な、なんで?」

「なんでって……」


 まったく、どいつもこいつも。

 付き合う付き合わないは俺の勝手じゃないか。

 なんでなんでって、すべての物事に原因を求めすぎるのって良くないと思う。


「町田?」

「……まあ、そう」

「なんだ。やっぱ好きなんじゃないか」

「いやべつに付き合いたいとかじゃ」


 健汰にじいいっと目を見られて、言い切れずに「なんだよ」と目を逸らす。


「どうぞ?続けて?」

「いや、続けづら」

「いいから」

「紗来は、なんていうか……どうせ好きだから。俺、彼女いても紗来とカラオケ行きたいし。でも彼女はそういうの嫌がるだろ?紗来だってたぶん、汚いもの見るような目で『やめとけば』とか言うし。そんなんなるならさあ……」

「なるなら?」

「……彼女とか、いらんし」


 健汰が口に手を当て「かーーー!」と奇声をあげる。


「いやそれはさあ……」

「なんだよ」

「……いや。自分で気づかないと意味ないか」


 健汰はにやにや笑い、いたずらを思いついた悪ガキみたいな顔をして言った。


「まーでも、あんまうかうかしてると盗られるぜ?」

「は?」

「三組の山本。町田のこと狙ってるって」

「……どこ情報」

「俺調べ。ま、信じる信じないは勝手だけどさ」


 健汰は腹立つ笑顔で下手なウインクをして「便所行ってくるわー」と行ってしまった。



「スタバ誘われたって、それか」


 俺は一人で小さく呟き、信用度三%の情報ソースを信じるか悩んだ。



 俺が付き合わなくても、紗来が付き合ったら俺たちは離れるしかないのか。

 紗来に浮いた話は今までなくて、失念していた。


 そりゃそう、だよな。

 いやでも。

 こんな仲いいのに、「付き合って」なんて言ったら、ただエロいことしたいみたいじゃないか。

 ……したいけど。男の子だし。


 下心がばれて紗来と気まずくなるのと、誰かに盗られるのとどっちがいいか考えて、俺の心は決まった。



***


「紗来」


 放課後、帰ろうとした紗来を俺は廊下で引き留めた。

 紗来は驚いたように振り返り、目を泳がせる。


「な、何」

「そんな嫌そうな顔するなよ。一緒に勉強して帰ろうぜ」

「舜、いつもペン回してるだけじゃん」

「そんなことないって」


 そんなことあるけど。

 いいだろ、と紗来の制服の袖を掴んで教室に引っ張っていく。

 紗来は俺の手を振り払うことなくついてきて、俺は内心ほっとしていた。



「……ねえ舜」

「ん?」

「今日告白された子と、付き合うん」

「え?」


 紗来が昼休みの告白を知っていることに驚いて、口をぽかんと開けてしまう。

 紗来はそれをなんと誤解したのか、察したように机に目を落として「……まあ、私に関係ないけど」と呟いた。


 関係なくない。むしろ大いにある。


「紗来」


 振られるかもしれない。

 それでもいい。言うべきだ。

 ずっと、心の中に紗来の席があった。

 それはこれからも、……たとえ振られても、変わらない。


「紗来。付き合って」

「……?」


 紗来が宇宙人に会ったみたいな理解に苦しむ顔をする。


「……え、ちょ、告白されてその顔はさすがになくない?」

「あ、ごめん。……いや待って、舜、私のこと好きなん?」

「……好きじゃない奴に付き合ってなんて言う人間いる?」

「いやまあ……身体目当て、とか」

「……身体目当てだったら他に色々……イテテ」


 紗来がジットリした目で俺の腕をペシペシと叩く。

 それさえもが俺には可愛くて、ニヤニヤしそうになるのを必死で耐えた。


「紗来がいい。紗来にキスしたい。……紗来に触りたい」


 かあああ、と紗来の顔がみるみる真っ赤になった。


「嫌?」

「……嫌じゃない、けど」

「ほんと?」

「……うん」

「……触っていい?」

「……き、聞かないでそんなこと」

「……じゃあ触る」


 俺は立ち上がり、教室の外からは死角になって見えない場所に紗来の手を引いていった。



 ゆでだこのように赤くなった紗来の頬を手で包む。

 可愛くてしょうがなくて、我慢なんてできそうになかった。


「……可愛い」


 小さく囁いて、優しくキスをする。

 唇から紗来の緊張が伝わって、怖くないよと伝えるみたいに肩を優しく抱いた。


「ん……」


(……やば)


 紗来がちょっと気持ちよさそうな声を出すから、もっと激しくしたくなる。


(もうちょっとだけ)


 んむ、と唇を食みながら、ちょっとずつ激しく。


「ん、んんっ」


 激しいキスに、紗来の息が乱れた。

 力が入らないのか、俺に体重を預けてシャツの裾を遠慮がちに掴んでいる。

 身体は自然密着していて、俺はどんどん我慢がきかなくなっていく。


(……もっと)


 胸に感じるふにっとした感触。背に回した手は、セーラー服の下に着ている何かを正確に理解していて、俺の身体はどうしようもなく反応した。

 抱き直すみたいに動かした手は、どんどんエロくなっていく。

 しばらく背中をさまよったが、もう無理だ、とセーラー服の中に手を入れた。

 急にきた生の肌に慄く。

 腰を片手でしっかりと抱いて、もう片方の手で胸をむに、と触る。



(……!)


 思ったより大きな感触に驚き、身体がうずいた。


(紗来って、着痩せするタイプか)


「ちょっと、も……だめ……」


(……あ、やべ)


 紗来が潤んだ瞳で睨むように俺を見つめてくる。本人は必死なんだろうが、そんな目で見られても逆効果だ。


「……煽るだけなんだけど」


 ぱっと手を離しつつ、ぼそっと呟く。

 顔が熱いのを自覚して、顔を背ける。



「……引いた?」

「……若干」

「……」


 引かれたか。そりゃそうだ。どう考えたってやりすぎだ。


「ごめん。やりすぎ。紗来が嫌だったら、もうしない」

「ほんとに?」

「……うん」


 したいけど。そりゃしたいけども。


「……嫌、ではないけど」

「良かった。今心からほっとした」

「……でも、エロすぎ」

「……そりゃ、俺だって健全な男子高校生なわけで……」

「ここ学校」

「……ごめん」

「うん」


 つまり学校じゃなければOKってことか。俺は都合よく解釈した。

 ってことはつまり。


「紗来。俺たち付き合うってことでおけ?」


 今更ながら確かめる。

 紗来は赤い顔で目を逸らした。


 素直じゃないその反応の意味を、俺だけが分かっていればいい。むしろ紗来のこんな顔、誰にも見せたくない。


「紗来」


 名前を呼んで、もう一度自分の胸に引き寄せ、キスをした。

 桃のように染まった柔らかい頬に、ふにふにと手で触れながら言う。


「俺だけにして。紗来のほっぺ触っていいのも、こんな近づいていいのも、エロいことしてもいいのも、俺だけ」


 紗来は答える代わりに、俺の頬をむにっとつねる。


「舜も」


「他の子に触んないで。エロい目で見ないで」

「ん。たぶん」


 頬をつねる力が強くなる。


「あの、いひゃい」

「たぶんじゃなくて?」

「……ぜったいしません」

「うん」

「でも、そうするとそのぶん紗来に色々全部向くんだけど」

「……いいんじゃない」

「言ったな」



 俺が紗来にとってたった一人の、『そういう人』であり続けられるように。

 俺はクソ青い夏の空に向かって願った。


 真夏の空が、どんなに青くても。

 きっと、今日の空ほどは青くない。



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