頬。
「紗来ー、ちょっと見た?」
「何を?」
友達の真千子が弁当を持って隣の席にやってくる。
首を傾げる私にニヤニヤ笑いを向け、「城山」と囁く。
その名前にちょっとどきっとして、いやいやと否定する。
「舜がどうかしたの?」
「たぶん告白だよー、あれ」
「告白……舜ってなんでモテんの」
「まーやっぱかっこいいからじゃない?」
「どこが?」
「うわ厳しー。イケメンだしクールだし人気なんだよ?」
「ふうん」
私のそっけない態度に真千子はますますにやにやし、頬をつついた。
「そんなこと言ってー。ちょっとは気になってんじゃないの?」
「べっつに。舜が誰と付き合おうが私には関係ないって」
「あ、そうなの?」
真千子がびっくりしたように言う。
「二人、好き同士なんだと思ってた」
「いや仲はいいよ?」
「うん。それ以上に」
「……舜、彼女いるじゃん」
あ、別れたんだったか。「……今はいないんだっけ」と中途半端に付け加えると真千子がニタァと笑った。
「城山、紗来のことばっか見てんじゃん」
「え?」
「なんかないの?好かれてるかも?みたいな話」
「べつに……あ」
言いかけて、すぐ口をつぐむ。が、目ざとい真千子は見逃してくれなかった。
「なになになに~?」
「う、そんな何も」
「何もって顔じゃないでしょ~」
しげしげと顔を覗き込まれて、私は観念して「ほ、ほっぺ」と呟いてしまう。
「ほっぺ?」
「……触られた」
頬に手を当てながら白状すると、真千子はまたニタァと笑って私の頬をつついた。
「紗来のほっぺは、触りたくなるよね~わかる~」
「もう、からかうなー」
「まあでも」と真千子は真面目な顔になって腕を組む。
「今回は相手が悪かったかもなー」
「え?」
「三組の姫花ちゃん。告白して落ちない男はいないって言われてる」
「ふうん。可愛いんだ」
「可愛い。文句なしに」
「……ふうん」
「拗ねるな拗ねるな。私は紗来推しだから」
「べつに拗ねてなんか!」
「あ、城山」
ぱっと目を伏せてしまった私に、真千子はまたにやにやし、「じゃ、私戻るね」と去っていった。
そろっと舜のほうを見ると、ぱち、と目が合った。
舜はついと目を逸らして席に戻り、男子同士で話し始めてしまった。
なぜだかそれが無性に腹が立って、残っていたお弁当を無理矢理口に押し込んだ。




