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猫の探偵社  作者: 久住岳
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第9巻 伝承地の事件・主神 怪描ミケ 前編

【第八話】伝承地の事件・主神 怪描ミケ 前編


 

 響子『ここね。噂になるほどの探偵さんか…鬼が出るか蛇が出るか…楽しみね。』

 

 八月の暑い日の午前、猫の探偵社を一人の女性が訪問した。彼女の名は久能響子、今年三十五歳になるフリーのルポライターだ。久能響子は大学を卒業後、大手の新聞社に就職し三十歳の時にフリーになった。新聞社では入社の時から文化部に在籍し、芸能全般の記事を担当していた。アイドルタレントや歌手、芸人など芸能に関する件は、全てが文化部芸能担当部門の範疇だった。

 

 誰と誰が密会していたとか、不倫疑惑、若手タレントの宣伝の為の取材…新聞社での仕事は、久能響子の目指すジャーナリストの姿とはかけ離れていた。響子は社会部の記者に憧れていたわけはない。政治が絡む汚職や事件性の高い取材がしたかったわけでもない。ただ…自分の追い求める事を記事にしたい…その思いが響子に退職を決意させ、フリーのルポライターへといざなった。彼女は日本の各地にまつわる伝承や、文化的遺産について記事を書く事が多い…それが響子の求める世界だった。

 

 久能響子が最初に《猫の探偵社》の噂を耳にしたのは今年の二月だった。響子はインバウンドで賑わう観光地の取材をする為、世界遺産の村、厳冬の白川郷に訪れた。例年よりも雪が多かった白川郷で、初めて雪を見る南国から来た家族を取材していた。あまりにも積雪が多く家族は予定を二日切り上げて、名古屋方面の旅行に変更し帰国する事になった。取材は響子の思惑通りに終わっていた為、記事を書くのには全く問題はなかった。

 

 響子『早めに終わったわね、どうしようか…高山も取材してから帰ろうか。』

 

 白川郷の取材が終わって時間が余った響子は、そのまま飛騨高山の街の取材を始めた。古い街並みの中に混在する現代的な風景…高山は新しい文化が芽生えている感じがあった。取材を重ねていくうちに、神社の神主から不思議な話を聞いた。そう…ビャクヤの時のあの神主だ。神主の話は誇張された作り話にしか聞こえなかった。神主が胡散臭く思えたのもあるが神社の宣伝の為に、神主が作り話を話していると思っていた。地方の伝承の類そういった男性に見えたのも大きい。

 

 その年の七月、秋田に取材で出向いた時、男鹿半島のナマハゲ館で沢渡家の一件を耳にした。数百年前に実際に起きた悲しい事件は、沢渡真央の意向で全ての文書が公開されていた。興味を持った響子が取材を進めていくと、高山で聞いた《あの探偵》が関わっているようだった。岐阜県と秋田県…遠く離れた地域で不可思議な話に、共通して現れた探偵社…響子の探求心に火がついた。沢渡家を訪問し当主と娘・真央に取材を申し入れたが断られた。何とか《あの探偵》の事を聞き出そうと真央に食い下がった時、『御迷惑はかけられません』と透明感のある笑顔で言われた。

 

 響子『あの笑顔はいったいなに?』

 

 秋田から東京に戻り記事を書き上げ、週刊誌の編集部に持ち込んだ後、高山に向かった。あの神主なら何でも話しそうだと思った。案の定、神主は嬉しそうにべらべらと話し始めた。神主から聞いた話の裏付けをとる為に小鞠家に行ったが、小鞠家では沢渡家同様、何も聞き出す事は出来なかった。響子は探偵が口止めをしていると直感した。確かに尚樹は事件が終わると『僕らの事は内密に』と依頼者にお願いしていた。猫の捜索ならよいがこういった事件がらみで有名にはなりたくなかった。

 

 響子は地道に調査を始めた。猫の探偵、不思議な能力…これだけで《猫の探偵社・黒猫のノアール》はすぐに浮かび上がった。これだ!響子の中に確信はあったが証拠も証言もない。久能響子は論理的だが行動派でもある。考えるよりも動けが彼女の信条だった。《猫の探偵社・黒猫のノアール》に直接訪問し、高山と男鹿半島で聞いた話をぶつけて、反応を見ようと考えていた。

 

 響子『会ってくれそうもないわね…もう行くしかないか。』

 

 久能響子は何度か探偵社に取材の電話をしたが、その都度、丁重に断られていた。高山や男鹿の話をしても『うちじゃありませんよ』と否定していた。響子が電話をしたのは三回…その三回の時は不思議な事に尚子とノアールは事務所を留守にしていて、留守番をしていた尚樹が電話を取っていた。面倒な話になる取材など尚樹が受けるはずも無かった…尚子であれば…響子が不幸だったのは間が悪かったという事か。

 

 行動派の響子は事務所に行く事にした、当然アポなしの訪問だ。インターフォンが鳴り尚子が画面を見ると、女性が相談があると言って立っている。容姿端麗で知的な感じの女性の相談…尚子の直感は猫の捜索依頼ではなく、何か事件に絡んだ相談だと叫んでいた…尚子の野生の勘は…あてにならない。尚子がエントランスを開錠し、響子を事務所に招き入れた。響子が室内に入った時、昼寝をしていたノアールが目を覚ました。怪訝な顔で響子をみている。

 

 尚子『どうぞ。こちらにお座りください。お名前と御相談内容をお聞かせください。』

 

 響子『久能響子と申します。ごめんなさいね、相談ではないんです。私、ルポライターをやっていて、今日は取材をお願いしに来ました。』

 

 尚子『取材ですか?わ~テレビとか雑誌に載るの?所長、取材だって。』

 

 ノアール『ミャオ~』

 

 尚子『え?ダメなの?もう有名になるチャンスなのに…ごめんなさい、所長が取材はダメだそうです。』

 

 響子『所長?あの黒猫ちゃんが?』

 

 尚子『ノアール所長です。すみません、お引き取り下さい。』

 

 響子『そんな事を言わずにお願いします。御社ももっと有名になれば、依頼が増えますからいい事だと思いますよ。』

 

 今日、尚樹は探偵協会の会合で留守だった。ノアールが応接テーブルまでやってきて、尚子の隣の椅子に座った。久能響子を見上げるように見つめた後、尚子の膝の上に乗り耳元に唇をよせて、小さな声で鳴き意思を伝えた。響子の取材内容がノアールにはわかっていた。響子がエントランスに来た時にノアールが起きていれば、部屋に通す事はなかっただろう。久能響子が高山や男鹿半島で、猫の探偵社の事を嗅ぎまわっているのは、ビャクヤを通してノアールに伝わっていたようだ。

 

 尚子『とにかく今日はお帰り下さい。取材であれば正式に取材内容を明記して申し込んでください。内容を見てから検討させて頂きます。』

 

 ノアール『シャ~』

 

 響子『…わかりました。御機嫌を損ねて嫌われたら困るわね。今日は帰ります。後で取材内容はメールで送りますのでご検討お願いします。』

 

 響子は割に大人しく引き下がって帰った。久能響子は取材対象者とのコンセンサスを大事にしている。対象者が法的に問題がある人だったり、周りから迷惑な人の場合は別だが、今回のような対象者とは懇意にし、密着取材で本質を伝えるというのが彼女の手法だった。悪い印象は与えたくなかったのだろう。マンションのエントランスを出て、外に出た響子は振り返ってマンションを眺めた。

 

 響子『不思議な黒猫だったわ。あの黒猫に何かの力があるのかしら。』

 

 響子は去っていった。一時間ほどすると尚樹が会合から戻ってきた。協会の定期会合は年に四回、四半期に一度ある。探偵業は人の秘密にかかわる部分も多く、悪質な業者も中にはいる。捜査資料をネタにゆすったり、機密を外部に売ったりする業者も後を絶たない。協会は健全な探偵業者を育てるとともに、悪質な業者の排除や告発もしていかなければならない。定期会議は悪質業者の通知や悪質な相談者の事例を共有し、探偵業者間の横の連絡を密にする事が目的になっていた。

 

 尚樹『ただいま。』

 

 尚子『お帰りなさい。なんか疲れた顔をしてますね。』

 

 尚樹『うん。普通の探偵社は大変だな~って毎回思うよ。浮気調査とか企業の機密とかさ。変な依頼者に巻き込まれて、警察に摘発された探偵社があったんだってさ。うちは猫さんが相手だから、そんな心配はないし良かったよ。うん?所長…尚ちゃん、何かあったの?』

 

 尚子は久能響子というルポライターが訪ねてきて、探偵社に取材の申し込みがあった事。ノアールが取材を断るように伝えて来た事などを尚樹に話した。響子の容姿や尚子が感じた人柄など、正確に詳細に尚樹に伝えた。ノアールもビャクヤから伝わった意識を尚樹に伝えてきた。その話を聞いた尚樹は何度か取材の電話があった事を想い出した。

 

 尚樹『僕が一人で事務所にいた時に何度か電話をしてきた人かもしれない。うちじゃないってとぼけたんだけどな~』

 

 尚子『尚樹さんは嘘つくのが下手だから…私がみた感じだと悪い人じゃなさそうだったわよ。どちらかというと好印象だったな~。』

 

 尚樹『ノアール所長の話だと、ビャクヤの時の事やハルの時の事を調べていたみたいだ。そういう事で有名になるのは困るし…沢渡家や小鞠家の事を記事にされるのは困るし。取材は断って正解だよ。』

 

 尚子『そうだけどさ。あの人、諦めてくれるかな~。尾行とかするかもしれないわよ。』

 

 尚樹『猫の捜索だもの、尾行されても困らないよ。』

 

 その日の夜は叔母、紗栄子と妹、真希、尚子と友人の葵…ミーちゃんもいる…ノアールと尚樹で夕食会を行った。葵は一昨年大学を卒業した後、中規模の出版社に入社し雑誌の編集に携わっていた。入社三年目になり週刊誌の編集部に異動したそうだ。政治や経済、文化、芸能を記事にした雑誌だった。

 

 尚子と葵は高校時代の親友二人も加え、四人で定期的に会っているそうだ。二十五歳になり入社三年目の親友二人には、探偵尚子の話は興味深く毎回楽しみにしていた。葵はそんな三人を静かに微笑んで見守る感じだ。尚子が今日の取材の話を紗栄子や葵に話し始めた。尚樹は取材には消極的だが尚子はいっその事、取材させて記事に出せない部分と出していい部分を明確にし、久能響子と付き合っていった方がいいのではと思っているようだ。

 

 尚子『ねえ、みんなどう思いますか?』

 

 真希『取材受けちゃいなよ。有名になったらさ、私にもオファーが来るかも!』

 

 紗栄子『何を言っているの。尚ちゃんのいう事も一理あるわね。ある事ない事書かれるよりは、ちゃんと受けた方がいいかもしれないわね。その記者の人がどんな人なのかにもよるけど。』

 

 葵 『久能響子さん、知っているわよ。うちの雑誌にもたまに記事を持ってくるわ。おもしろおかしく書くような人じゃないわ。』

 

 尚樹『葵ちゃんがそういうのなら…ミーちゃんもそう言っているし…。正式に申し込みがあったら、話を聞いてみる事にするよ。』

 

 翌日、事務所に出社しパソコンを立ち上げると、響子からメールが届いていた。猫の探偵社の取材申し込みだ。男鹿半島と高山で聞いた話にも触れていた。不可思議な現象と事実について、取材したいという内容だった。尚樹は個人情報に関する件、依頼者については答えられない事を前提に、話だけは聞くという返信を送った。すぐに響子から日程調整の返信が来て、その日の午後、事務所で取材を受ける事になった。インターホンが鳴り久能響子が事務所を訪ねてきた。

 

 響子『先日は突然押しかけて失礼しました。』

 

 尚子『どうぞ、お入りください。尚樹さんは初めてね。』

 

 尚樹『野上と申します。』

 

 響子『久能響子と申します。早速ですが所長は…野上さん…ではないんですね。本条さんも野上さんも、名刺は副所長ですものね。』

 

 尚子『所長はノアールです。探偵社・黒猫のノアールですからね。一歳半のお嬢様ですよ。』

 

 尚樹『三人だけの会社ですからね。所長と副所長二人ですよ。』

 

 響子『沢渡家と小鞠家の事をお伺いしたかったですが、依頼者の機密事項に関わるからお答えして戴けないでしょうし、私としても個人が特定されるような記事は書きません。猫の探偵社・黒猫のノアールが、巷では不思議な力を持った探偵と言われている事からお聞きしたいと思います。』

 

 ノアール『ミャ~ミャッ』

 

 尚子『所長、どうかしたの?』

 

 その時、探偵社の電話が鳴った。尚子が離席し電話を取って話し始めた。電話の相手は四国にある神社の宮司だった。由緒正しい神社の宮司からの依頼で、神社の風評被害になるかもしれない案件だった。この神社は猫神さんとも呼ばれる、猫と縁の深い神社だそうだ。ある事件がきっかけで困った事になったらしく、思い悩んでいると夢枕に守護神の猫神様が現れ、探偵社・黒猫のノアールに相談せよとお告げがあったそうだ。尚子の傍にノアールがやってきて依頼を受けるように促していた。

 

 尚子『わかりました。ご依頼はお受けします。なるべく早くそちらに伺うようにします。日程が決まり次第、ご連絡いたします。』

 

 尚樹『依頼なの?何か変な感じがあったけど…』

 

 尚子『四国の神社から、お松大権現って神社の宮司さんだった。切羽詰まってる感じだったよ。』

 

 響子『お松大権現!六月に殺人事件があった神社よ。猫の祟りとかって噂になってたわ。』

 

 尚樹『殺人!尚ちゃん断ろうよ、嫌だよ、そういうのはさ。』

 

 尚子『ダメよ。所長が受けろって言ってるんだから。えっと明後日には行けますね。新幹線とレンタカーですかね。所長も同行するみたいだし。』

 

 響子『ねえ、私も行っていいかしら。密着取材させて欲しいわ。貴方達や依頼人に迷惑が掛かるような記事は書かないから。』

 

 尚樹『は~、行くしかないか…久能さんは信頼できそうだからいいですよ。』

 

 翌々日の朝八時に東京駅の東海道新幹線改札口で、久能響子とに待ち合わせして四国徳島の阿南市に向かった。新神戸で下車してレンタカーに乗り換え、淡路島を通って約三時間の道のりだった。響子は『徳島空港まで飛んだ方が早いわよ』と助言してくれたが、探偵社の所長ノアールも同行する。飛行機の客席には基本的に猫は入れない。荷物として運ばれる感じになるので、ノアールが同行する時は電車か車が基本だ。

 

 東京駅から新神戸までの新幹線内の約二時間と、レンタカー内の約三時間、合計五時間の間、響子は尚樹と尚子に聞き取りをしていた。尚樹の子供の頃からの不思議な能力や、尚子の身体能力の事、ノアールの不可思議な力…まだ全容はわからない…そして今まで猫の捜索以外に出くわした事件のあらましを、個人情報や企業が特定されるような情報を除いて、聞き取る事に成功した。

 

 響子『あなた達って面白い素材だわ…。』

 尚子『素材って酷くない(笑)。』

 

 尚子と響子は一回り年齢が離れているが、昔からの知り合いのように打ち解けていた。人と仲良くなるのが尚子は早い…自分にとって味方か敵か…尚子の判断基準は格闘のすべき相手か否かだった。そんな二人の様子に尚樹は呆れ、ノアールは猫用のゲージの中で眠っていた。移動中、ノアールは大概は寝て過ごす、事件の捜査の為に向かう時は必ず寝ている。体力と気力を整えて、能力を使う為に休んでいるのかもしれない。

 

 尚樹『ノアール所長、この橋を渡ると徳島県ですよ。』

 

 車は淡路島を過ぎて徳島県内にはいった。それから暫く走り、阿南市の那賀川の傍にある、お松大権現に一時過ぎに到着した。お松大権現について説明しておこう。古くから猫神さんとして祀られいる神社だ。社殿を守るものは狛猫、一万体以上の招き猫が祀られ、家内安全、商売繁盛、病魔退散や受験や選挙にも御利益があると言われる。猫神を主神にいだく神社の様だ。神社の発祥を遡ると怪描伝説に行きつく。伝承は次の通りだ。

 

 貞享年間(一六八一?一六八六)、阿波国那賀郡加茂村は不作続きの年をむかえ、この村の庄屋惣兵衛は村の窮状を救うため、私有の田地五反を担保に、近在の富豪野上三左衛門よりお金を借り受けていた。返済期限も近づき、丁度通りがかりの三左衛門にお金を返すが、通りがかり故(証文)を受け取っておらず、庄屋惣兵衛は間もなく病死する。惣兵衛の死後、その妻(お松)は幾度となく証文を請求するが渡そうとしない。 後にお金は受け取っていないと偽られ、担保の五反地までも横領される。思案の末、奉行所に申し出るが、お松の華麗な容姿に心を寄せ、食指を動かそうとする奉行越前。お松は奉行の意に応じなかった為 、また三左衛門からの(袖の下)を受け取っていた奉行は非理非道な裁きを下してしまった。お松は権力におもねる悪業に死を決して抗議する。それはことの真相を公にする(直訴)であった。 貞亨三年正月、藩侯の行列をよぎり直訴、その年の三月十五日、お松は日頃寵愛の猫(三毛)に 遺恨を伝え処刑に殉ずる。その後、三左衛門、奉行の家々に(怪猫)が現れ怪事異変が続き、両家は断絶している。

 

 本来ならば、一族、先祖代々の(夫惣兵衛の眠る)墓所地が近くにあり、そこに埋葬されて然るべきところ。しかし、少し離れてこの地を埋葬地として選定されたのは、神格(権現)としての別格な取り計らいがあったようだ。その後、必勝祈願や猫の神社として受け継がれてきた。この神社から二百メートルほど離れた川岸で、男性の遺体が発見されたのが二カ月前。身体には引き裂かれたような裂傷があり、この神社の伝説と相まって、三毛の祟りという噂が広まり始めていた。

 

 神社の駐車場に着くと、尚樹とノアールは何か異質なものを感じていた。それが何なのか?尚樹にはわからなかったが、ノアールは気づいているようだった。車を降りて神社の中に入り社務所に向かった。受付にいる女性に告げると別棟の建物の方に案内された。別棟の建物は神主の住居兼祈?所になっているようだ。広い和室に通され座卓の前に座って待っていると、ほどなくして神主が姿をみせた。

 

 神主『遠いところ御足労戴き感謝いたします。神主の日下部と申します。宮司は出張で留守ですので私がご説明させて戴きます。宮司も明後日には戻りますので、御挨拶はその時にさせて頂く事になります。』

 

 尚樹『黒猫のノアールの副所長の野上と申します。こちらが所長のノアールと副所長の本条です。こちらにいる方はルポライターの久能さんです。』

 

 神主『ルポライター?』

 

 響子『猫の探偵社の密着取材をさせて戴く事になりまして。神社様に御迷惑になるような記事は書きませんのでご安心ください。』

 

 神主『私達が困るような事はないと思いますので、神社としては取材は構いませんよ。早速ですが宜しいでしょうか。』

 

 日下部が経緯の説明を始めた。事の発端は二カ月前にさかのぼる。二カ月前、神社の近くにある河川敷で男性の他殺体が発見された。警察は殺人事件と断定し捜査本部を立ち上げているが、犯人はいまだ不明で逮捕に至っていない。警察の発表では他殺体の男性の身元も判明していないという事だ。高知県警は捜査本部を立ちあがて、周辺の聞き込みや被害者の身元の特定を急いだが、犯行に繋がる目撃情報も無く捜査は難航している。

 

 尚子『殺人事件ですか!これは…探偵社の本領発揮の依頼だわ。』

 尚樹『尚ちゃん、僕等は猫の探偵社なんだからね。殺人事件で神社が疑われているんですか?』

 神主『いえ、そうではないんです。』

 

 神主が説明を続けた。この事件と神社は全く関係がないが被害者の身体に残された裂傷が、獣が爪で襲ったような傷だったことが不幸の始まりだった。その後の捜査で男性が何度か神社に来ている事が判明した。社務所や神主が面会した事は一度もなかったが、神社の中をぐるぐると歩き回る様子が、神社内の防犯カメラや周辺の聞き取りで明らかになった。何かを調べている感じのようだったそうだ。

 

 神主『うちの神社に来ていらしいのですが、私達はその方と会った事も無かったのです。事件とは直接関係がないはずなのですが、突然、変な噂が出回ったんですよ。』

 

 他殺体が河川敷が発見されて少し経った頃、SNSに『お松大権現の怪異。化け猫の怨霊が人を襲う』という書き込みがあったそうだ。その投稿は急速にネットで広まっていき、神社の由来である三百年前の事などが面白おかしく拡散された。SNSでは《化け猫の住む神社》という書き込みがあり、誹謗中傷も混じる書き込みが後を絶たなかった。神社に参拝すると化け猫に襲われるという風評が広まり、観光客や参拝客も減少し近隣の住民達も遠ざかるようになったらしい。

 

 神主『私達にはどうする事も出来ない事なんですが、神社としても困ってしまって…。悩んでいたら夢枕に三毛様が現れて、猫の探偵社・黒猫のノアールとお告げがあったんです。』

 

 尚樹『三毛様というのは伝承の猫神ですね。』

 

 神主『はい、そうです。伝承では三毛様の祟りで、悪を成した家は断絶したとありますが、史実では違ったようです。時の藩主様が悪行を見抜き、罰を与えたというのが本当のようです。三毛様は一族の菩提を弔う事と残された村人たちの安定を願って、この大権現から見守り続けておられます。何とか噂の払しょくをお願いできませんか。』

 

 尚樹『…難しいですね。尾ひれの付いた噂を払しょくするのは…どうしたらいいのか…』

 

 尚子『簡単だよ。真実をあぶりだせばいいんですよ。そして真実を久能さんに記事にしてもらえばいいよ。ね、久能さん』

 

 響子『それは私にとってはありがたい話だし、興味深い話だけど…真実をあぶりだすって?』

 

 尚子『殺人事件の真相を解き明かすの。事件を解決して犯人を捕まえるのよ。それしかないでしょう。』

 

 尚樹『ダメだよ、それは警察の仕事だよ。』

 

 ノアール『ミャ~』

 

 尚子『ほら、所長も賛成しているじゃない。神主さん、私ども猫の探偵社・黒猫のノアールにお任せください。猫神様があたしたちを指名したんだから頑張らなきゃ。まずは事件の状況の確認ね。捜査本部はどこにあるのかしら?』

 

 響子『え?警察に聞きにいくの?捜査状況なんて絶対に教えてくれないわよ。』

 

 尚子『捜査協力を申し出るのよ。私達の事を警察庁も気にしてるって、警視庁の遠山さんが言ってたもん。遠山さんに聞いてみるわ。』

 

 尚子はバッグの中から名刺入れを取り出し、警視庁の遠山に電話をかけて事情を説明した。遠山も事件の事は知っていたが、管轄外の為、詳細は知らないらしい。遠山は探偵社の報告をを要請してきた、警察庁の上層部の人間に連絡をして内容を伝えた。電話を受けた警察庁の内部で数人が集まり、遠山から連絡のあった件への対応を話し合った。会議の中心にいた警察庁の管理官は、男鹿半島で起きた事も秋田県警から報告を受けていたようだ。警察庁の管理官が捜査本部のある阿南警察署に連絡する事になった。

 

 捜査本部『はい、こちら那賀川殺人事件捜査本部』

 

 藤見『警察庁刑事局の藤見です。村西管理官はおられますか。』

 

 捜査本部『は!お待ちください。管理官。警察庁の藤見管理官からです。』

 

 村西『警察庁の藤見管理官?警察庁のお偉方が何の用事だろう。もしもし、村西です。ご無沙汰しております。』

 

 藤見『村西さん、暫くですね。四国管理支局にいた頃は世話になりました。捜査の方は進んでいますか?』

 

 村西『いや…恥ずかしながら一向に。被害者の身元も不明でしてね。警察庁の管理官がわざわざ連絡をするという事は、何か他県で起きた事件との絡みがあるという事ですか?』

 

 藤見『いやいや、そうではないんですがね。ちょっと気になる探偵社があって、その探偵社が事件の捜査協力をしたいそうなんだ。どうだろう、受けて貰えると有難いんだがね。』

 

 村西『探偵が捜査協力?そんな事でわざわざ?…なにか面白い裏がありそうですね。わかりました。本部に来るように伝えてください。』

 

 遠山からの折り返しの連絡の後、阿南警察署に神主同行の上で訪問した。捜査本部には徳島県警の管理官、村西が来ており、殺人事件の捜査を取り仕切っていた。阿南署に着くと玄関に刑事が迎えに現れ、尚樹たちを応接室に案内した。暫くすると村西と捜査一課長が応接室に訪れた。

 

 村西『県警の村西です。警察庁から連絡があるとは驚いたよ。君達は一体何者なんだい。』

 

 尚樹『猫の探偵社・黒猫のノアールの副所長で野上といいます。隣にいるのが所長の黒猫のノアールと副所長の本条です。その隣にいらっしゃるお松大権現神主、日下部さんから風評被害の対応の依頼がありこの地にやってきました。昨日、神社で依頼内容を伺い相談した折、風評被害を終息させるには事件の解決が必要と判断し、捜査協力を申し出た次第です。』

 

 一課長『なるほど。確かにお松大権現の評判は悪くなっていますな。化け猫の仕業だとか。』

 

 神主『ええ本当に困っているんですよ。参拝客も例年の一割まで減ってしまいましたし。このままでは神社の運営にも支障がありますし。』

 

 一課長『確かにそうですね。神社とはいえ経営不振になれば、閉鎖とかの可能性もあるんでしょうね。』

 

 神主『幸い神社の所有の土地がありますから、最悪の時は売却して持ちこたえるしかないと…。神社の守護神のお告げがあり、こちらの方にお願いする事になりました。』

 

 村西『守護神のお告げですか。まあ、いいでしょう。警察庁の管理官直々の要請ですからな、捜査協力をお願いしましょう。こちらの情報はすべて伝えます。君達が調べた情報は逐次、報告をお願いしますよ。そうだね…捜査本部から一人、刑事をつけますから一緒に行動してください。殺人事件だからね、危険が伴う可能性もあるだろう。現時点でわかっている事は少ないんだよ。これが資料だ。君達と行動を共にするのは立花という刑事だ。今は捜査に出ているから戻ってきたら紹介しよう。宜しく頼むよ。』

 

 尚子『資料はお預かりしてもいいですか?神社に戻って詳しく読みたいんですが。』

 

 村西『構わんよ。では立花には神社に行くように伝えておく。』

 

 探偵社の一行と神主は阿南署を出て神社に戻った。依頼を終えた神主は神社の祈祷や業務の為、別棟を後に社務所に戻っていった。尚子が捜査資料に目を通して、尚樹とノアール、久能響子に制つめ意を始めた。被害者は成人男性で年齢は二十代後半くらいだった。身長は百八十センチあり八十五キロの筋肉質の体型だ。腕と胸にタトゥーが彫り込まれていて、素人ではなさそうだと書いてあった。発見時に身に着けていた衣類以外の遺留品はなかったようだ。防犯カメラの映像では二十リットル程度のザックを背負っている。ザックは犯人が持ち去ったと思われた。

 

 近隣の聞き込みでも何度か神社付近で見かけられているが、地元の者ではなく近隣住民の誰もが知らない顔だという。この男が神社周辺に現れたのは、遺体発見の一カ月前だったようだ。神社の由来や神社を管理する宮司の事などを、いろいろと聞きまわっていたそうだ。やはり…神社に何か関連して事件に巻き込まれたか、事件になったかなのかもしれない。事件発生から二カ月でわかっている事はこれだけだった。捜査に行き詰まり警察も困っているようだ。

 

 尚子『う~ん…全く捜査が進んでいない感じね。』

 

 尚樹『そうだね。尚ちゃん、どうしようか?』

 

 尚子『神社の事を嗅ぎまわっていたという事は、この神社が事件の鍵になっているのは間違いないわ。何か…そう…何か神社の周辺で起きている様な問題がないか?それと被害者の身元を明らかにする事かしらね。遺体発見現場に明日にでも行ってみましょうよ。』

 

 響子『凄い事になってきたわ。密着取材して良かったわ。』

 

 ノアール『ミャ!』

 

 その時ノアールが天井を見上げて、大きな鳴き声を一言発した。その後ノアールは無言で天井の一点をみつめている。尚樹も尚子もノアールの見上げる場所をみつめ、つられるように響子も天井をみつめた。ノアールが尚樹の膝の上に座った。ノアールの眼にははっきりと何かが視えるのだろう。尚樹にはぼんやりと残像のように、空間が歪むのが視えていた。尚樹の頭の中に声が聞こえてきた。尚樹は紙とボールペンを手に取った。

 

 猫神ミケ『我が名はミケ。この地を守るものなり。よくぞ参られた、感謝いたします。』

 

 ノアール『ミャ~』

 

 猫神ミケ『黒き者よ、久しいですね。…現世におるそなたには記憶はないですか。』

 

 尚樹『神社の主神、ミケ様ですね。うちの所長を御存じなのですか?』

 

 猫神ミケ『それはどうでもよい事。お越し頂いた理由は神職から聞いた通りです。私はこの地を守る縁しを約すもの故、守る地より外には出られぬのです。そなたらにお願いするように宮司の夢枕に立ちました。』

 

 尚樹『その件は伺っております。ミケ様、何か心当たりはございませんか。』

 

 猫神ミケ『殺されたという者が神社内で、動き回っていたのはみておりました。一緒にいた者はおらず、いつも一人で人目のない場所を選んで。』

 

 尚樹『何をしていたんでしょう。』

 

 猫神ミケ『何か隠していたようです。場所は…黒き者に伝えましょう。祭神は祈る人が多ければ強く、少なければ弱くなります。祈るものがいなくなれば、神もその地を離れます。この神社は土地にとって重要な場所です。神社が廃れれば災いがこの地に降るでしょう。事件を解決して神社の風評を拭ってください。周辺の我が子達にも協力するように伝達してあります。不思議な力を持つ人の子よ、宜しくお願いします。』

 

 空間の歪みがなくなり、守護神ミケの気配も消えていった。尚子はなんとなく野生の勘で、何が起きていたか理解していたが、響子は何が何だかわからず戸惑った様子だった。部屋の空気が正常に戻り、尚樹は書き取った紙を座卓の上に置いた。響子は紙に書かれた文字を読もうとしたが…あまりの悪筆に読み取れなかった。

 

 響子『ねえ、何があったの?野上さん、ペン習字を習った方がいいと思うわ…』

 

 尚子『本当ですよ、いつも読むのが大変なんですよ。尚樹さん、主神が来ていたんですね。』

 

 主神ミケが去った別棟の部屋の戸を開け一人の女性が入ってきた。颯爽と現れた女性は探偵社の一行をみて、立ったままお辞儀をして話し始めた。

 

 立花『失礼します。徳島県警捜査一課の立花です。村西管理官より行動を共にするように命じられました。宜しくお願いします。』

 

 部屋に入ってきたのは女性刑事だった。尚樹と同じくらいの年齢で、ショートヘアで引き締まった感じのボディ、身長も高く百六十五センチはあるだろう。黒のパンツスーツの上下に白いブラウスを着ていた。顔立ちは女優の波留に似た美形の刑事だ。名前は立花ひとみといい捜査一課に転属になって一年目の刑事だった。動揺する響子の様子をみて如何わしく思ったのか、怪訝な表情で話しかけた。

 

 立花『何かあったんですか?包み隠さず、報告をお願いしますよ。』

 

 尚子『尚樹さん、主神が来ていたんですね。刑事さん、今ね神社の守護神が来ていたんです。』

 

 立花『守護神って…う~ん、管理官からは疑いの目で見るなって言われてますけど…』

 

 尚子『尚樹さん、そうなんでしょう?』

 

 尚樹『うん、ミケ様って名乗ってたし、神々しさも感じたから守護神ミケ様だと思う。…ノアール所長を知っているみたいな事を言ってたけど、教えてくれなかった。』

 

 響子『守護神って神社の化け猫がきてたの!』

 

 尚樹『化け猫ではありませんよ。神ですよ。殺害された男が神社に何か隠したって言ってました。』

 

 立花『え?どこに?何を?』

 

 尚樹『場所はノアール所長に伝えるって言って、ミケ様はそのまま消えました。』

 

 尚子『所長!』

 

 ノアール『ミャ、ミャ~~』

 

 尚子『所長が着いて来いって』

 

 別棟の部屋の障子戸を開けて、ノアールが縁側から外に飛び出した。尚子たちは慌てて玄関に出て靴を履き、ノアールの後を全員で追いかけていった。ノアールは庭に出ると一目散に目的の場所に向かって走っていく。主神ミケから得た情報で向かうべき場所はわかっていた。ノアールの後には尚子が続いていた。尚子はノアールの姿を見失わないように、持ち前の体力を武器に、離される事なく着いてい行く。その尚子を立花刑事と久能響子が追い、尚樹は…かなり離れて走っていた。

 

 境内の中を走り木々が生い茂る場所に来ると、低木の垣根を潜り雑木林の中に入った。人の歩く参道からは死角になっている場所だ。二本の中高木の間でノアールは止り、地面を前足で引っ掻く仕草をみせた。この下に何かを隠したようだ。ノアールの追いついた尚子と立花刑事は、ノアールの仕草をみながら話し合っていた。そこに久能響子と尚樹も到着した。

 

 立花『この黒猫は何をしているの?』

 

 尚子『黒猫ではなく…黒猫ですけど…探偵社の所長です。所長はこの土の中に何かがあるって伝えているんです。良く視ると確かに掘り起こした痕跡がありますよ。掘ってみましょう。』

 

 立花『ちょっと待って。鑑識を呼んでの方がいいんだけど…なんの確証もないから呼べないし。手袋持ってますか?素手だと証拠が汚染されますから、手袋を用意してください。』

 

 尚樹が社殿に戻り神主から軍手とスコップを借りてきた。立花は白い手袋をし尚子と尚樹が軍手をして、尚子が地面を掘り始めた。掘り始めてすぐに白いビニール袋のようなものが見えてきた。スコップの手を止めさせ立花が手で袋の周辺の土を払いながら袋を取り出した。袋の中には二十センチ位の小型の黒いビニール製のバッグが入っていた。立花がファスナーを開けると注射器と白い粉の入った、小さな透明の袋が三つ出てきた。

 

 立花『これは!覚せい剤かもしれません。至急、鑑識に回して確認します。あなた方にも神社関係者にも聴取が必要になります。捜査本部に連絡してここも調べないといけないわ。』

 

 尚子『ちょっと待ってよ。神社に警察が来たらそれこそ神社の評判が悪くなるじゃない。』

 

 尚樹『神社とは無縁ですよ。守護神ミケ様が男が隠した事を教えてくれたんです。ここを調べて何が出るのかはわかりませんが、大々的に警察が神社に入るのは止めてください。』

 

 立花『そういわれても…わかりました。捜査本部に戻って村西管理官に報告して伝えます。少し時間をください。』

 

 立花刑事は電話で管理官に一報を報告したのち、袋を持ち神社を後に捜査本部に向かった。本部内は立花刑事の報告にどよめいていた。事件以来、全く進まなかった捜査に進展があったかもしれない。捜査員達は藁にもすがりたい思いだった。村西管理官だけは冷静さを保ち考えを巡らせていた。警察庁からの要請で捜査に加えた探偵社、そこに向かわせた刑事が殺害された男の痕跡を発見した。

 

 村西『あの探偵は何者なんだ。藤見さんに詳しく聞く必要がありそうだな。』

 

 村西は尚樹と尚子の顔を思い浮かべていた。捜査本部内は立花刑事の到着を首を長くして待っていた。事件から二カ月が経ち捜査が行き詰まり、捜査員が聞き込みに本部を出る事も少なくなった。このままでは未解決のまま捜査本部が縮小される事になるだろう。立花刑事からの一報は捜査員の士気を高める結果になった。捜査本部に立花刑事が到着した。

 

 立花『管理官、戻りました。これが発見されたバッグと中身です。』

 

 村西『覚せい剤か?おい、すぐに鑑識に回して確認だ。立花、状況を説明してくれ。みんな、捜査会議を始める。立花からの報告を聞くぞ。』

 

 立花『はい報告致します。…ありのままを報告しますが…変な奴だと思わないでくださいね。』

 

 立花刑事は神社で自分が見た事、聞いた事、起きた事を、自分が着いた時から不審物を発見するまで時系列で事実のみを報告した。神社の守護神が現れ探偵社の黒猫に教え、黒猫の誘導で土の名から発見した事…信用出来ないような事も全て、捜査会議で説明し報告した。そして最後に神社への聞き取り調査をしない事、現場の鑑識調査は近隣に警察が入った事が、わからないように極秘にする事。この二点を探偵社から要請されている事も加えた。報告が終わった時、鑑識から不審物の調査結果が届いた。

 

 一課長『立花巡査の報告を信じないわけではないが…守護神のお告げと言われてもな。』

 

 鑑識『失礼します。不審物ですが覚醒剤と判明しました。注射器には使用した痕跡はありますが、人の皮膚片や血痕など特定に至るものはありませんでした。』

 

 村西『そうか。仕様した痕跡はあるが、皮膚片や血痕が付着していないのは妙だな。立花、殺害された男が隠したと探偵社の者は言ったんだな。』

 

 立花『はい。嘘を言っているようには思えません。』

 

 村西『彼らの御機嫌を損ねたくないな。神社の発見場所の調査は最小限の人数で極秘に行う事にする。鑑識班も私服で参拝客を装って、神社に行くようにしてくれ。この件で神社関係者への聴取は現時点では行わない。立花、明日からも引き続き探偵社と行動を共にして逐次報告を頼む。』

 

 立花『はい、わかりました。』

 

 立花ひとみは尚樹の携帯に電話を掛けて、拾得した粉末が覚醒だった事を伝えた。そして翌日の朝九時に尚樹たちのいる神社に向かった。社務所の奥の部屋で待っていた尚樹達の部屋に入り、不審物が覚醒剤だった事を改めて伝えて注射器に使用した痕跡はあったが、血痕などは検出されなかった事も伝えた。鑑識班からは使用済みの注射針には、必ず血痕が付着ると指摘があった事も伝えた。

 

 尚子『使用した形跡はあるのに、証拠が残っていないって…なんか変ね…』

 

 立花『ええ、鑑識班も首をひねっていたわ。それと現場の捜索ですが…』

 

 尚樹たちの要望通りに鑑識の捜査は、極秘で周囲に悟られないように行う事を伝えた。そして現時点では神社関係者への聴取を見送った事も報告した。報告が終わると尚樹達に次の行動をどうするのか聞いてきた。バッグや袋からは身元を特定できるものはみつかっていない。

 

 尚子は注射器に証拠になりうるものが、残されていない点が気になっていた。尚子は被害者の身元特定や殺害した人物像の調査が必要だと考えている。わざわざ神社に覚せい剤を隠した、しかも使用した注射器まで入れて。何か理由があるはずだ。単純に覚醒剤がらみの仲間割れで、被害者が覚醒剤を持ち逃げしたのなら、もっと大量の薬がみつかったはずだ。わずかな量と注射器入りのバッグを隠す必要は無い。見つかった覚醒剤の量やまるで使用者が隠し持つ為に、近くの茂みに隠しておいた風な感じが偽装工作のような感じがした。

 

 尚子『使用時実の注射器とクスリを少し隠していったのは…私はやっぱり神社に何か関係があると思うの。』

 

 立花『本条さん、それは神社関係者が関与しているという事ですか?』

 

 尚子『そうではないわ。ねえ、尚子でいいですよ。私もひとみさんって呼ぶから。』

 

 尚子の推測はこんな感じだった。神社に覚醒剤に関与している疑いをかけ、神社が困る事になって利益を得たい人達。どんな利益を得たいのかはわからないが、そういった連中が関与して動いているのではないか、という推測だ。誰が使ったかの痕跡にない覚醒剤と注射器…神社の関係者が使用していると、嫌疑をかける為という事なら納得できる。しかし実際に神社関係者が関与していたのなら、守護神ミケが放置してはおかないだろう。

 

 尚子『境内に中に埋めて置いたのは神社の誰かが使った証拠にしたかったんじゃないかしら。神主さんなのか社務所で働いている人なのか…この神社で働いている人が使っている事にしたかった。もしそうなら神社の関係者に犯人側から何か接触があったと思うわ。覚醒剤が埋めてあったっていうだけでも風評被害になりそうだけど、それほど大した事でもないわ。神社には多くの人が参拝に来るんだもの。だから神社の人から陽性反応が出なければ、神社にとって打撃にはならないと思う。殺害された被害者の事は神社関係者は知らないみたいだから、被害者以外の人との…何か怪しい感じの接触があるかもしれないわ。神社の人達に確認しようよ。』

 

 ひとみ『聴取でなくて聞き取りね。でも警察関係者の私がやるのも…』

 

 尚子『じゃあ、それは私と響子さんでやるわ。所長と尚樹さんは殺害現場で聞き取り調査をお願いします。ひとみさんも一緒に行ってください。』

 

 尚樹『了解致しました。刑事さんが一緒なら安心だね。』

 

 ひとみ『聞き取り調査はもう何度もやったわ。犯人らしき人物の目撃者もいないし…』

 

 尚樹『守護神ミケ様が周辺の者に協力するように伝えたようだから、案外早くわかるかもしれませんよ。』

 

 ひとみ『…?』

 

 響子と尚子、尚樹とノアールとひとみ、二手に分かれて捜査が始まった。尚子は神主に説明した後、まずは神主の話を聞いた。神社には一般企業でいう総責任者の宮司がいる。その下に神主と呼ばれる神職の者が三名いた。日下部は権宮司ごんぐうじという役割で一般企業なら副代表と言った感じになる。その下に権禰宜ごんねぎと呼ばれる者が二名、巫女が三名と事務作業をお願いしている女性が二名だった。

 

 日下部は心当たりが無いと言った。ここ数年は神社を出る事も少なく、新しく知り合った人もいないそうだ。権禰宜二名に話を聞いたが二人とも、神職の修行と神社の維持管理で忙しく、思いあたる事はないらしい。事務作業の二人は近くの主婦でアルバイトの感じだ。今日はもう帰った後だった。巫女三名は一人は高校生のアルバイト、二人は大学生だそうだ、今日は大学生の一名が社務所で勤務していた。その巫女に話を聞いた。

 

 巫女『ここ数カ月でですか?いないですよ、うちは親が厳しくて門限が八時なんですよ。夜遊びも出来ません。』

 

 尚子『そう。でも大学生ならコンパとかあるでしょう。』

 

 巫女『ありますけど…ここだけの話、彼氏もいますからね。』

 

 響子『なんで、ここだけの話なの?』

 

 巫女『だって巫女って処女じゃないと駄目なんでしょう』

 

 響子『ふふふ、今どきないよ、そんなのは。未婚が条件だけどね。』

 

 巫女『そうなんですか、なんだ。』

 

 尚子『あとの二人はどうかな~?』

 

 巫女『高校生の子は真面目でいい子ですよ。もう一人は…人の悪口は言いたくないんですけど、あんまり好きじゃないです。結構、遊んでいる感じで巫女のバイトも、いいバイトが見つかるまでって言ってたし。そう言えばいいいバイト先が見つかりそうって言ってましたよ。』

 

 遊んでいる感じという巫女は大学二年生の子だった。明日はその子が出仕する日になっている。高校生の子は明後日出仕する。念のため高校生にも確認する事にした。関係者の聞き取りは巫女の二名と、事務職の二名を残し終わった。現時点で怪しい影はみられなかった。それ以外に神社に出入りする関係者は、庭の剪定や補修工事の業者くらいだそうだ。業者が覚醒剤の陽性者でも神社の痛手にならないだろう。気になるのは明日出仕する大学生だ。尚子はその巫女の履歴書を見せて貰い、表情や目の輝きを確認している。野生の勘で何かを掴もうとしているのか…。

 

 尚樹はひとみの案内で事件現場に向かった。河川敷の現場はすでに立ち入り禁止の囲いも解かれ、何もなかったような感じだ。知らない人がみたら殺人事件の起きた現場だとは思わないだろう。雑草の生い茂る周りと比べて、踏み固められた感じが残っているだけだった。二カ月前、まだこんなには雑草も育っていなかった時期、河川敷に降りる道から男の死体はすぐに見えたはずだ。

 

 尚樹『時間が経ち過ぎているから僕には無理か…』

 

 尚樹は遺棄現場に残っているかもしれない《感触》を感じ取ろうとしてみた。遺棄現場付近で座り込んで目を閉じて、微かにでも残されていないか何かを探っていた。やがて立ち上がり大きくため息をついた。現場には残っている感触は何もなかった。すでに二カ月以上が経過していて、残留思念や諍いで生じた波動も消えていた。

 

 ノアールが辺りを見渡し鳴き声を上げた。透明な美声…まさに成熟した女性の歌声だった。ひとみは尚樹とノアールの後ろに立っていた。尚樹とノアールの様子を戸惑いながら観察している…この一人と一匹は何をしようとしているのか、不可思議な感覚でみつめていた。尚樹が立ち上がった。

 

 尚樹『やっぱり所長にお願いしますか。目撃者が見つかったみたいですよ。』

 

 尚樹が立ち上がり振り返った時、ノアールが鳴く事をやめた。彼女の見つめる先に二匹の猫が座っている。白黒のブチ猫の雄と白茶のマダラ猫の雌だ。二匹は河川敷を降りノアールの元に近づいてきた。前まで来ると座り込み話しかけるような仕草を見せた。ノアールは二匹の間に座り話を聞き始めた。尚樹も猫達の思う事を感情の波として捉えていた。ノアールと二匹は言葉ではなく思念で話している。立花ひとみからには無言で見つめ合う、三匹の猫が眼に映っているだけだ。

 

 ひとみ『猫が…』

 

 尚樹『この二匹は事件現場を目撃したようです。ノアール所長が詳しく聞いてくれるでしょう。残念ながら僕にはこの子達の思念や感情はわかりますが、詳細までは把握できそうもありません。もう少し進化した猫なら話す事も出来るんですけどね。主神ミケ様の指令で協力する為にきたのでしょう。』

 

 猫の中にもいろいろいる。人間と同じように考え行動する猫…尚樹は《進化した猫》と呼んだ。餌を食べる事や甘える事くらいしかできない猫…尚樹は《原始の猫》と呼んだ。集まってきた二匹は原始の猫からは進化しているが、尚樹の言う進化した猫までには至っていないようだ。尚樹が意思を読み取れるのは進化した猫で、原子の猫の意思を明確に読み取る事は出来なかった。

 

 ノアールは近隣では姫神様と呼ばれ猫達に崇められている。流石に四国の地まで姫神様の噂は届いていないが、黒い身体から発するオーラは猫達に威厳と風格を感じさせた。透き通った瞳は敬愛する存在である事を感じさせる。二匹の猫達はひれ伏すようにノアールに自分達の見た光景を伝えた。

 

 一言も発せず見つめ合う三匹の猫。ひとみには不思議な光景だった。猫達はノアールに見た事や聞いた事を全て伝えようとしている。人は猫の言葉がわからないが、猫は人の言葉を理解する。ここで起こった事、話された会話を彼らは見て聞いていた。十分程の時が経ちノアールが『ミャ~』と鳴き、二匹の猫の頬を舐め礼を言うと、二匹はノアールの足元を舐め河川敷から去っていった。

 

 ノアール『ミャ~、ミャ』

 

 尚樹『ひとみさん、神社に戻ってからみんなに話すって言ってます。戻りましょうか。』

 

 ひとみは何が起きたか理解出来ずキツネにつままれたような顔で、ノアールを抱いた尚樹の後に続いた。社務所の奥の部屋では尚子と響子が話し合っていた。内容は今回の事件の事ではなく、四国に来てから起こった事だ。響子にはみえなかったが主神が現れ黒猫と話をする…そしてそれを聞く事の出来る能力を持つ尚樹。ノアールの不思議な力と行動…興味深い事はたくさんあった。

 尚子は包み隠さず全て話した。久能響子、この人は信頼できると直感が告げているようだ。尚樹と出会った葵の事件、時空の旅人ビャクヤの事、男鹿とフィンランドでの事、叔母、紗栄子の会社がらみの事件の事。事件のあらましと解決への経緯を詳細に説明した。響子も紗栄子の会社の絡む事件は知っていた。尚樹が猫の感情や思考、思う画像を受け取る力がある事を初めて知った。

 

 響子『話を聞いていて思ったわ。尚樹君と尚子ちゃんとノアールさん。あなた方が出会ったのは運命だったんだと思う。話の内容が凄すぎて頭がパンクしそうよ(笑)。』

 

 尚子『うん、私も運命だと思ったの。だから卒業と同時に探偵社に入っちゃった(笑)。ノアールちゃんと会った時もね、初めてって感じがしなかったんだ。』

 

 響子『しかし凄い能力よね。警察が興味を持つのもわかる気がするわ。優秀どころの話じゃないもの…どんな事件でも解決出来そうだよ。探偵社としては凄い武器だね。』

 

 尚子『そうですよね~。でも尚樹さんが嫌がるんですよ。あの人って根性無しで喧嘩も弱いし。だからこういう事件も受けるのは、猫ちゃんが絡んでる時だけなんです。戻ってきたみたいですね。』

 

 尚樹達が神社に戻ると、駐車場に数台のワゴンカーが停まっていた。ひとみが『鑑識班が来てますね』と小声で告げた。警察の鑑識班は二台に分乗し、大きめのザックを背負って私服でやってきた、ザックの中には鑑識に使う道具が隠されていた。社務所に向かう途中、参道から覗き込むと辺りを気にしながら、袋の埋まっていた場所を調べているのが見えた。捜査本部の村西管理官は約束を守ってくれたようだ。

 

 ひとみ『ただいま。聞き取りはどうでしたか?』

 

 尚子『少し気になる事はあったわ。巫女のバイトの子なんだけど…その子は今日は休みなの。明日にならないと何とも言えないね。鑑識の人達がきてるわよ、あれなら警察ってわからないわ。村西さんも一緒に来てるわ。そっちはどうでした?』

 

 ひとみ『う~ん、私にはよくわかりませんでしたよ。』

 

 尚樹『情報は仕入れてるはずだよ。取り合えずノアール所長の話を聞きましょう。僕が通訳します。』

 

 ひとみ『管理官にも聞いて頂きましょう。』

 

 ひとみが現場に行き村西に声をかけ部屋に招き入れた。部屋の中にホワイトボードが用意されて、ノアールの話を尚樹が聞きホワイトボードに書こうとした時、ひとみが難色を示した、悪筆の尚樹では無理だと思ったようで、結局、尚子が書く事になった。ノアールが猫たちから聞いた犯人像も尚子なら絵に描く事が出来る。ノアールが尚樹に伝え始め尚樹が、日本語に変換して話し始めた。そして尚子がホワイトボードに書いていった。

 

 ノアール『ミャッ、ミャミャミャ』

 

 尚樹『四人の男が河原で話しをしていたそうだ。』

 

 村西『何が始まったんだ?君は何を言っているんだ。』

 

 尚子『管理官さん、ちょっと静かにして。目撃情報を纏めるんだから。』

 

 村西は尚樹が口にする事が理解できない。地道な捜査で証拠を積み上げ犯人を確保する。それが村西の…警察の捜査だ。猫の鳴き声と怪しい探偵の言葉の捜査会議などあり得ないのだろう。理解は出来なかったが尚子の言葉を受け入れ、黙って尚樹の言葉を聞く事にした。立花ひとみも久能響子も、ノアールと尚樹に視線を集中させていた。尚樹がノアールの言葉を伝え始めた。

 

 河原には最初は一人の男がいた。そこに三人の男が現れ話をしていたらしい。白茶マダラの猫は茂みの中で寝そべり、白黒のブチ猫は河川敷に下りる道の上にいた。白黒ブチ猫の傍に車が停まり、三人の男が河川敷に降りていったようだ。三人の一人が河川敷で待つ男に『鮫島』と声を掛けたようだ。三人が鮫島の近くに行くと、鮫島は声を掛けた男に『霧矢さん』と応えたらしい。霧矢と呼ばれた男は体格も良く鮫島と同じくらいの大男だった。後ろの二人は一人が紳士的な感じでスーツ姿、もう一人は黒のズボンに黒の長袖ティーシャツだった。

 

 霧矢『鮫島、ブツは仕込んできたのか?』

 

 鮫島『ええ、言われた通り茂みに埋めてきましたよ。』

 

 霧矢『見られてないだろうな。』

 

 鮫島『参拝客も多い神社ですよ。人の少ない時を狙いましたがね、何人かとは会いましたよ。まあ、埋めるところは見られてませんけどね。後ろの二人が依頼主ですね。高そうな服を着てますね』

 

 霧矢『お前が気にする事じゃない。ほら、報酬だ。』

 

 鮫島『…たった二十万かよ。俺は知っているんですよ。後ろの二人の素性も何を企んでいるかもさ。こんなはした金か…どうするかな~、チクっちゃうかな~(笑)。ねえ、霧矢さん。』

 

 後ろの二人が霧矢に話しかけている。霧矢が振り返り二人と小声で話していた。三人の会話は小さく白茶マダラ猫にも聞こえなったようだ。スーツ姿の男が黒シャツの男に首を動かし何か指示した時、黒服の男がいきなり鮫島に襲い掛かった。右手にかぎ爪をしており最初の一撃は首に刺さった。声を出す間もなかったようだ。背中を向けた時、二撃目が背中を上部から下部にかけて引き裂いた。霧矢は顔面が蒼白になりスーツ姿の男をみていた。男はチョウハバ!というと慌てて車に引き返した。霧矢は鮫島の持ち物やポケットの中も探り、すべて持ち去っていった。

 

 車に戻ると黒シャツの男が運転席に、スーツ姿の男は後部座席に乗った。霧矢が後から助手席に乗り込むと、車は走り去っていった。白黒ブチ猫は後ろのドアが空いた時、中にいた女性の姿も見ていた。

 

 村西『遺体は鮫島という名なのか?霧矢だと…』

 

 尚子『管理官さん、知っているんですか。』

 

 村西『ええ、一人思い当たる男がいますよ。』

 

 尚樹『化け猫のせいにした傷はかぎ爪だったんだ、チョウハバって日本語じゃないよね。』

 

 響子『以前、新宿で台湾系マフィアの取材をした時があるの。確か中国語よ、出發?、こういう字よ。う~ん、出発するとか、行くぞみたいな意味よ。』

 

 村西『霧矢と中国系か台湾系の連中か。調べてみよう。他にわかった事があれば立花に伝えてくれ。立花、頼んだぞ。』

 

 村西は慌てて捜査本部に戻っていった。社務所の部屋ではその後も会議が続けられた。ノアールが二匹から受けた画像を尚樹に送り始めた。殺害現場での四人の行動や体型や人相などだ。後部座席にいた女性の顔は見れなかったようで靴しかわからなかった。スーツ姿の男はぽっちゃりした体形で、顎ひげを蓄えたオールバックの髪形だった。黒シャツの男は霧矢や鮫島よりも五センチ程背の低い筋肉質の男だ。鮫島の身長と比較するとスーツ姿が百七十センチ、黒シャツが百七十五センチくらいか。

 

 ノアールから受けたイメージを、尚樹が尚子に伝えていった。尚子はスケッチブックに受けたイメージを描き始めた。車の形や色、河原で四人が話す姿。殺害された状況や凶器のかぎ爪。そして四人の体型や似顔絵だ。女性の靴も描いていた。車のナンバーは残念ながらわからなかった。

 

 尚子『スーツの男が霧矢という男と共謀して、神社に対して何かをしようとした。その為に鮫島を雇い神社に覚せい剤を埋めた。鮫島が金銭を要求し脅すような事を言ったので、黒シャツの男に殺害させたってところかしらね。SNSの書き込みもタイミングが良すぎるわ。』

 

 尚樹『神社に対して何か企んでたって言うの?』

 

 尚子『ええ、そうじゃないと辻褄が合わないでしょう。』

 

 ひとみ『その似顔絵とか捜査本部に持っていきたいんだけどいい?』

 

 尚子がコピーしてひとみに似顔絵を渡した。似顔絵が四枚、体型や服装もわかるものが四枚、事件現場での描写が三枚。合計十一枚の絵を持って立花ひとみは神社を離れ、捜査本部に向かった。部屋を出る時に『私が戻るまでは捜査はしないでください』と言い残した。かぎ爪を使って人を殺めるような危険な連中だ、どんな危険が及ぶかわからない。素人の探偵に害が及ぶのを心配したようだ。この時まだひとみは尚子の事を知らなかった…。

 

 行き詰っていた捜査が猫の探偵社・黒猫のノアールの協力で動き出した。お松大権現の事件は思った以上に複雑でな事件だった。

 

  後編に続く。


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