プロローグ【神話】
御閲覧ありがとうございます。
この小説には、多少残酷な描写が含まれています。
あと、これはあくまでファンタジーでありフィクションです。実在する団体等には一切関係ありません。
遥か昔、大いなる神は人間界と魔法界の二つの世界を創造した。
人間界ではその名の通り『人間』が栄え、独自の文化より生み出した機械技術を基盤としながら繁栄していった。
魔法界では『魔法族』と呼ばれる生命体が栄え、大気中を漂う『魔素』を利用した技術である『魔術』を基盤としながら繁栄していった。
二つの世界は空間の違いという隔たりに遮られ、数千、数万、数億年に渡って、一切干渉することはなかった。
干渉のきっかけとなったのは、人間界で起きたとある問題である。
人間界は科学技術の発達により、世界の支配者である人間の生活面での向上は著しいものだった。
しかし生活が豊かになればなるほど個人の欲求、愚鈍なる欲望は留まることを知らずに肥大化していき、遂には自分達の世界を破壊し始めた。
森林伐採により大地は枯れ、排気ガスにより大気は汚れ、河川に溶け込んだ有害物質により海は荒んでいく。
少しずつ、それでいて確実に、人間界は人間が住める世界ではなくなっていった。
そして、今更どうしようもないところまできて事態の深刻さに気付き、漸く焦りを見せ始めた人間達はそれぞれの知識を寄せあって打開策を練り始めた。
だが、科学技術に頼り自らの欲望を満たすことばかりに費やしてきた頭では、この窮地から脱する良案など浮かぶはずもなく、ただただ無駄な時ばかりが過ぎていった。
その様子を憐れに思った神は、助け船として人間に魔法界の存在を伝えることにした。
人間界を捨て、魔法界に移住するという選択肢を与えたのだ。
そして、人間が自らの過ちを振り返り、猛省し、魔法界にて新しい文明を築いていくことを期待した。
神より魔法界の存在を告げられた人間は歓喜し、これまでの世界を捨て去ることへの不安や後ろめたさを感じながらも、異世界への渡来を決行したのである。
結果は残念なもので、人間の本質がやはり欲深いものだと証明するものとなった。
渡来して数年の間こそは自分達とは異なる文化、『魔術』を操る魔法族が繁栄する世界に戸惑っていたものの、暫くして慣れが出てくると、過去の繁栄が恋しくなってしまったのだ。
再び科学技術に手を伸ばした人間達。加えて魔法技術も取り組まれ、その欲望には拍車が掛かり、歯止めの効かない状態になってしまった。
再び世界が壊れ始める。同じ過ちを繰り返す。
その影響は当然、先住民である魔法族にも及んだ。
人間は自分達の勝手な都合を棚に上げ、あろうことか世界を失った自分達を受け入れてくれた魔法族の住処を侵略し始めたのだ。
魔法族も抵抗はしたものの、何分数が多い人間を押さえきれず、住処を奪われる魔法族は続々と増え続け、やがて魔法界の平和は、秩序は、法は崩壊した。
法を失った魔法界は『魔界』となり、法を失った魔法族は『魔族』となった。
これが、科学と魔術、人間と魔族が存在するこの世界における神話である。
あくまで神話であり、それが真実であるかは分からない。
だが、確かにこの世界は魔界と呼ばれ、人間がいて、魔族がいて、科学があって、魔術がある。
そして確かに、退屈な時間を刻みながら、世界は止まらずに進んでいるのだ。
これは魔界に広がる最大の人工都市、『帝都ヴァルハラ』を舞台とした、とある少年少女の物語である。
次話から本編です。