夢薬
「お前は怖いだけだ。真実を知りたいはずなのに。」
私を嘲笑するかのようにあいつが言う。
ずっと出てこなくて安心していたのに。
「そんなことない。でも、あんたは何かを知っているの?」
私は囁く。
「お前は、レオンのことをまだ知らない。私は知っている。仕事場に行けば何か分かるだろう。」
△△△△△
あんな奴の言うことを真に受けて今仕事場に来ている自分が悔しい。
でも、今回ばかりは何かとても大切なことな気がする。
仕事する部屋に向かって歩いているとレオンが速足でどこかへ向かっているのが見えた。
「レオン。」
ふと言いかけて止めた。
レオンには部屋で安静にしているように言われていた。
だから今日は黙ってきたのだ。
ふー、と深いため息をついて行こうとしたとき、
「やはり、来たんですね。」
田村さんがいつの間にか立っていた。
丁度良かった、レオンに黙っておくように言わないと。
「ご案内しますよ。」
意味深気に言った。
そこで、私は田村さんがあいつと何か関係があって私がここへ来ることも分かっていたんだ、と気が付いた。
田村さんを少し睨みながら頷いた。
△△△△△
田村さんは、私の働いていた場所とは違う部屋へ私を連れて行った。
二つの部屋が繋がっていて奥の部屋は研究室のようだった。
「出てくる。少しここに隠れましょう。」
急に田村さんが私に囁き、私たちは急いでロッカーの影に隠れた。
すると、研究室からレオンが出てきた。
なぜ、レオンがいつもの仕事の部屋ではなくここにいるのか、疑問に思ったが今はばれないようにするので精いっぱいだった。
レオンが部屋から出ていくと田村さんが動き始めた。
「大丈夫です。ちょうど昼休憩の時間。しばらく戻ってこないでしょう。」
何が何だか分からない顔をしている私を田村さんは研究室へ連れて行った。
△△△△△
研究室には薬品や図面がいっぱいにあった。
レオンの机と思われる場所にチューリップが花瓶に刺さっていた。
図面を見るとこの研究は何年もかけてされているものだと、素人の私でも分かった。
「レオンは戻ってこないけれど、他の人は大丈夫なのですか?」
少し冷静さを取り戻して尋ねると、この研究は私とレオンの二人でしているのだ、と田村さんは答えた。
「この研究はとても内密なもので、レオンが始めたい、と言ってきたんだ。もう五年になる。いつも、君が手伝っていたのはレオンがこちらの研究を始める前にしていたものだ。みんなの目を欺くための。」
レオンは私のことも欺いて何を研究していたのだろうか。
「こっちに来て。研究内容の資料を見せよう。」
これ以上は知ってはいけない、と胸騒ぎがしたがここまでリスクを冒して来たのだから迷いはない。
田村さんが渡してきた資料を見ると
夢薬
と書かれていた。
夢薬、なんてものは初めて聞いた。
一体に何のためにレオンはこれを作っているのだろうか。
「夢薬、これを飲むとぐっすり眠れる。それはそれはよく眠れる。死んだように。数時間じゃない。長いときは一週間。何も食べない、飲まない。それでも大丈夫なんだ。」
「そして、見たい夢を見ることができる。会いたい人に会う夢、話す夢、まるで現実と変わらない。五感があるんだ。」
それだけ聞くと良い薬ではないか、私も見たい夢はたくさんある、と思った。
私がそんなことを考えているのが分かったのだろう。
田村さんは微笑みながらこう言った。
「確かに、幸せな薬だ。夢の中だけでは夢が叶う。でも、人は幸せを掴むと現実との違いの重さに耐えられなくなる。耐えられなくなった人間は、永遠の夢を手に入れたくなる。」
「つまり、死ぬのか、薬を使い続けるのか。」
確かにそうだ。
一度使い始めたら辞められない、薬物と同じなのだ。
そんな薬をレオンはなぜ。
永遠に見たい夢があるのか。
会いたい人がいるのか。




