眠り
私たちの間に子供ができたことが分かったのはそれからしばらくたってからだった。
嬉しかった。
レオンにどんなふうに伝えようか、喜んでくれるだろうか。
△△△△△
病院の検査が終わって外に出ると桜の花びらが顔についた。
いつの間にか暖かくなって、これならコートもいらなさそうだ。
「お久しぶりです。」
ふいに声をかけられた。振り向くと田村さんが立っていた。
相変わらずつかめない、表情をしていた。
「お久しぶりです。」
結婚式でバタバタして、それからも会社にはなかなか復帰できていなかった。
だから無視するわけにはいかず、かといって話すつもりもなかった。
軽い会釈をして立ち去ろうとすると
「いやあ、元気そうで良かったです。今度こそ、レオンさんには奥さんと幸せになってほしいですし。何よりも雪さんはお優しいですね、あんなことがあったレオンさんを受け入れて。」
全く心配していないくせに、幸せなど願ってないくせに、どこか煽るような言い方でそう言った。
一気にさっきの嬉しい気持ちがしぼんだ。
あんな事って、何なのだろう。
でも、この人に聞いてもこの人の思うつぼだ。
「ありがとうございます、失礼します。」
不安な顔を全力で消して、微笑んで速足で家に帰った。
△△△△△
家について報告を待っていたニコニコメイドに結果を伝えると、泣いていた。
レオンにどんなふうに伝えるのかの悩みと、さっきの田村さんの言葉の真相が頭でぐちゃぐちゃになっている。
そうだ、ニコニコメイドに聞いてみればいいんだ。
我ながら良い名案だ、と思いながら彼女を呼んだ。
「レオンの過去を知りたいの。」
彼女の顔が一瞬で曇った。
「旦那様の過去、ですか?」
何か、とても大切な、私が知らねばならないことがある、と悟った。
「ごく普通ですよ、人よりも顔が良くて、性格も素敵。何よりも雪様を愛している。」
私が知りたいことはそうじゃない。
ニコニコメイドは何かを隠している。
もうこれ以上彼女は話す気はないんだと思った。
久しぶりに私の中のあいつが高らかに笑っている。
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レオンが帰ってきた、とニコニコメイドが部屋に呼びに来るまで私は眠っていた。
とりあえず、今は暗い気持ちは置いといてレオンに嬉しい報告をしよう、と決めた。
「私、レオンとの子を妊娠したよ。」
クシャっとした顔でレオンは喜んだ。
そして、ありがとう、と言いながら私を抱きしめた。
彼の頬を涙が伝っていたのを私は知っている。
レオンの腕の中は暖かい。
私は不安を抱えながら、それでも今の幸せは本物だ、と思いながらレオンの腕の中で眠りについた。




