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夢物語  作者: ぐんてねこ
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ほんの少しの夢

このお話は、予想通りには進みません。か弱い女の子が突然イケメンに溺愛されて幸せ、という話ではありません。

誰かに愛されたい人生だった。そのままの私が良いのだと言って、ずっとそばにいてくれる人。そんな人がいてくれたらどんなに良かったか....



そんな人はいなかっただろう、だから今ここにいるのだろ、と私の中のもう一人の私が囁く。もう黙っていてほしい。あなたの思い通り、今から死ぬんだから。



よくドラマや映画で見たヒロインはこんな時に涙が出てきて、それを運命の人が見つけて助けに来てくれる。何度私の運命の人はどこで何をしているのだろう、こんなにぼろぼろの私をなぜ助けに来てくれないのだろう、と思ったことだろう。



生憎そんな運命の人は迎えに来ず、傷付いたからだとぼろぼろの心だけが残っている。風が冷たい。「涙も出ないわ。からっから。」そう呟いて柵に手をかけた。



早くしろ、早くしろとあいつが急かしてくる。



目を閉じて手を放す瞬間、その手を誰かにつかまれた。「ここにいた、僕の運命の人。」この人は何を言っているのだろう。いや、これは幻聴だ。もう死んだんだ。2回目だ、怖くない。



その声は温かくて、私はその声を聴くと同時に意識を失った。



△△△△△



目を覚ますと何たるイケメン、んっ、めっちゃイケメンがこっちを心配そうに見ていた。

「やっと目を覚ましたか。体は大丈夫なのか?」

「はい。」



やめてほしい。そんなに安心した顔でこちらを見ないでほしい。死のうと強く決めていた私に、もう大丈夫だ、と思わせないでほしい。せっかくの決意が無駄になる。




「あの、お世話になりました。もう行かないと。」

名前なんて興味ない。他人にかかわらない。逆に興味を持ってほしくない。もう何年もそうやって生きてきた。そうしたら傷付くのは最小限で良いから。



あっけにとられているイケメンを置いて部屋を出た。それにしても広い。お城みたい、というのが素直な感想だった。とても高い天井、長い廊下。隅々まで掃除がされているのだろう。窓から入る日光できらきら光っている。



「どこに行かれるのですか?」

あと少しで玄関というときに後ろから呼び止められた。振り返ると、映画で見るようないわゆる執事が立っていた。年齢は60歳くらい、声は優しいのに冷たい瞳をしている。



「どうせ行き場所はないのでしょう。なにせ死のうとしていたんですからね。あなたにはここしか居場所はないのですよ。だから選択する余地もない。ここにはすべてがあります。あなたが欲しがっているものも。ねえ、雪さん。」



ゾッとした。なぜすべてわかっているのだろう。なぜ私の名前を知っているのだろう。そんな疑問が次から次へと出てきた。逃げられない、逃げたらいけない、と直感で思った。手に汗が出てきたがばれないように服で拭いた。



「何が望みなの?」

ただ真っすぐに聞いた。



「なに、簡単なことです。ここに住んでただ旦那様に愛されていれば良いのです。」

執事は微笑んだ。願ってもないことだ。何もしていないのに、何も知らないのに、話したこともないのに、愛される?意味が分からない。



「あなたは誰からも愛されてこなかった。愛されたかったのに。旦那様なら愛してくれる。何もしなくても、最初からあなたを愛している。あなたは実際に助けてもらったでしょう?彼は、あなたをずっと探していたんです。」



確かに言われた。助けてもらったときに愛しい人、だと。本当に私を探していたの?何のために?どうして私を知っているの?ダメだ、疑問が多すぎる。でも、言われたとおりで行く当てもない。どうせ死のうと思っていたんだ。神様、死ぬ前に一度だけ愛されたい、少しだけ夢を見ても良いですか?

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