お天気の神様
いきなり、ズシーンッと地響きが鳴る。
遠くの方で土煙が舞っている。
皆、その異変に驚いていたけど、齢を取っている人の中には慣れている人がいて、“お天気の神様”を選んだ年には、よく起こる事だから心配するな、と皆をなだめていた。
ぼく。
ぼくは、黙っていたけれど、その“足音”には思い当たる節があって、内心では少し焦っていた。
あれは、ぼくがやったのじゃないか?
そう思う。
……日照りが続くと、ぼくの住む町では、誰かが“お天気の神様”の役目に選ばれる。“お天気の神様”に選ばれると、選ばれた人は雨が降るまで“お天気”の祠に寝泊りしなくちゃいけない。つまりは雨を呼ぶ為の儀式なんだ。
“お天気の神様”を選ぶのは、その前の時に“お天気の神様”に選ばれた人という決まりがあった。別に子供を選ばなくちゃいけない決まりがある訳じゃないのだけど、どうしてなのかいつも子供が選ばれるらしい。そして、その年の“お天気の神様”に選ばれたのは、なんとぼくだったのだ。
ぼくは当然、理由を尋ねたのだけど、その人はそれを教えてくれなかった。もっとも、それは毎度の事らしい。禁止されている訳でもないのに、選んだ理由を選んだ人は決して口にしないのだとか。
“お天気”の祠に寝泊りする暮らしはとても退屈だったけど直ぐに慣れた。そして、異変は慣れ始めた三日目くらいから起こったと思う。
夢を見たのだけど…… その夢が妙なんだ。視点は空の上。雲の隙間から町らしきものが見える。それはぼくの住んでいる町に思えた。ぼくは多分、大きな何かになっている。寒くもないし、暑くもない。ぼくは好奇心にかられて、一歩足を進めてみた。すると、
ズシーンッと地響きが鳴った。
ぼくは慌てて、足を引く。そこで夢は覚めたのだけど……。次の日、ズシーンッと大きな足音が響いたんだ。恐らくは、ぼくが足を下ろしただろうその場所に。
ぼくは、まさか、と思ったよ。そして、その辺りから妙な予感があったんだ。
その次の日、雨が降った。
皆はそれを有り難がった。だけどぼくは複雑な気持ち。何故なら、その前の晩、ぼくは寝小便をしてしまっていたからだ。この雨は、つまりはそういう事なのだろう。
ぼくは理解する。
いつも子供が選ばれていたその訳を。寝小便をする癖があるのなんて子供しかいないだろうし。そして、今度ぼくが誰かを選ぶ時はその理由をぼくは決して言わないだろうとそう思った。
だって、あの時皆が喜んだあの雨が、実はぼくの寝小便だったなんて、口が裂けても言えるはずがないじゃないか。