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創界のモノロギア  作者: こーき
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 一夜明けた。

 昨日のおっさんから聞いた話によればセシルにてお祭りというのがあるらしい。

 俺たちはセシルに向かうために移動を始めた。今までしぐれがどういう生活をしていたか知らないが、何故か普通の生活が出来る位の貯えがあるらしい。

 俺は今稼ぎなど無いのでしぐれに借りているわけだが情けない気持ちで過ごしている。資金面の事も視野に入れながら計画を立てなくてはと思う。

 昨日おっさんから聞いた話をしぐれにしたところ、クリードの事もアイザックの事も知っていたらしい。

 簡単にまとめるとアイザックってやつは奇妙な技?を使い人を操るらしい。

 アイザックの行った政治家殺害事件では証人の一人が監視官の一人がすんなりとアイザックを建物内に入れたのを見たらしい。だが、その監察官は記憶がなく警察に問い詰められた所喉を掻き毟りそのまま死んだそうだ。

 警察はマフディーの存在を明らかにしアイザックに指名手配をかける。その三年後アイザックは警察に何の抵抗もなく捕まったそうだ。警察はその事実を伏せてアイザックを捕まえた事を報道する。その報道に映ったアイザックは半年後セシルから出てくることを宣言したそうだ。

 そしてクリードはすべての武道を極めそれを一つにまとめ独自の流派を開拓した男だそうだ。クリードは無類の喧嘩好きでことあるごとに飲みの場等で暴れるたびに警察のお世話になっていたそうだ。だが王が変わりクリードの家族が人質に取られクリードは監禁されたそうだ。王の権威のために捕まった男として今では侮蔑される方が多いそうだ。

 だからしぐれは昨日の酔狂なおっさんの話を信じていない。

 まあ、とにかく今日という日がアイザックが宣言した脱獄の日だそうだ。何かあるとすればアイザックが脱獄するために大きな事をやらかすつもりかもという話だった。

 衆人環視の中どうやって脱獄するのか俺は興味があった。

 しぐれは興味がなさそうだったが俺がクリードの技術を盗みしぐれの目的に近づくということを約束するとしぶしぶ了承してくれた。

 広場についた俺たちは絶句した。その驚くべき人の多さに。人々は皆家族や友人と談笑しながら事が起こるのを待っている。

 俺はそんな人々の顔を見て吐き気がした。

 自分は関係ないと、自分が巻き込まれるはずがないというような根拠のない自信に満ち溢れなのに自分が何か事件に巻き込まれると被害者面をする無能ども。楽観的に物事をとらえるな。

 気分が悪くなってきたのでしぐれに一言謝り一旦その場から離れようとする。が、俺がその場から離れるのを阻止するように拡声器から男の声が流れ始めた。

「あー。私はアイザックだ。元気かい?神や王に頭を垂れるだけの脳足りん共。」

 挑発的な物言いに対して声色は落ち着いている。人生の吸いも甘いも経験したかのような印象を受けた。

 周りは口々に「誰が脳足りんだ」や「人の事を舐めるな」とか抜かしている。言いたいことがあるなら相手に伝わるように言えばいいのにと思うがアイザックの一挙手一投足に注目する。

 セシルにはとてつもなくデカい要塞のような建物なのだが窓などは無く、ドアも入口の一つしか無い。誰がどう考えても脱獄など出来るはずもないのだ。

 皆が固唾を飲んで見守る中扉が勢いよく開く。

 セシルの中から赤髪の男が悠然とこちらに向かい歩いてくる。

 誰かが呟いた。

「あ、アイザックだ。」

 俺はそこでようやく歩いてくる男がアイザックだと認識する。

 その男は拷問でも受けえた後のように体中はあざだらけだった。だがそんなものは無かったかのように余裕そうに微笑みを浮かべながら、心底楽しそうに歩いてくる。そしてちょうど門とドアの中間の位置に来ると突如止まる。

「さあ、祭りだ!楽しもう!脳足りん共よ、狂え!踊れ!舞え!」

 アイザックがそういうと上から飛来物が落下してくる。

 俺は当たらないように少し距離をとる。その直後民衆から悲鳴が上がる。何事かと思い目を凝らすとそこに落ちていたのは監視官や警察の生首だった。

 俺もこういった現場に立ち会わせたことがないので気分が悪くなる。ふとアイザックに目をやるとこちらを見てにやりと笑っているような気がした。

 視線を逸らしながら上を見やると筋骨隆々な男が片手に三つの生首を持ちながら見下している。

 またその生首を無造作に投げ始める。ただごみを捨てているかのように。

 俺は直感的にあの男がクリードなんじゃないかと感じた。

 しぐれに歩み寄り話しかける。

「おい、あの上の男がクリードだろう?なら話は無理だ。あいつには話が通用しなさそうだ。」

 そういうとしぐれは不思議そうに首を横に振る。

「なに言ってるんだ?普通にあそこに居るのがクリードだ。」

 そう言ったしぐれの指の先にはこそこそと逃げようとしている男が居た。

 俺と視線が合うと額から汗が一筋流れた。

「いや、逃げようとかじゃなくてね。ちょっとそこの木陰でトイレでもと思っただけで。」

 俺を警察か何かと勘違いしているんだろうか。言い訳じみたことをごにょごにょと言っている。俺は何だか気が抜け、誤解を解こうと男に話しかける。

「いや、別に俺は警察でも何でも無いんだけど。」

 そう言うと男は目をニ、三度ぱちくりとさせる。数秒の沈黙の後に男は突如として激昂した。

「紛らわしい事するな。ったくよ、迷惑な野郎だな。じゃあな、俺は家族に会いに行くんだ。こんなしけたとこにずっと居られるかってんだ。」

 そう言って男は早々に歩き出す。俺はあまりの唐突さにしばらく呆けていたが本来の目的を思い出す。

「なあ、あんた本当にクリードなのかい?もし本物なら俺を弟子にとって欲しいんだけど。」

 俺がそう言った時男は立ち止まりくるりとこちらを向く。俺は少し構えながら男の一挙手一投足に注視してみる。だが気づいた時には男は俺の目の前まで来ていた。

「俺は弟子はとらねーんだ。いや、とれねーんだ。誰もついてこれねぇ。死んじまうからな。」

 そのまま男はこの場を去ろうとする。だがこんなとこで俺も止まってはいられない。ここで生き抜く、戦い抜く力がいるんだ。

「待ってくれ。」

 男を呼び止めたとき俺の後ろで衝撃が走る。何事かと振り返るとそこにはアイザックと生首を投げていた大男が立っていた。ちらと後ろの方に視線をやると広場に集まっていた人々は全員死に絶えていた。

「どこに行くんです?あなたは共に行こうと誓ったじゃありませんか?」

 アイザックはそう言って俺のさらに後方にいるクリードに語り掛ける。だがクリードは知らないとばかりに首を傾げる。

 クリードのそんな態度に腹が立ったのかアイザックは隣の大男に向けて喋り始める。

「ルインさん?あなたはもう殺し足りましたか?」

 そんな物騒なと思っていると大男はまだまだと言うように首を横に振る。それを見たアイザックは口角を吊り上げる。

「ならやっていいですよ。そいつら二人とも。」

 そう言い残してアイザックはこの場から去っていった。大男はやる気満々といった様子で俺の後ろにいるクリードも同様だった。俺だけが置いてきぼりのような状況になっていた。

 死にたくないと思い俺は両の拳を握りしめる。するとクリードが喋りかけてくる。

「おい、その手袋は何だ?お前まさか。」

 クリードの言葉を遮るように大男は俺に殴り掛かってきた。間一髪の所で攻撃はかわせたが俺は尻もちをついてしまい次の行動に移れなくなってしまった。

 俺は敵うはずがないが左手で攻撃を防御しようとした。恐怖で目をつぶってしまったが、なかなか攻撃が来ないので目を開けてみてみると大男は俺の左手をみて攻撃を中止していた。

 意味が分からなかったがチャンスと思い態勢を立て直す。

 クリードは感心したように俺の方を見ている。大男は気を取り直しまた殴り掛かってきた。だがクリードが俺の前に出て大男に向けて拳を振りぬく。

 俺の目にはただの突きに見えたのだがその突きは大男の腹に穴をあける。大男は流れ出る血を手で押さえて止めようとしている。冷静な判断等出来ぬまま大男は本能のまま悶え苦しむ。

 その様子を侮蔑でも恐怖でもなく無表情で眺めるクリードに少し恐怖を覚えた。そしてクリードは俺の方に向き直る。

「おい、俺の修行は厳しいぞ。」

 俺は一瞬その言葉の意味が分からなかったが数瞬遅れて理解する。

「俺、アドルフって言います。」

「そーいや名前聞いてなかったっけな。まあ、知っているとは思うが俺はクリードだ。」

「私はしぐれです。」

 急に割り込まれた声に俺は驚きを隠せなかった。

「しぐれ!?お前今までどこに。」

 しぐれは俺の言葉を遮りながらまあまあと宥めてくる。納得はいかないがクリードに師事してもらえることになったんだ。まあ、良しとしよう。

 この時から少しずつ歯車は回りだした気がした。ゆっくり、ゆっくりと破滅へと誘う美しい歌声で。愚かな俺たちは騙されているとは知らずに踊り続ける。道化のように。





 続

話のネタより先にあとがきのネタが尽きるとは。

ここから少しづつ強くなっていくアドルフを応援してもらえたらなと思います。

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