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創界のモノロギア  作者: こーき
3/4

END OF SORROW

 夜になって空にふと視線をやると月が輝いていた。

 月を眺めていると少し感傷的になってきた。昨日俺は意図せずに人間じゃなくなった。だから困ったというのは今のところはないのだが、周りの人の何不自由なさそうな顔が見ていて少し腹立たしかった。

 何故あの時俺はあの現場に向かったんだろうか。妹は大丈夫だろうか。学校と職場にはもう行けないな。心配事は色々溢れてきたがそれを胸の内にしまい俺は今俺ができること、俺がやらなければいけないことを整理しようと思い立つ。

 その前に気を引き締める為に顔を洗おうと思い、しぐれに洗面所の場所を聞く。小さく礼だけを言い洗面所に向かう。洗面台の前に立ち鏡を見たとき俺は衝撃のあまり絶句した。

 俺の姿形がおよそ人間とはかけ離れていた。髪は銀色になり瞳は片方だけが緋色に染まっていた。そして最も驚いたのが俺の左手の手のひらには口が出来ていた。パニックになりそうな頭を押さえて冷静になって情報を整理してみる。髪や瞳はおそらく雷禅のものが移っているのだろう。何せ雷禅の命を俺が貰い俺は人間じゃなくなったのだから。だが一体何がどうなれば手のひらに口が出来るというのだろう。俺が考えても結論が出そうにないし、気味が悪いので手袋をして手を覆い隠した。そして顔を洗いまたしぐれのいる部屋に戻った。





 ※※※※※





 開口一番にしぐれに聞いてみたが反応は思っていた通りだった。手のひらの口の事なんて知らないというのは一般的だろう。一旦俺はそのことを忘れて咳払いをして話題をリセットする。しぐれの目を見て今後の方針を立て始める。

「何をするにしてもとりあえずは仲間と力が欲しいな。しぐれはマフディーに最初からなっていたのか?」

 俺にとっては重要な事を聞いてみた。もし後天的にマフディーになれるのだというのならそれは俺自身の戦力増強にも繋がり戦略の幅が広がるからだ。だが問われたしぐれの表情は少し申し訳なさそうだ。

「それに関しては力になれそうもないかなぁ。私生まれた時からこうだったからさ。」

 声色だけは明るく目の奥には思い出したくもない事を思い出していそうな暗い輝きに俺はつい見とれてしまう。

 だがそうなると当面の間は仲間を集めるという方針になるのだが、王都では人々は5人以上の徒党を組んではならないという法律が存在する。これは反逆の意思があるかもしれないということで3世代前の王が作った法律だ。だが俺たちが相手にしようとしているのは世界なのだ。5人以下で世界を壊すなんて言っているのはただの気狂いだ。俺は気狂いではない。制御は出来ないが力も手に入れ一人だけだが仲間がいる。変えていけるんだと思った。しぐれは俺の顔を見て少し二ヤけてこちらを見ている。

「なんだよ。」

 少し不満げに照れ隠しをするような言い方になってしまった。

「何でもないよ。」

 そう言ってしぐれは話はこれきりというように「よっ」と言って立ち上がった。そして振り向きざまにこちらに「都で色々な人たちに聞き込みして情報を集めようよ。」といった。確かにRPGの基本中の基本だよなと思い、少し顎を動かししぐれに了承の意を伝える。昼になってから行動を開始しようと思ったのだが、昼では俺の姿が目立ちすぎるので却下となった。結局は夜に行うこととなった。夜に都で酔っ払っている人に聞こうという作戦だ。思い立ったが吉日ということで俺たちは今から都へ行くことにした。





 ※※※※※





 夜の都は昼とは違い歓楽街のようになっている。

 皆仕事の疲れを癒そうとしたり、見たくもない現実から目をそらすように快楽に身を溺れさす。

 勧誘の女の子はほとんど裸に近いような格好で男性を誘い、そのまま店の中に消えていく。裏の方の店になれば値段は一か月の給与位の金額をとりそして払えないとなると当たり前のように暴力をふるう。自分は人の上に立っていると勘違いしている単細胞。力だけがすべてだと思い込んでいる年だけを取っている大きな子供。だが自分より強い者にはへこへこと頭を下げて媚びへつらう蛆虫のようなやつら。見ていて反吐が出る。俺は殴り掛かろうかと思ったところで思いとどまる。今の自分の力がどのくらいか把握してない状態だと危うく殺しかねないと思ったからだ。

 俺は踵を返し表の方に歩いていく。少し行ったところで千鳥足になっている男性を発見した。様子を見てみるとその男は少し歩いたところで建物を背にして座り込んでしまった。これ幸いと俺はゆっくりとした歩調で男に近づく。俺で街灯に照らされていた男に影が重なる。男は俺に気づき視線を上げる。

「なんだ?お前。俺は酔ってねーぞ。」

 最初こそ大きな声で言っていたが徐々にその声には覇気がなくなっていく。俺は男のそばに腰を下ろして男に喋りかける。

「なあ俺最近ここに来たばっかでさ、よくわかってないんだよね。武道をやっているんだけどこの辺で強い人とかいるの?」

 俺のその言葉に男は反応した。

「お前武道やってんのか。それにしては線が細ぇな。この辺にはな名のある武道家なんて腐るほどいるぜだがな俺が一番気に入ってんのはクリードってやつよ。あいつはなどんな武道家も太刀打ち出来ない位の技を使うらしくてな十戒っていうんだとよ。」

 男は自分の事のように嬉しそうにそう語った。それになと男は続ける。

「明日は何でもセシルでお祭りをやるそうだぜ。」

 気持ちよさそうに語る男の話を聞き流しながら考える。セシルというのは王都一の監獄で脱走者は百五年間零だという話だ。逃げ出すものも、刑期を終えてでるものも。そんな物騒な監獄でお祭り?意味が分からないが囚人同士で殺し合いでもさせるのだろうか。そう思っていると男も似たようなことを考えていた。

「きっとな囚人同士で拳闘とかすんだ。俺はな明日が楽しみでよ。そりゃぁ酒が進むってもんよ。初めて見れるんだもんよクリードの戦いがよ。」

 クリードというやつは名が知れている割には誰も戦闘姿を見たことがないようだった。疑問に思い男に尋ねてみる。

「クリードってやつは謎が多いのか?」

「そりゃそうよ。何せ戦った相手は全員死んでるんだからよ。」

 なるほど相当の腕を持っているようだった。ただそこまで強いと仲間になってもらうのはあきらめた方がいいだろう。せめて技術を少しでも盗もう。

「そのお祭りっていうのはいったい誰が言い出したんだよ。」

「アイザックの野郎さ。あいつはやっぱ頭がおかしいからな。」

 初めて聞く名にオウム返しをしてしまう。

「アイザック?」

「そうさ。王都では有名な犯罪者だよ。巷では犯罪王なんて呼ばれてるな。」

 犯罪王なんてたいそうな名前だなと思っていると広場の巨木の木陰にしぐれの姿が見えた。もうすぐ日の出の時間だろうか。早々に話を切り上げて退散しようとする。

「色々ありがとなおっさん。それで明日のどこで祭りをやるんだっけ?」

「セシル前の広場でやるんだとよ。明日は楽しもうな兄弟。」

 少し話しただけで兄弟かと苦笑を浮かべながら俺も同じように口にしようとした。だが返事の続きは出なかった。

 小走りでしぐれの元に行く。しぐれは「もう日が昇るぞ。」と手短に言うと都に背を向けて歩き出す。

「待てよ。」しぐれに聞こえたかは分からないが俺は一言そう言って歩き出す。この時は明日あんな惨劇が起こるなんて知らなかった。知らない事は罪なのかもしれない。知らないというだけで犯罪が犯罪じゃなくなるということは有り得ないのだから。





 続

書くことが楽しくて毎日投稿しています。

まだまだ書きたいことがあるので是非読んで頂けると嬉しい限りです。

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