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第16話

 それでは、早速ことに移ろうか。


 俺は目の前で爛々と目を輝かせて、これからのデートに思いを馳せる美智ちゃんに向かって最悪な言葉を贈る。


「ごめん。ちょっとブリブリしてくるね。待ってて」


「ブリブリ?」


 美智ちゃんは驚きを隠せないのか、目を点にして汚い言葉を復唱する。


「ブリブリだよ。ブリブリ。尻からひり出す行為のことだよ。アイドルじゃないんだから分かるよね?」


 俺は少し苛立ちを込めた声を出す。お嬢様でもねぇんだから分かるだろ?と。


「……えっと………うん。キッタない言葉だけど……うん。行っておいで」


 美智ちゃんは今まで見たこともない、無表情で心なしか瞳の光彩も失われた気がする。そうして、まるで園児を送り出すように俺に言葉を告げた。


 それはやはり、鈴木の友達である。彼女のような態度もこなれたものなのかもしれない。


 そうして、俺が駅の構内に向かって、帰ってくると、先ほどのまでの笑顔に戻っていた美智ちゃんとのデートが始まった。


 今の数分で立て直すなんてやるじゃないか。でも、これはジャブみたいなもんだ。


 ここからさらに達也の株を下げに下げまくって、俺の株を上げ倒してやろう。


 俺と美智ちゃんはまず初めに、やはり駅の隣にあるデパートに向かった。


 なにやら、彼女は季節の先どりか知らないが冬服を買いたいようだ。


 


 


 


 彼女は目についた店に入る。


 そこは伝説の星型王子みたいな名前の店であり、売っている服はライブキッズ御用達のような品揃えである。


 彼女はダボっとした黄色のスウェットを手に持って、自分の体に合わせている。いやいや。お前さん。冬服はどうしたよ?と声をかけたいがぐっと我慢し、俺は「いいね。似合ってる。それでフェスとか行けばいいさ」と思ってもない言葉を吐く。


 彼女はその言葉に満面の笑みでこちらに振りかえる。


「うん。これでテントに入ってヤりまくりだね」


 何か聞こえた気がしたが、無視して先に進もう。ここで嫉妬して癇癪を起しても無意味である。

 ちくしょう、、、達也のやつ。そんなことしてたのかよ。童貞仲間だと思ってたのに。


 彼女はもういいのか、小一時間、その店で買わないだろう服を物色し、また別の店でこれまた冬服ではないシャツだの、ジャケットだのを楽しそうに見て、最後には「冬服はちょっと早かったかもね」と残念そうにつぶやいた。


 は?なんだそれは?と言いたい。小石がのどに詰まったような気持ちになりながらも、なんとかこれも修行。彼女が出来たときに狭量な男だと思われぬための修業。と思い込み、その場を凌いだ。


「あ、私もトイレ!」


 服屋を見回った後に、喫茶店に入って彼女の第一声。


 彼女はテーブルに着くや否や、グラスが90度の角度で反り返るほど傾むけて、コーヒーをがぶ飲みする。


 何故に付属のストローを使って飲まないのか不思議な顔をしている俺に見せつけるようにグラスをテーブルにターンッと置いた。


 そして、飲み終わった瞬間、利尿作用でも効いたのかすぐに小学生みたく宣言してくる。


 私もトイレって。………俺はトイレではないし、お前は便器とデートするのか?いや、私もってことは便器同士のデートになるのか?と馬鹿な言葉が頭に思い浮かぶ。


 その内、彼女がすっきりした顔でトイレから戻ってくると、こちらを見て、「お花摘んできた」とアホな言葉を吐いたとき、俺はため息が零れた。


「お花って………なに?」


 俺はついに彼女の奇行に自分のことは全て棚に上げて、注意するためについに重い口を開いた。


「お花だよ。黄色いお花。」


「やめろ」


「茶色もあるよ」


「おい!」


「へへ」


 彼女はそこらの小学生みたくアホみたいな鼻から抜けた笑い声を漏らした。


 なんなんだ。この女は?俺は一瞬、沈黙し、「疲れちゃったね?」とすっ呆けた顔をして、彼女に声をかける。


 彼女はその後も、「へへ、それはもうジョロジョロやったで」と言っていたので、もう何がなんだが分からなくなってきた。


 俺の中の美智ちゃん像が崩れていく。音もなく崩れていく。いや、彼女の発する擬音と共に崩れ去った。


 俺は彼女をはめることばかり考えていたが、こんなことは想定外だ。彼女は仲のいい人間の前では、こういった本性をさらけ出すのだろうか?


 というか俺が女に幻想を抱き過ぎていたのだろうか。それとも、これがこの世界の真理なのだろうか。

 鈴の音のような儚い声で、キャハハと笑う清廉潔白淑女は画面の中にしかいないのであろうか。


 悩まし気に頭を抱える俺に、彼女は再度、笑顔で「達也くん。見て見て、変顔」と己のブス顔を前面にさらけ出してくるが、もうお腹いっぱいになり、食傷気味になっていた俺は「へへ、可愛いね」と適当に相槌を打った。

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