第10話
それは冬のある日の出来事だ。
「はい、これ忠光の好きなやつ」
そう言って従妹の宮 亜里沙ちゃんが俺に博多名物「とおりゃんせ」を渡してくる。このおやつはモルドセレクション金賞なんだよ!!と嬉々として説明する宮ちゃんに俺は笑って受け取る。
そのモルドセレクションなるものが金で買える、お飾りセレクションであることは周知されている昨今、彼女のような無垢な少女もそうはいまい。
それに、そんなことで水を差して、「そっか。金で買える安い賞なんだ………こんなもんに騙されて、子供みたいにはしゃいで買ってきてごめん」なんて謝られたら目も当てられない。
俺はホクホク顔で菓子を一つ取り出し、何も知らないという顔で菓子をほおばった。
まあ、普通に美味しいのだが。
彼女はたまに俺の家に来る。
だいたい三ヶ月に一度くらいのペースだ。なんだかんだ、亜里沙ちゃんとは馬が合うし、彼女もそう思っているからだろう。
俺は菓子を食いながら、茶を啜り、彼女と一緒にこたつに入って世間話を始める。
「そういえば、亜里沙ちゃん最近、高校はどう?なんか部活とか入った?」
「ううん。お姉ちゃんも入ってないし、私も入ってないよ」
「そうなんだ。沙代里はなんか彼氏できたんだってな?」
亜里沙ちゃんには双子の姉がいる。なんというか、SNSが好きで、友達も多く、彼氏も一週間周期で変わっていくギャルである。
亜里沙ちゃんとは正反対の娘である。
「うん。私も出来たよ!お姉ちゃんは知らないと思うけど」
亜里沙ちゃんが満面の笑みをこちらに向ける。
「へぇー………へ!?彼氏!?は!?」
「う、うん。そんなに驚かれると照れるなぁ」
油断していた。こんな小さくて下の毛も生えそろっていないような亜里沙ちゃんに彼氏とな?
俺は最低なことを考えながら、彼女にどんな男なのか?ブスか?ブスなのか?ブスであれ!!部活はなにか?成績は?将来性はあるのか?と聞き込みを開始した。
なんでも、最近流行りのSNSで知り合った男らしい。
姉と同じである。
二、三度会っているらしいが、優しくて、金も持っているらしい。この辺で何かひっかかりを覚える。
高校生とは大体金を持っていない。めっちゃバイトしてる奴とかかな?
週7バイトとか、、、親の扶養外れるレベルで働くやつか?
俺は彼女に教えてもらい、そいつのプロフィールを確認する。
「うんうん。確かに顔はカッコいいな。………えっとなにこれ?」
名前がローマ字表記は良いとしよう。いや、俺は本名をSNSに乗せてる奴は全員馬鹿だと思っているが。まぁよい。
それでいて、/で区切っては大学名、部活名、後は住所まで書いてあるな。個人情報晒しまくりだな。………えっと最後の「挑戦する人間を求めています!!」って何?
後は「投資運用!!」、「副収入!!」、「自由な時間と自由なお金!!」って。
ああ、これ駄目なやつだろ。
「ちなみに亜里沙ちゃん、彼、何歳って?」
「知らない。でも大人の男って感じだったよ!!」
「ほうほう。後は、なんか高い車とか、高い服とか持ってた?サングラスかけてた?あと、アクセサリーいっぱいつけてた?」
「すごい!超能力!?なんで分かるの?」
「うーんと、どうだろ。海外旅行とか誘われた?」
「あ!そうそう!来月行くの!!」
子供のような笑顔でこちらに身を乗り出して、肯定する亜里沙ちゃん。
シャツが垂れ下がり、胸が見えそうになる。
そう、もうちょっと前に!
いや、俺が後ろに下がれば!!
いやいや、違う違うそうじゃない。
というか。おい。役満にもほどがあるだろうが。
俺は静かに携帯を置くと、彼女に居直る。
「えっと………その人の彼女って亜里沙ちゃんだけ?」
「どういう意味?」
亜里沙ちゃんは怪訝そうな顔になって、持っていたお菓子を置いて、言う。
まぁ遠回しに浮気されてんじゃねぇの?って聞いてるんだしな。怒るのも無理はない。
「えっとじゃあ。とりあえず、今度、俺も会っていい?」
「え?………じゃあ今度、一緒に彼の友達とかで開かれるバーベキュー大会もあるし、忠光も来る?」
断れると思ったが、事はスムーズに進行した。しかしながら………
「ああ、えっとわかった」
おいおい。それはもう、役満ってレベルじゃねぇぞ!!
最後にそんな大事な情報を持ってくるんじゃねぇよ。海底撈月か?どんな確率だよ。
頭の中でビンゴと鳴りながら、分かりづらい例えしか出てこない。
それほど、俺は困惑していた。
そして、俺は地雷だと分かっていながら、彼女の彼氏に会いに行くことにした。