その7
「たっくんが帰ってこないのはどうしてだろうか???」
私はたっくんを愛している愛花。どうして帰ってこないのか、その理由を探っている。
「残業かしら???たっくんに残業を押し付けるんだったら、その病院を滅ぼせばいい。たっくんのことを考えない人間たちに生きる資格はないのだから……」
滅ぼすと簡単に言ってみたけれど、それでは実際、どのようにすればいいのだろうか???
「それとも……ひょっとして浮気かしら???だったら、その相手をまずは抹殺するしかないわねえ……」
私が仮に殺人を犯したとする。もちろん、完全犯罪を目指すのだけど、万が一ばれてしまったら、私は当分の間、たっくんと離れ離れになってしまう。
「でも、たっくんも悪いんだよ。やっぱり、私の傍から1ミリでも離れて欲しくないのに……お医者さんって仕事は立派かもしれない。たっくんに口をきいてもらえる人間どもは、本当に運がいいと思う。だって、最悪の場合死ぬことになるかもしれないのだから。でも、たっくんに救ってもらえば、そんなことは心配する必要はない……私は全て知っている。たっくんはどんな病気でも治すことができる。でも、こんな私を救ってくれることはできないのねえ……」
私はずっと死んでいる。器用なものだ。たっくんと一緒にいるときだけ、生きていればいいのだから。後はこうして、ずっと死んでいればいいのだから……。
「たっくんが浮気する相手は誰だろう???」
浮気と仮定して話を進める。前提が間違っていた場合は、可能性を全て破壊すればいいだけのこと。考える時は一つの可能性に絞る。
「私よりも美しい人間、あるいは……たっくんと同じような考え方をする人間……ということは、非常に聡明で、尚且つ、著しく人間嫌いな女、そして、一つに執着することが本能である女、ということになるのかしら???」
だとすると、その相手は恐らく、たっくんと同じ瞳をした女医……ということになる。
女医!!!
私はこのとき直感した。それは、たっくんが毎朝職場に行くときの息遣いだ。よくよく聞き分けてみると、ときどき異様に亢奮していることがある。もしも、それがたっくんと不倫相手の逢瀬を示しているのだとしたら……???
私はいてもたってもいられなかった。
その答えはどこにあるのか……問いかけてみると、それはこの部屋のどこかに隠されている感じがした。男が不倫をすると、その証拠はどこかしらに存在する。それを手繰り寄せれば、こちらが追求することができる……。
私はたっくんの机に置かれている本類を全て投げ飛ばして、1頁ずつ確認することにしたのだった……。