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その3

 死ぬ、と簡単に人は言う。死ぬ、と簡単に愛花は言う。死ぬ、と簡単に僕は言う。


 何かプレッシャーを感じて、死にたいと思うことは、この世界では普通の現象になっている。実際、医師として働いていると、生と死は目の前にあるわけだから、僕は一際このテーマについては敏感になっている。


「ねえねえ、私がもし死んだら、たっくんはどうするの???」


「どうするって……死なないように、僕がサポートするしかないよなあ……」


 と、こんな具合で、真面目に返事をしてみる。


「でもさ、いつかは死ぬわけじゃん。その時はさ……一緒がいいよね???」


 よくよく考えてみると、僕たちが死ぬ頃、寿命はもっともっと延びているような気がする。愛花も僕も、ものすごく長生きだとすると、あと100年くらいは、こうして生活することになるのだろうか???あるいは、その前に終わっているのか……。


 100年と考えると、この愛を貫くのは簡単ではないと思う。まだ、おおよそ5分の1を消化している最中なのだ。愛花の言う通り、今後、たくさんの女性に会うことになる。その時、万が一、愛花よりも可愛いと思える女性がいたら?愛花よりも美しいと思える女性がいたら?


「たっくんは浮気なんかしないで、一生私のことを愛してくれるよね???」


 愛花はいつも、そう言うんだ。僕も分かっている。僕はあの時から、愛花を飼い慣らしている。それが僕の責務であり、どちらかが先に消えてなくなるまで、その責務が終わることはないのだ……。


 医師という非常に窮屈な立場に身を置いて、不謹慎ながら、死にたいと思っている……僕の毎日はそんな連続なのだ。



 そして、この日はまた、僕にとって忘れることのできない日になることが確約されていた。それは、僕の高校時代の恩師が倒れて、僕の勤める病院に担ぎこまれてきたところから始まる。愛花の顔を薄っすらと思い返しながら、僕は帰り支度を始めていた。愛花に言われた通り、なるべく早く帰らないと、愛花は再び悪夢のような発作を起こしてしまう。それは、僕にとっても、また、愛花にとっても非常にネガティブなことだったから、もう、あんなふうになるのはいやだったのだ。


 仕度を全て終えて裏口の玄関を出た瞬間、救急車から降ろされた見覚えのある男性に、僕は釘付けになってしまった。


「なるべく早めに処置をしないと手遅れになります!!!」


 そして、この日の当直者は大学時代から一応知り合いの、長崎出雲だった……。



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