その24
「こちらの部屋を使ってください」
長崎出雲に案内された部屋は、広くてとても一人で生活するのには寂しい空間だった。あるいは、何か見えない妄想を働かせるのには十分で、かえって怖い思いをするのではないかと、不安も感じた。
「食事などについては、私の方で用意しますので……。ああ、それとですね、隆司さんは明日から仕事に戻りますか???」
「仕事……ああ、そうですね。ここにいて安全が確保されるようならば、僕はもう仕事に戻っていいんですか……」
「隆司さんが戻って来ると、職場も活性化しますよ」
それは、彼女のみにあてはまることだと思った。でも、これ以上仕事をほったらかしにしていると、愛花に金を恵んでやることができないから……って、僕はここに来ても、まだ愛花のことを考えている。
不思議だ。愛花の狂気から逃げたのだ。僕は弱い。そんな僕が未だに愛花のことを考えているなんて。
「ああ、ところで……ご両親はいらっしゃらないのですか???」
僕は思わず、彼女に質問してみた。
「私はもう暫くの間、一人暮らしをしているものですから。親の顔なんて忘れましたよ」
彼女の懐には、何枚かの写真があった。いつ撮られたのかは知らないが、僕の写真が一つあった。そして、この屋敷の前で彼女がにこやかに笑っている写真……そこには恐らく両親や、他の召使たちが写っていたのかもしれないが、その部分は黒く塗りつぶされていた。
「ああ、察しました……」
別に、そんなことを察する必要なんてないんだ。家庭の事情に首を突っ込むと、面倒なことになる。それは、僕の場合も同じ……。
「燃えているわ……焦げ臭い……」
僕は最初、料理に失敗したのかと思った。だが、そう言うわけでは無いみたいだった。
「時々ね、私のことをよく思わない連中が、屋敷に忍び込んで火をつけるんですよ。隆司さんも気を付けてくださいね!!!」
気を付けるって……どうすれば???
「ああ、目を反らせば大丈夫ですから。ちょっと……始末してきますね!!!」
そう言って、彼女は部屋から出ていった。殺気立った長崎出雲の視線の先に何があるのか。
「どーでもいーや」
眠くなる。この部屋の特性か、あるいは、普段疲れまくっているからなのか、とにかく、僕は眠ろうと思った。食事なんかも全然いらない。とりあえずは休息が必要なんだ。




