その23
「こんな屋敷に、一人で住んでいるんですか???」
僕は思わず、そう叫んでしまった。信じられない。それはあまりにも可笑しな話なのだ。
「ええ、今はもう一人なのです……」
彼女は、静かに車を止めて、屋敷の入り口に当たる、小さな玄関に鍵を差し込んだ。
「ああ、本当なのですか???」
お出迎えがない。お嬢様、と呼ぶ人々がいない。ここはまるで、空白地帯……。これほどの日常を、彼女は一人で抱えきることができるのだろうか???お嬢様がお嬢様らしく振る舞うために必要となる全ての準備を、彼女は全て担うことができるのだろうか???
「あなた……すごいですね……」
小学生並みの感想で恐縮だった。でも、本当にこれが事実ならば、そうだと思った。
玄関が開いて、いよいよ屋敷に踏みいると、そこもまた、ただ広い空間が海のようにつながっているだけだった。普通ならば、調度品であるとか、あるいは、ゴージャスな装飾品が並んでいると思うのだが、そうではなかった。確かに、広さと言う意味ではすごいのだが、実に質素な造りをしていた。
「気になることがありますね。でも、今はこれしか準備できないのです……」
そう言って、彼女は屋敷を案内してくれた。地下に降りる階段の軋む音を我慢しながら、まずは大きな書庫を目の当たりにした。
「おじい様の代からコレクションされた本です。ああ、隆司さんも好きに使って頂いて構いませんから……」
これだけの本があれば、歴史を紡ぐことができる……そんな感じがした。
「どれくらいの数があるのですか???」
「そうですねえ……まあ、これでも随分と燃やしたほうなんですけどね……」
「????」
燃やした、とは、つまり、処分した、ということなのだろうか。
「おじい様が処分したのも多かったので……」
そう言って、彼女は書庫の扉を閉めた。
「さあ、上に行きましょうか。隆司さんにお使いいただく部屋を……ご案内いたします……」
ところで、先ほどから誰もいない屋敷であることには気が付いていたが、どうしてなのだろうか。この全ての空間に僕と彼女しかいない……不思議を通り越して、不気味だった。




