その22
その屋敷は、長崎出雲がお嬢様と呼ばれるにふさわしい佇まいだった。まず、城壁のように高くそびえ立つ壁と、その少し開いた空間に立つ荘厳な玄関を目の前にして、車は一度止まった。
「いま、玄関を開けるから……」
そう言って、彼女は車の中のボタンを押した。すると、鋼鉄の塊が少しずつ動き出して、車を通すのに十分なスペースができた。
十分開いたことを確認した彼女は、再び車を走らせた。そして、そのまま敷地内に入った。暗くて正確に見通すことは困難だったが、おおよそ整備された芝生のある庭を両サイドに数百メートルは進んだ。これはまるで、意味のある虚無な空間だった。人間が足を踏み入れることは恐らく許されていない。例えるならば、生き物にとっては楽園なのだ。彼女はその楽園を、恐らく姫様のように、屋敷の最上階から見守っているに違いない。それが、彼女にとっては至福のひとときなのだろう。
「ああ、私はなんてことをしているのかしら……」
なんて、言うのだろうか。そんな姿を想像しながら、車を動かす彼女をこっそりと見つめている。
「もうじき到着しますから」
彼女はそう言った。別に、早く到着することを求めているわけではない。むしろ、彼女とずっと車に乗っている方が、気が楽だった。だって、屋敷に到着したら、彼女の両親であったり、あるいは、メイドだったり、たくさんの人々が待ち構えているものだと思ったから。そんな人々に、一々どんな挨拶をすればいいのか、僕には分からなかった。
おおよそ、この世界の住人は大抵堅物なのだろうから、僕が何か言ったところで、反応することはない。僕だって、何か言って、気を紛らわせたいとは思う。でも、その方法が全くもって分からないのだ。
「ああ、心配する必要はありませんよ。ここには、私一人しか住んでいませんから……」
また当てられた。確かに、僕は迷っていた。その迷いを的確に言い当てるのは彼女だけだったのだ。




