その21
長崎出雲がお嬢様と呼ばれる所以は、当然のことながら、非常に金持ちの家出身であることだ。それは、僕からしたらまるで想像できない世界だった。
「どうして、僕なんかを???」
僕は質問した。彼女の答えは決まっていた。
「それはね、私が隆司さんのことを好きだからです!!!」
「またそうやって……」
僕は彼女のテンションが好きではなかった。そもそも、どうして僕のことを好きになったのか、その理由がいまいち分からなかった。冷やかしなのか、と考えると納得がいく。でも、彼女の場合は、納得のいかない仮説のほうが、案外しっくりくるようなのだ。
「本当ですよ。だって、私の初めてのキスが……あなただったものですから……」
これに関しても、ある意味ウソをつくことができる。まあ、世間の男に言わせれば、いまこうして、高嶺の花である長崎出雲と同じ空間を共有していること自体、それだけで十分なのかもしれない。僕が、その男たちの one of them であるとするならば、どれほど素晴らしいものであったのか、よく分かると思う。
彼女が車を運転し、僕は静かに助手席に座っている。車の免許は持っているが、ここは全て彼女に任せた方がいいに決まっている。そうでもしないと、僕は彼女の操る車を事故に巻き込んでしまうかもしれないのだ。ところで、彼女のようなお嬢様が一人で普段から車を運転するのかと言えば、それは決してない話だと思う。第一、そういうのは、親が反対するものだろう。金をかけて育てた子供ほど可愛いものはないはずだから。子供を失ったら、金では帰ってこない。ああ、たまに考えることがある。子育てとは金持ちの余暇なのだ、と。両親が早くに僕の前から姿を消したのは、やっぱり、貧乏だったから、なのかもしれない。つまり、僕を育てるのには不十分であると、神様か何かが判断したのかもしれない。だから……僕はこうして一人ぼっちになったのかもしれない……。
「隆司さん???いま、自分は一人ぼっちだって思ったでしょう???」
それにしても、彼女はどうして、僕が考えていることを、適格に把握することができるのだろうか。僕の脳みそを簡単に覗くことでもできるのだろうか。これについては、本当に不思議で、いつか、聞いてみたいと思うことの筆頭だった。
「まあ……そうですね」
「分かるんです。私も当分一人にならなくてはいけないのですから……」
彼女はそう答えた。その後は一言も話さずに、等々、屋敷と呼ぶにふさわしい、彼女の家の前に到着した。




