その20
「お休みお休みお休み……」
愛花のお休みには、安らぎの効果があるのだと思う。実際、愛花に言われて、僕はその後ぐっすりと眠ることができる。このように緊迫した状態なのだから、眠る時くらいはゆっくり……これは僕の願いでもある。まあ、その通りになっているので、よしとしよう。
「隆司さーん隆司さーん隆司さーん!!!」
これは、長崎出雲が僕のことを呼ぶとき、妙にテンションの高い声を響かせてやって来るのを表している。今まで、夢に彼女が現れたことなんてなかったはず……それなのに、今回はどうして???
そんな疑問を抱きながら、僕はそっと目を見開いてみる。彼女の声を耳にすると、僕はゆっくり眠ることも出来ない。そして、目の前に長崎出雲の姿があったら、余計に眠ることはできない。
「……………………」
僕は一瞬、叫びたくなった。でも、ここに愛花がいる以上、叫んではいけないと思った。愛花は相変わらず、ぐっすりと眠っている。寝言に、時々僕の名前を唱えながら。
「やっぱり、隆司さんはこの女に毒されているんですね……」
彼女はそう言いはった。
「それより……どうやって入って来たんですか???」
僕は目の前に、まるで泥棒のように易々と入って来る彼女のことが信じられなかった。
「だって、ベランダの窓の鍵、いつも開いているじゃないですか……」
「そうなんですか???」
僕はいまいち、事情を理解することができなかった。
「とはいうものの、ここは2階じゃないですか……」
「ええ、2階くらいだから、外の壁をよじ登るのは簡単ですよ???」
「はあっ…………」
お見事、とでも言えばいいのだろうか。言うなれば、彼女は立派な犯罪者である。でも……。その意図が僕にあるのだとしたら、帰って同情することもできると思った。
「さあ、こんな辺鄙な空間にい続けるのはよくありませんよ。どうですか、私の家に来ませんか???」
「長崎さんのお宅ですって???あの……」
「気にしないでください。私も一人では寂しいので……」
一人、と言う言葉に、彼女は重きを置いた。その意味が分かるのは、もう少し先のことだった。




