その19
1日、2日、3日……時間だけが過ぎていく。愛花は僕の職場に毎朝電話をしている。
「はい……今日も体調が優れないので……はい……よろしくお願いします……」
確かに、最近は優れない。愛花が大きな負担になっている。
「なあ、さすがにまずくないだろうか???」
僕は愛花の機嫌を損ねないように、なんとなく聞いてみる。
「なにが???」
愛花は分かっていてとぼけているのか、あるいは、本当に分かっていないのか、どっちなんだろう。まあ、どっちにしたって、今この瞬間、僕がどうにかなってしまうわけではない。
「そんなことを一々説明しないといけないのか……」
正直、僕はもっと激しく怒ってもいいと思うのだ。だって、愛花がいくら不機嫌になって、僕に茶碗を投げつけてきたって、あるいは、冷たい水を浴びせに来たって、あるいは、大音量のラジオを近づけてきたって、どのみち僕は生きているのだ。なにをされても、愛花の前で僕は生きているのだ。
でも、僕がこのまま生き続けると、愛花は死ぬことになる。だから、僕は少しだけ、いや、もっと大きな生き方の変化を見出さなくてはいけないのだ。
「ねえ、たっくん。私にとって、世界なんてどうでもいいから。人様が何を言おうと、私たちには関係ないから。だって、最初からこうだったんだから……」
確かに、最初から狂っていたのかもしれない。確かに、僕の人生が死と隣り合わせで、あるいは、生きることが最低限出来ても、その空気は絶望と虚無で充たされているのだ。愛花がいなければ、愛花が僕に手を差しのべてくれなかったら、僕はそのままアリのように生き続けることになっていたのだ。
まあ、今思い返せば、そう言う人生も悪くはなかったと思う。アリは何も考えずに生まれて死ねばいい。でも、僕は考えずに死ぬことがもうできないのだ。愛花の作ったミスリードプログラムに乗っかって、これから生活しないといけないのだ。
愛花はガチなのだ。
「そんな怖い目をして……最近のたっくんは不健康だね。やっぱり、私の愛情が足りなかったのかしら???」
愛情がありすぎて腐った木花……だが、育て主によって捨てられることも一切許されていないのだ。だから、僕はこうして愛花の世話を受けることになっている。
「ああ、もう眠くなったんだ。お休み、私のたっくん……」
そう言って、今日も愛花は僕の頬に口づけをする。




