その17
完全燃焼した愛花はやがて、眠りにつく。いくら、ケンカ腰である愛花も、さすがに眠る時は静かである。そんな愛花の寝顔を見ていると、僕はなにか煩わしいことを忘れることができるのだ。
「いつも、こんな感じだったら、僕は何も心配しないというのに。彼女と張り合わなくたっていいと思うんだが……」
僕は愛花が眠りについて、しばらくしてから、眠りについた。また明日から仕事……めんどくさいと言いたくはないが、実際のところ、大変なのは事実なのだ。
「いつか、私がたっくんを養う番になるからね!!!」
昔、愛花はそんなことを言っていた。なるほど、そうなったら、僕は嬉しいかもしれない。だが、残念ながら、愛花のように気性の荒い人間を雇ってくれる会社はそうそうない。おまけに、頭がよくない。だから、結局のところ、何もできないのだ。やっぱり、僕がずっと養い続けなくてはならないのか……そんなことを考えながら、僕は思考を止めた…………。
「っくん…………たっくん…………たっくん……たっくん……」
愛花がいつものように僕を呼んでいる……。もう朝なのだろうか。随分早く感じた。これも全て疲れのせいなのだろうか???そんなことを考えながら、起き上がろうとしても、身体が上がらなかった。
「ああ、おかしいなあっ。四肢麻痺にでもなったのかなあっ……」
そんなバカなことを考えている暇はなかった。生まれつきの寝坊人間だから、出勤までの時間に余裕がなかったのだ。というか……時計を見ると、既に9時をまわっていた。
「愛花!!!!どうして、もっと早く起こさなかったんだ!!!」
「たっくん、ダメだよ。叫んでもダメ。たっくんはいま、病人なんだから……」
「おいおい、意味の分からない冗談はよしてくれないか???それよりも……これはなんだ???」
気が付くと、僕は布団に拘束されていた。恐らく、愛花が僕を縛り付けたのだと思った。ここまでくると、もはや末期なのだ……。
「ああ、職場のほうには、私の方から連絡したからね。そしたらさ、あのバカ女が出てね、お大事に、だってさ!!!!」
愛花は嘲笑っていた。