その13
「ねえ、隆司さん。今この場で、私にキスをしてくれませんか???」
長崎出雲は急にそう提案した。僕はもちろん、その意味が分からなかった。
「何を言っているのよ、この泥棒猫が!!!!!」
愛花はさらに怒りのボルテージが上がっていった。だが、彼女はそんなことを全く気にしなかった。
「泥棒猫ではありません。私は純粋に隆司さんを愛しているのです。だから、キスをするなんて、全く問題ないではありませんか???」
「そんなのは全部ウソよ!!!」
「ウソではありません。私は本当に隆司さんのことを愛しているのです。ねえ、隆司さんも言ってあげてくださいよ。ねえ、あなたも私のことを愛しているのでしょう???」
彼女にこう迫られたのは初めてではないが、やはり、愛花を目の前にすると、相当のプレッシャーだった。
「さあさあ、隆司さん。私にキスをしてくださいな!!!」
「そんなことは……」
「ふざけないで!!!」
「ああ、隆司さんからしてくれないのだったら……私の方から…………」
彼女は僕の頭をそっと掴んで、本当にキスをした。僕は本当に彼女とキスをしてしまった。
「たっくん!!!どうして……どうしてどうしてどうしてどうして???」
「どうしてって、疑問を持つ必要はないでしょう。だって……私は隆司さんの恋人なのですから。恋人がキスをして何が悪いのですか???」
「そんなことは関係ない!!!」
愛花は怒りをぶつけるために、彼女の元にやって来た。
「察するに……あなたは単なる幼馴染なのでしょう。幼馴染が恋人になるのは結構でございますが……あなたは勇気をもって隆司さんに告白をしたことがありますか???」
「そんなものは関係ないでしょう!!!私はたっくんのことを最初から全部知っていて、それで、もちろん愛しています!!!ねえ、たっくんだって、そうでしょう???この泥棒猫にきちんと説明してやって!!!」
愛花にそう促されて、僕は何も言えなかった。本来ならば、僕は愛花のことが好きなのだから、彼女に直接それを伝えればいいだけのことなのだ。でも、僕はやっぱり、愛花のことを愛しているわけではないのだろうか。さあ、それは分からない。かといって、長崎出雲をなんだと思っているのか、それもよく分からない……どっちを考えても、これは非常に難しい問題だった。