その12
「たっくん……どうして???」
困惑する愛花を横目に、僕は長崎出雲を介抱した。彼女はずっと目を瞑っていた。衝撃で意識を失ったのか、あるいは……。色々考えるよりもまずは、病院に運んだほうがいいと思って、内部の職員を呼び出して、ストレッチャーを持ってきてもらった。
「長崎さん……大丈夫ですか???」
僕は何度も問いかけたのだが、彼女の反応はなかった。
「たっくん、それ以上関わるのはやめて!!!」
愛花は叫んだ。だが、僕は愛花の相手をするよりも、彼女の手当てをする方が先だと思った。だから、僕はそのまま彼女に付き添った。
「たっくん!!!ふざけないで!!!」
僕は愛花を無視し続けた。無視されてよっぽど腹が立ったのだろう、愛花は泣き出した。母親を一瞬にして失った小さな娘のように。一輪の花が空から舞い降りてきた。今度は、それを母だと思えばいい。もっとも、愛花には難しいことだと思ったのだが。
「たっくん!!!その女なんて、構わないで!!!」
「君の仕出かしたことだ!!!」
僕は我慢できずにそう言いはった。
「どういうことかしら???どうして、私がいけないの???だって、私はたっくんに集る寄生虫を排除しようとしただけなのに!!!」
「長崎さんは……寄生虫ではないよ……」
僕はそう言うのがやっとだった。僕にとって、彼女は何なのか。今まで真剣に考えたことはなかった。考えようとしても、何も浮かんでこない。まるで、未知なる数学の問題に直面した少年のように。空を見上げても、誰かが教えてくれるわけではなかった。
僕は……少なくとも、彼女と関わって、鬱陶しいという感情しか抱いてこなかった。時には面白くてふざけた女と思ったこともあった。だが、決して彼女を好きになることなんてなかった。僕の近くには、やはり愛花がいないと不安になってしまうし、愛花のことをずっと好きでい続けようとした。
でも、どうして僕はいま、世界を彷徨っている愛花に救いの手を差しのべようとしないのだろうか。そして、赤の他人である長崎出雲の方を見ているのか。愛花の方を見たくても、その視線は自然と、彼女の方に向いてしまう。
一体、どうしてだろうか???
「隆司さん……」
担架に寝かされていた長崎出雲がようやく目覚めたのか、僕の名前を呼んだ。もちろん、愛花が見ている目の前で。愛花は余計に苛立った。
「私のこと、好きですよね???」
「あんた、何を言ってるのよ!!!」
愛花が反論するのは当然のことだった。
もしも、僕と長崎出雲の唇が触れたなら……愛花はいよいよ、僕ら二人を消し去るのだろうか???