その11
「たっくん!!!何をしているの???その女から離れて!!!」
愛花は直接長崎出雲を指差して言った。
「あらま、とんだ邪魔が入りましたね……」
彼女はそう言って、ちッと舌打ちをした。
「あなたが……ひょっとして、たっくんのことを誑かしている長崎出雲???」
僕は、愛花の口から彼女の名前が出て来たことに驚きを隠せなかった。
「だとしたら……どうなの???」
彼女は相変わらず強気で、愛花の怒りを増すばかりだった。
「このバカ女が!!!」
愛花は完全に怒りモードになって、彼女の元に向かって突進してきた。
「やれるものなら、やってみなさいよ……」
彼女は怒ることもなくて冷静だった。と言うか……どうして、愛花が彼女の名前を知っているのか……さては、僕の卒業アルバムを勝手に開いたのか……そんなことを考え出した。
「あなた、本気で私を怒らせてしまったわね???もうこれ以上何を言っても、絶対に許さないから!!!たっくんに害を与える人間はみんなこの世界から葬り去るんだから!!!」
そう言って、愛花は丸腰でタックルをするかのように、愛花の腹目がけて突っ込んだ。愛花の渾身の一撃は見事にヒットして(と言うか、これほどの強さがあるとは知らなかった)、彼女は少し跳ね飛ばされた。
「あははは……これで終わりかしら???まあ、これだけ痛めつければ、反撃なんてできないでしょうに!!!」
愛花は既に勝利宣言を始めていた。僕は……それでも、愛花の傍にいることはできなかった。
「長崎さん……大丈夫ですか???」
僕がこのとき彼女の元に駆けよったのは、ケガを負った病人の元に急行する医師としての使命感によるものだったのか、あるいは、心のどこかに、長崎出雲を意識しているのか、分からなかった。とにかく、足だけが前に出て、僕はケガを負ったであろう彼女の様子を観察した。
「たっくん!!!触ってはダメ!!!たっくんが腐っちゃう!!!」
愛花は大声でそう叫んだ。
「たっくん!!!そんな女は消えて当然なんだから!!!私とたっくんの間を引き裂こうとする人間は万死に値するんだから!!!だから、たっくん。一緒に帰ろ???」
うるさい……僕はそう思った。
「ねえ、たっくん。聞いてるの???」
うるさいうるさい。
「たっくんが帰ってこないのが心配だったから、昨日から何も食べてなくて、お腹ペコペコなの」
うるさいうるさいうるさいうるさい。
「だからさ、今から一緒に家に帰って、ご飯作ってよ!!!」
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……。
「ねえ、たっくんてば!!!」
「いい加減にしなさい!!!」
このとき、始めて僕は愛花を怒鳴りつけた。