夏場の鍋も乙なもの
「?」
すっかり忘れていた人物の登場で、焦って反応が遅れる。
「どうしたの?」
「あー、今妹が来てるんだよ」
「妹さん? 都合わるい?」
「うーん。まあ聞いてみるよ。ちょっと待ってて」
「うん」
リビングでクロとつんつんしたり、されたりしている凛に猫宮の事を聞いてみる。
「凛、友達がクロと遊びに来たんだけどいい?」
「へ、そうなの? うー、もうちょっと遊びたかったけど、しょうがないか」
「別に一緒に遊んでてもいいぞ」
「いや、いくらお兄ちゃんの友達でも、知らない男の人といるのはちょっと……」
「あー、その、男じゃなくて女子なんだ」
「女の人?」
「そう」
「あのお兄ちゃんに女の人の友達?」
「あのってなんだ、あのって」
「だって彼女いない歴=年齢のお兄ちゃんだよ?」
「それ関係なくない?」
「それより、待たせてるなら呼んできなよ。本当なら」
「なんで嘘ついてることになってんだよ」
玄関に戻り、待っていた猫宮に声をかける。
「待たせてすまん。いいってよ」
「少し聞こえてた」
「そうか、いらん事は忘れてくれ」
「ん。おじゃまします」
猫宮を連れて再びリビングに戻ると。凛が姿勢を正して出迎えた。
「初めまして、柳凛です。中学一年生です」
「猫宮雛。高校一年。よろしく」
「兄の彼女さんですか?」
「おい」
「? クラスメイト?」
「猫宮、なんで疑問系なんだ。ちゃんとクラスメイトだろうが」
「記憶にない」
「おい。いくらなんでも酷くないか」
「影薄い」
「わかります! お兄ちゃんって、やれば出来るんですけどやる気がないせいで、目立たないんですよね。ポテンシャルは高いんですけどね」
「うるさいよ」
「お兄ちゃんはちゃんとすればモテるのに……」
「いいんだよ別に、小説とゲームがあれば生きていけるから」
「はぁ……」
「……なんだよ」
「まあいいです。それよりも彼女じゃない人がなぜ家に?」
「クロは捨てられてたところを保護したんだよ。その時俺より先に見つけてたのが、猫宮だったって訳。でも猫宮の家じゃ飼えないから、俺が変わりに飼うことにしたんだよ」
「なるほどね、それでお兄ちゃんでもこんなに可愛い人と知り合いになれたんだ」
「お前のその上げたり、下げたりはなんなの? 心が痛いんだけど」
「そんなことより、そろそろクロちゃんが遊びたそうにしているので、一緒に遊びませんか猫宮さん」
「うん」
なんだろうこの疎外感、凛はいつからこんな子に育ってしまったのか。お兄ちゃんかなしいよ。
朝早くに凛の襲撃を受け、いつもより早く起きたためか眠気が襲ってきた。
「凛、猫宮俺は二度寝する。ゆくっり遊んでてくれ。おやすみ」
「ん、おやすみ」
「おやすみ~」
ノリがかるいな。まあ俺がいてもすることもないし、あいつらなら仲良くなれるだろう。
早速部屋に向かいベッドに入る。それと同時に意識を手放した。
起きた。スマホを確認する。十七時。
「寝すぎた。完璧に寝すぎた。頭痛てぇ」
いまだぼんやりする頭を無視してリビングに降りる。
「おはようお兄ちゃん、いくらなんでも寝すぎじゃない?」
「おはよう?」
「おはよう。俺もびっくりだよ」
「晩御飯食べてくから作ってー」
「いいけど、そういえば昼はどうしたんだ?」
「雛さんが作ってくれたー」
「雛? ああ、猫宮か、もう名前で呼ぶほど仲良くなったのか」
「うん。雛さんかわいいんだよ! 料理上手なんだよ! やばいんだよ!」
「テンション高いな……すまんな猫宮」
「だいじょうぶ」
「すまん。凛あまり迷惑かけるなよ」
「はーい。ごめんね雛さん」
「いいよ」
凛の要望に応えて晩御飯は鍋になった。七月に鍋って……。
調理を終え、三人でキムチ鍋をつつく。なぜキムチ鍋飼って? 暑い時期に鍋なんて注文した凛を苦しめるためである。
「おいしいけど! おいしいけど! 辛い!!」
「好きだろ?」
「好きだけど!」
「おいしい」
「そりゃよかった。すまんなこんな時期に鍋なんて」
「問題ない。私も鍋好きだから」
「ならよかった」
食事を終えたあとすぐに凛と猫宮が帰宅していった。「送るよ」と言ったが二人共に拒否された。大丈夫。嫌われているわけではない。大丈夫。ふて寝しよう……。