二匹目?
クロを拾った翌日、土曜で学校が休日の俺は、クロを連れて近くの動物病院まで来ていた。
病院では、飼うことになった経緯を話し、健康診断や予防接種等をしてもらった。その結果、獣医さんも驚くほどに健康体だったらしい。捨て猫の場合、衰弱やストレス等で体調を崩している事が多いらしいが、そういうことが一切なかったようだ。
「問題ないって、よかったなクロ」
「みゃぁぅん」
今更だが、クロはこちらの言葉を理解しているのではないかと言うレベルでタイミングよく鳴く。それも感情豊かにだ。こちらとしては、返事をもらえて嬉しいので気にしないことにした。
「次は、ペットショップでいろいろ買おうか」
「にゃん!」
「何気に初めてにゃんっていったな」
「……」
あ、そこは無視ですか。
ペットショップでは、食べ物、その器、おもちゃ、爪とぎ器、ケージ等色々なものを買った。
「とりあえずこんなもんだろ。帰るぞクロ」
「みゃおん」
クロは、ついさっき買ったばかりのケージに入れて移動している。ネコを抱えたまま買い物袋を持つのは、さすがに難しかった。
家に着いた俺は、玄関先にたたずむ人影を見つけた。
「……猫宮、おまえなにしてんの?」
「まってた。おかえり」
「ああ、うん。ただいま」
「にゃー」
「かわいい……どこ行ってたの?」
「動物病院とペットショップ」
「なるほど」
「立ち話もなんだし、入るか」
そう言って、鍵を開け家に入る。
リビングで荷ほどきをしていると、すでに猫宮がケージを開けてクロと遊んでいた。
まずは、昨日からまともにご飯をあげられていないので、少し多めに用意する。
「クロー、ご飯だぞー」
「にゃにゃっ!」
猫宮と遊んでいたクロは、皿を置いた瞬間すごい勢いでご飯を食べ始める。
「見てたら腹減ってきたな。猫宮は昼は食べたのか?」
「食べてない。おなかすいた」
「そういや、どのくらい待ってたんだ?」
「……三時間くらい」
「連絡先、交換しよっか」
「ん」
そんなに待っていたのか。自分が悪い訳でもないのに、すごい罪悪感が襲ってきた。まあ、連絡先も交換したことだし今後はこんなに待たせることもないだろう。
「炒飯くらいなら作れるけど、食うか?」
「たべる」
「あいよ」
冷蔵庫から材料を取り出し、調理を開始する。凝ったものを作る気はないので、卵とベーコン、万能ネギ、ご飯を混ぜ焼くだけである。焼く前にすべて混ぜることによって、家庭用コンロでもパラパラの炒飯が作れるのだ。
数分後、完成した炒飯をリビングに持っていく。クロはすでに食べ終わっており、今は寝ている。
「おいしそう」
「俺の数少ない得意料理だからな」
「炒飯食べたことない」
「へー……? 作ったことじゃなくて、食べたことがないのか?」
「うん。パエリアなら作ったこともあるけど」
「普通逆じゃね?」
「ううん。私の方が普通。柳の方が変」
「いやいや、日本人に限定して言えば、パエリアより炒飯の方がメジャーだろう」
「いただきます」
「……いただきます」
こいつ……。
「おいしい」
「なら良かったよ」
「炒飯もなかなかやる」
「だろ。早くて美味いそれが炒飯のいいところだ」
「ごちそうさま」
「おう、お粗末様」
「クロと遊ぶ」
「おもちゃ買ったから適当に開けていいよ」
「ん」
猫宮がクロと遊んでいる間に、洗い物を済ませ、ソファでくつろぐことにした。
目が覚めた。病院にいったり、買い物したりと案外疲れていたのだろう。気が付いたら寝ていたようだ。
「にゃー、にゃー」
「みゃー」
「にゃー」
「みゃんっ!」
いつの間にねこが二匹になったのだろうか。しかし、美少女がネコの真似しているとかなり癒しになるな。
そんな感じでほっこりしていると、猫宮と目が合った。
「!? いつから」
「起きたのか? つい今しがただな」
「……みた?」
「可愛かったぞ」
「わすれて」
「無理だな」
「なら、力ずくで」
「おいやめろ! 拳を握りしめて近寄るんじゃないっ!」
「問答無用」
「やめろ! てか、力つよっ! 分かった、忘れるからやめろ!」
「ほんと?」
「ああ、本当だ。だからその手を下ろしなさい」
「……わかった」
不服そうに振り上げた手を下ろす猫宮。だが、その目は未だに不機嫌さを失わない。
「悪かったって」
「……疲れた。今日は帰る」
「そうか、じゃあな」
「うん。またあした」
「おう。……? また明日?」
「あしたも来る」
「そ、そう。了解」
掴みどころがないというか、気まぐれというか。クロより猫っぽいな。去っていく猫宮の背中を見ながら俺は、そんな事を考えるのだった。
読了ありがとうございます。
余談ですが、執筆中の打ち間違いはよくあることなんですが、今回の執筆中に「猫宮」と打とうとして「寝込みイェア」って最低な打ち間違いをして大爆笑していました。
寝込みイェア!