ネコ拾いました
いつも通りの放課後。雨の降る中俺、柳司は傘をさして気だるげに歩いていた。
家まであと数分という所に小さな公園がある。晴れた日はそこそこ活気のある公園でも、さすがに雨の日は誰もいない。しかし、今日は違っていた。
(あいつ、何やってるんだ?)
雨の降る公園で、傘もささずにしゃがみこんでいる、俺の通う高校の制服を身に着けた少女を見つけた。その少女は、何かを見つめるように動く気配がない。
(あれって、猫宮……だよな?)
猫宮雛、同じクラスの人気者である。高校1年には見えない小柄な体型、無口ではないが口数が少なく無表情。神出鬼没のマイペース。そんな自由な所が本物のネコみたいだと、マスコット的な人気が高いのだ。
あまり人と関わるのが得意ではない俺でも、この状況で見なかったことにすることはできない。
「傘もささずになにやってるんだ?」
声を掛けると振り返ってこっちを見てきた。しかし、猫宮は「だれ?」とでも言いたげに首を傾げた。確かに一度も話したことは無いが、入学当初ならいざ知らず、7月になる今クラスメイトの顔を覚えてないのはどうなのか。
「同じクラスの柳だ。で、もう一度聞くがなにやってるんだ?」
「……ネコ」
「ネコ?」
猫宮の前をのぞき込むと、段ボールに入った1匹の黒いネコがいた。
「野良……じゃないな。捨て猫か」
「うん」
「みゃう」
「そのネコ飼うのか?」
「飼いたいけど、ペット禁止だから」
「なるほど」
飼いたいけど飼えなくて、見捨てるのも嫌で動けなくなったのか。かくいう俺も今更見なかったことにするのは気が引ける。しかたないとスマホを取り出し、ある人に連絡する。
『もしもーし。どうしたのー?』
「捨て猫拾ったんだけど、飼っていい?」
『いいよー』
「即答かよ。理由とか聞かないの?」
『つーちゃんが飼いたいならいいんじゃない? それに私もパパも凛ちゃんもネコ好きだし。今度見に行くね』
「ありがとう母さん。それじゃ」
通話を切ると猫宮と目が合った。通話を聞いてたのか先程より表情が明るくなっていた。多分。
「いいの?」
「猫宮は飼えないんだろ? なら俺が飼うだけだよ」
「ごめん」
「みゃぅん」
「いいよ。今更見捨てるなんて出来ないし、昔からネコ飼いたいと思ってたから」
「ありがとう」
「おう」
そうと決まれば早く帰ることに越したことはない。
「すぐ帰ろうと思うけど、猫宮の家は近いのか?」
「だいぶ」
「そうか。じゃあな猫宮」
「待って」
「?」
「みゃん?」
「私も行く」
「行くって、俺の家に?」
「うん」
「えーと……なんで?」
「心配だから」
「あー、わかった。行こうか」
「うん」
それからネコと猫宮を連れて、少し速歩きで家へと帰った。
「おどろいた」
家に着いた猫宮の開口一番のセリフがこれだったことに、俺が一番驚いた。
「えっと、何が?」
「家、ちかい」
「そうなのか?」
「うん。あれ」
そういって猫宮が指をさしたのは、この辺で一番高い(高さと値段二つの意味で)マンションだった。
「マジか……」
「まじ」
「猫宮ってお嬢様だったのな」
「うん、お嬢様」
表情が変わらないから、本気で言っているのか冗談で言っているのか判断がつかない。
「こんなに近いなら、一度家に帰った方がいいんじゃないのか?」
「うん、そうする」
そう言って猫宮は去っていった。
「さて、猫宮が戻ってくるまでにやれることはやるか」
まずは風呂に入れる。ネコは風呂嫌いだというけれど、こいつは気持ちよさそうにされるがままになっている。風呂から出てタオルで拭くときも、暴れる様子はなかった。
次は食事。とはいえこの家にネコのエサがあるはずもなく、あげられるものと言えば牛乳くらいか。そこまで考えて、ある疑問が浮かぶ。
「あれ? ネコって牛乳あげていいのか?」
「みゅう」
分からないことはスマホで検索する。ネコを飼いたいと思っていたが、実際に飼う際にすることなどはほとんど知らなかったりする。
「あー、アレルギーとかもあるのか。てか常温か。しかたない、温めてから冷ますか」
そんなことをしていると、インターホンがなった。
玄関に居たのは、濡れた制服から私服に着替えた猫宮だった。
「改めて、いらっしゃい」
「お邪魔します」
「みゃん」
「なあ、猫宮。……その服は普段着なのか?」
「? もちろん」
「そうか、似合ってるよ。すごく」
「ありがとう」
猫宮が着てきた服。白のTシャツに黒のスカート、黒のフード付きパーカー。問題なのはパーカーだ。なんと猫耳がついているのである。所謂猫耳パーカーというやつだ。
猫耳パーカーを着た、猫宮がネコに会いに来た。とてもユニークな状況と言える。
「この子の名前は決めた?」
「いや、ぜんぜん思いつかなくてな。なんかアイディアないか?」
「じゃあ、クロ」
「あん……シンプルでいいな」
「安直って言った」
「言ってはない。でもいいんじゃないか、分かりやすくて」
「うん」
「よろしくな、クロ」
「みゃん!」
新作です。前作更新してないのに新作です。リハビリ……ではないですが、しばらくはこちらに専念したいと思います。
俺の脳みそよ覚醒しろ!!
休日につき1話投稿できるよう頑張ります。具体的には週2位。