ブレイキング・ダウン
こんにちは、こんばんは、はじめまして。
伊都すくなです。二回目の方はお久しぶりです。
2話目投稿させていただきました。ありがとうございます。
次回で終わる予定です。
最後までお付き合い頂けたら光栄です。
フェリエ公爵が死んでから一ヶ月が経った。
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転送後、光が消えると目の前には綺麗な紫色のドレスを着た婦人が立っており、後ろには立派な豪邸が建っていた。夫人は俺に軽く会釈し、家の中へと案内した。大きな本棚と机のある書斎か隠し通路を通り地下へ降りていくと甲冑に身を包んだ男が10人いた。
「主人は死んだんですね。」
婦人が初めて口を開く。その婦人はフェリエ公爵の奥さんだった。
「ええ、私を守って亡くなりました。」
「そうですか。」
そう言うと夫人は地下の奥の部屋へと入っていった。
「公爵はどんな奴に殺されたんだ。」
長身で金髪の甲冑男が言う。
「青い髪に青い目の奴に素手で。」
「あの、クソ野郎ッ!!」
金髪の男はコンクリートの壁を思い切り殴ったり再び尋ねてくる。
「お前はなにもしなかったのか...?」
「俺、いや、私はなにも能力を持っていない、なにもできなかったんです。」
そこにいた全員が絶望の眼差しをこちらへ向ける。そして1番小柄な男が呟いた。
「俺たちの主人はこいつを救うためだけに死んだのか。」
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甲冑の男たちの中で守る価値のない男と判断された俺は、フェリエ邸から追い出された。夫人は主人との約束なのでと言い、転移魔道具と用途のわからない魔道具を二つ渡された。
お礼を言い、透明マントに身を包みとりあえず整備された道沿いを歩いていると、フェリエ邸の方角から爆発音が聞こえ、火柱が立った。急いで戻り、少し離れた雑木林の影から家の方を見ると家が立っていた場所は地面から削り取られ、周りの木は焼け焦げていた。
玄関のあった辺りには2人の人影があり、片方は静かに佇み、もう片方は甲高い声で高笑いをしていた。
2人が去った後しばらくそこから動けないでいた。
「こんなことになるなら転生なんてしたくなかった。訳もわからず殺されそうになるし、見知らずの人々が死んでいく。」
自己嫌悪と怒り、そして悲しみが自分の中で蠢き、グルグルと回る。一晩中虚無を噛みしめ虚空を眺めていると一つのイメージが浮かぶ。
巻き戻し、再生、無、有。漠然とした抽象的なイメージが生まれる。
「全部無かったことになればいい。」
そう呟くと、無くなったはずのフェリエ邸が目の前に復元されていった。
幻覚でも見てるのか。否、その家は確かに物質として存在している。
扉を開けて地下室へ向かう。
そこには、家とともに消えたはずの夫人と甲冑の男たち、そしてフェリエ公爵がいた。
疑問よりも先に、駆け寄り、名前を呼ぶ。しかし返事はない、目は虚空を見つめ、ただそこに棒立ちしてるだけだった。
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フェリエ邸の事件から3ヶ月が経つ。公爵邸を後にし、道沿いへ歩いていくと街を見つけた。透明マントに身を包み、その街で少しずつ食料を盗みながら生活していた。
転生前に読んだラノベを思い出し、この三ヶ月間様々なことを試した。
そこからいくつか分かったことがある。また、俺の能力は創り出すのではなく無かったことにするということ、自分が体験し、見たことしか無かったことにできないということ、そして、生き物は肉体だけしか戻せないことだ。
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三ヶ月街を歩き回り、この街の異質さに気付いた。食料は必要な分だけ食糧庫のような場所から持っていってよく、通貨はもちろんなく、病院は存在しない。であるのに、人々は誰も幸せそうで、街も裕福そうである。
なぜか。その答えはすぐ分かった。
勇者達から奪ったチート能力。
食料を無限に生産する能力、怪我や病気を全て治すヒーラー、考えるだけで嫌になるチート能力のインフレの影響で、もう国自体が通貨を捨て全て能力に頼り切っていた。
いつも通り街で食料を盗んでいると、掲示板に俺そっくりの似顔絵が描かれた紙に発見次第即刻通報と書かれていた。その隣にはフェリエ公爵の似顔絵に、フェリエ公爵死亡、視覚操作能力継承者求と書かれていた。
フェリエ公爵も転生者喰いだったらなぜあの時使わなかったのだと考えていた。
「やっぱり、フェリエ公爵は死んだか。」
「せっかくの神からの贈り物を頑なに使わなかったし消されたんだろ。」
掲示板に集まった人たちが口々に言う。
フェリエ公爵が殺された瞬間が思い出される。
気づくとフェリエ邸の前にいた。家に入り、公爵と夫人を座らせたままにしておいた食卓のある部屋へ行く。6人掛けのテーブルの片側にフェリエ夫妻、そして反対に俺が座り夕食をとった。転生前の出来事を冗談交えて話す。もちろん返答なんてない。
フェリエ邸で一晩を過ごし、透明マントを被り街へ行く。死んでもこんな世界に未練などないと言う気持ちで、忌まわしい王都へ向かう馬車へ乗り込んだ。
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こんなに簡単にことが進んでいいのかというくらいすんなりと王座の間へ着く。
王座の間では、儀式のようなものが行われていた。ちょうど自分が召喚されたあたりで貴族とみられる男が白い衣装に身を包み何かを食べていた。
全てわかっている。全て。
激しい怒りを抑えながら王座の間のど真ん中を通って王へ近づく。そして持っていた街で盗んだ真っ黒な短刀を振り上げ、王の左胸へ真っ直ぐに振り下ろした。
短刀は弾かれた。
死を、地肌で感じる。どこからか槍が飛んできて、脇腹を抉った。死を覚悟してきたはずなのに、死への恐怖に飲み込まれる。咄嗟にもらった魔道具を起動しがむしゃらに投げると1人の女に突き刺さりその女は爆散した。その瞬間今度は怒号と共に空間毎左腕を削り取られる。
恐怖、恐怖、恐怖。痛みで意識が飛びそうになるが、かろうじて転移魔道具を起動し、再び目を覚ますと見たこともない場所でベッドの上に転がされていた。
ありがとうございました。
前回、餃子が異世界でも食べたいと書かせていただきましたが、皆様はなに餃子が好きですか?
私は茹で餃子です。
そういえば友人に一字下げをしろ!と言われたのですが、打ち込むときはちゃんとスペースを入れているのです。なぜ反映されていないのでしょうか???謎ですね。笑