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アイのアイのアイのストーリー

作者: zakurite

初投稿です。

そんなことより仮面ライダーゼロワンの話をしましょう。

外見はかっこいいですね。第一印象はオーズ以上ビルド未満といったところでしょうか(私の中では両者とも上位の部類です)。

フライングファルコンフォームが個人的にお気に入りだったのですが、迅くんに奪われちゃった上に基本フォームに使われちゃったので、たぶん当面出番なしと思われるのが悲しいところです。

シナリオに関しては、まだ放送は8話までということもあり、大きな盛り上がりは見られませんが、毎回AIの利便性と隣り合わせの危険性について触れながらも、ゲストキャラがちょっと幸せになって終わる回が続いてますね。 脚本の高橋氏はエグゼイドも手掛けていらっしゃるということで、エグゼイドの結末である永夢先生の会見での台詞を念頭に置いて眺めてみると、違った面白さがあるかもしれません。

1話で腹筋崩壊太郎が苦しそうに抵抗しながらも怪人化して無残にも爆発四散したときは正直「えっヒューマギアの命軽すぎない……?」と思ったものですが、後にバックアップがあると判明したので、ちょっとは救われたのかな?あの時の遊園地の園長の笑顔も、腹筋崩壊太郎が戻ってくると知っていたからなのかな?と思えるようになりましたね。

この先の展開にも期待はしているんですが、仮面ライダーのスタッフは記念作に限って意気込みが空回りして今一つ画竜点睛を欠くケースが度々見受けられるものですから、正直にいうと不安でもあります。

しかしそこは一介のファンとして、安易にツマンネと切り捨てず、面白いと思える様に多角的な視点を持って視聴していきたいと思います。楽しんだ奴が一番楽しい(意味不明)!

 旅のサーカス団・ルーネス一座には、噂がある。

 その団には、死神がとり憑いていると。

 彼らの行く先々では、不審死や行方不明が相次ぐのだという。

 これは、そんなサーカスの一員の少女をめぐる、愛の物語である。

 * * *

「それじゃあみんなー!いくよー!

 掛け声と共に指を鳴らし、スポットライトが彼女を照らし出すと、彼女は宙に浮き上がって空中ブランコに乗った。

 伴奏が流れ出し、彼女はそれに合わせて歌声を披露する。

 そして、なんと歌いながら空中ブランコで宙を舞いだしたではないか!

 吹き抜ける風の様に爽やかな歌声を奏でながら、ブランコからブランコへと飛び渡る彼女は、さながら新緑の森を舞うハチドリの様である!

 通常、歌とは全身を楽器として歌うものであり、空中ブランコもまた、全身の筋肉をフル稼働させた激しい運動である。

 その双方を、一つの体で同時に、しかも最高峰と言って良い技巧でやってのけるのだ! これが人間業と思えようか! しかし現実に起こっているのだ! それも弱冠14歳の少女の手によって!

 こうして彼女の見せる夢のようなひと時は、観客を瞬く間に虜にするのだよ!

 私は初めて見たときに確信したね!

 彼女のイリュージョンは歴史を塗り替えると!

 君もそう思うだろう?

 いや、君もそう思うはずだ。

 今から始まる、アイ・ペルシカリア女史によるショータイムを目の当たりにすればね!!」


 ……と、パスカルお姉ちゃんは興奮気味に語るのでした。

 久しぶりに会ったのに、変わらないなあ。 お姉は。 夢中になるとなんかキャラ変わるところとか。

 とはいえ、空中コンサートと名付けられたこの演目を前にして、わくわくしている私がいる。

 お姉をここまで熱中させたものは、いかほどか、確かめてみたいと思う。

 などと考えていると、照明が絞られ、ステージは彼女を待ちわびるかのように仄暗く演出された。

 彼女がステージに上がり、ライトが彼女を照らすと同時に、観客席全体がざわつきだすのを感じる。

 軽やかなステップで腰ほどもある大きな紺色のツインテールを揺らし、彼女はステージの中心に立った。

「みんなー! 今日はルーネスサーカスに来てくれてありがとー!」

 空色の瞳をきらきらと輝かせ、会場全体に手を振る。

「お礼に、最高のショータイムをお届けするわよー!」

 言い終わると同時に、満面の笑みをすっと潜ませ、きりりとした顔つきに変わる。

 いよいよ始まるのですね。 このサーカスの目玉、空中コンサートが。


 会場全体に音楽が響き渡る。優雅でどこか荘厳なメロディは、私達を現実から遠のかせる。

 まず彼女は――アイという少女は曲に合わせて歌いだした。 なるほど確かに見事な歌声ですね。

 次いでワイヤーの様なもので吊り上げられ、空中ブランコに乗った。

 懐から数本のナイフを取り出すと、ブランコに揺られながらバトンのようにトワリングしてみせる。 見てるこっちが冷や冷やする様な芸も、アイは片時とて歌声を止めずに涼しい顔でやってのける。

 やがてそのナイフを次々と投げつけ、地上に並べられたリンゴを綺麗に射止める。

 会場が沸き上がる中、アイはブランコを大きく揺らし、別のブランコに飛び渡った。

 そのまま次へ、また次へとブランコを飛び移る様は、なるほど確かに可憐に鳴き飛ぶハチドリの様だ。――ハチドリなんて見たことないけど――

 その後もアイは空中ブランコと他の演目を組み合わせた超人技を次々とやってのけ、そして絶え間なく歌い続けた。

 そして地上に降り立ったアイが終わりを告げる一礼を交わすと、会場全体は拍手喝采に包まれた。

 気づけば私も魅了されていた。 お姉が熱中するのも、無理もない。 惜しみない拍手を送りながら、私は思った。


 興奮冷めやらぬといったその時、観客席の一角から悲鳴が上がり、会場全体が不穏な空気に包まれる。

「化け物だー!!」

 誰かが叫んだ。 人ごみに遮られてよく見えないが、何か良くないことが起きたのだと理解した。

 逃げ惑う人の波をかき分け、悲鳴の方を見やると、そこにいたのは――

 全身が緑色に変色し、所々肉が剥がれ落ちてなおも動く人間――いや、生ける屍、ゾンビだった。

 逃げなきゃ。 そう思ったが時すでに遅し。 気づけば感染が感染を呼ぶゾンビの群れに取り囲まれていた。

 壁際に追い込まれ、逃げ場はない。 もはやこれまでか……。

 そう思った瞬間、うめき声をあげながらにじり寄るゾンビの一体が、なぜか両断され、地に伏した。

 倒れたゾンビの向こう側には、背丈ほどもある巨大な鎌を携えたアイが立っていた。

「あんた、まだ噛まれてないわよね?」

 状況が飲めない。 その中でもアイは一体、また一体とゾンビを切り捨てていく。

「いいからそこで屈んでじっとしてなさい!」

 助けが来たのでしょうか? 助かったんでしょうか、私。

「一網打尽にするわよ! 死んじゃえーっ!!」

 アイが叫び声と共に鎌を薙ぎ払う。

 鎌から放たれた真空波が、群がるゾンビ共を蹴散らした。


 サーカス会場には、さっきまで人間だったモノで溢れ返り、凄惨とした光景と、不気味なまでの静けさだけが残された。

 * * *

 あの惨劇から3日後、街には何事もなかったかのように日常が流れています。

 後から知った事実だけど、ゾンビの襲撃に遭ったのはサーカスのテントの中だけだそうです。

 だからなのか、普段とさほど変わらない活気で、街は回っているように思えました。

 ――あの日、犠牲になった人たちのことなんて、初めからいなかったみたいで、少しおぞましくもありました。

「エステルーぅ?お風呂まだー?」

 あ、必死だったから忘れてたけれど、お姉は無事でした。 朝風呂を急かす程度には元気です。

「すぐ上がりまーす!」

 日常を享受しているのは、私も同じ。 けれど、それはあの時、アイさんが助けてくれたから……。

 あの日は結局、感謝の一つも言えなかったな。 後で直接会ってきちんとお礼をしなくては。


 朝の食卓には、焼き立てのパンの小麦の香りが広がります。

 何の変哲もない、食事にありつける幸せを、ここ数日は特に、噛みしめる様に実感するものです。

「ねぇ、お姉。 サーカスの団員って、どこで寝泊まりしてるのでしょう?」

「んー? ルーネスのことを言ってるなら、町外れにキャンプを作ってるみたいだよ」

 町外れのキャンプ、今日の放課後にでも立ち寄ってみようかな。

「わかった、ありがと。 じゃあ、今日はもう行くね」

「おーおー、随分とお早いお出発でおございますね~。 さっすがユートーセー」

「茶化さないでってば。 立派な薬草師になって、家業を継ぐのは私の夢でもあるんだから」

 優等生という表現もなんとも皮肉だ。 お姉は本当は私よりもずっと出来がいいのに、気まぐれでファッションブランドなんて立ち上げて、家を出て行っちゃうんだから。 そのせいで両親は跡継ぎの養女を、つまりは私を受け入れざるを得なくなった、らしい。 昔のことすぎて詳しくは覚えていないけれど。

 ともあれ、私の家族はこの家の家族で、そのことは私も納得している。 元々、薬草師には向いてるみたいだったし、いつか来る上京の時期が、少し早まっただけ、そう捉えている。

 っと、自分語りが過ぎたかな。 鞄に本を詰めて、外に続くドアを開ける。

「行ってきます、お姉」

「はいなー」

 * * *

 放課後、町外れに来てみると、本当にキャンプがあった。 いくつかのテントが連なっている。

 ここで待ち伏せしていれば、アイさんに会えるでしょうか。 いささか行儀のいい手法とはいえないですね……。

 などと考えていると、ちょうどアイさんが帰ってきたようです。

 話しかけてみましょうか。 その為に来たのですし。

「アイさーん、あの――

「はぁ? あんた誰? 厄介な出待ち? そういうの、お断りだから」

 それだけ言い残すと、そそくさとキャンプの奥の方に入って行ってしまいました。

「あっ……。 な、なんというか……ステージの上と印象が違う……」

 さて、それはともかく、お礼を言いそびれてしまいました。 これでは来た意味がない。

 どうしたことでしょうか。 今日はたまたま機嫌が悪かったのでしょうか。

 また明日、来てみればいいかなあ、と思い、とぼとぼと帰路に就く私でした。

 * * *

 次の日、アイさんに会いに行くも、また一蹴されてしまいました。

 次の日も、その次の日も、来る日も来る日もアイさんはまともに取り合おうとしてくれません。

 置手紙を残してみましたが、次の日にも同じ場所に、砂埃を被った状態でおいてありました。

 自分のしていることは、迷惑なつきまといなのでしょうか、そう思った矢先、私に話しかけてくる人が現れました。

「ちょっと、あなた。 うちのアイに何か用かい?」

 声の主の名はハンナ。 聞けば若くしてこの一座の座長を務める者ということでした。

 私は覚悟しました。 これまでの行いを、厳しく咎められるのでは、と。 しかし彼女の口から出たのは、意外な言葉でした。

「アイのこと、気にかけてくれてるのかい? あの子のキツイ物言いを、許してやってはくれないかい?」

 それはどういうことか、と問い返すと、ハンナさんは語りだしました。

「あの子はね、あなたを死なせたくないだけなんだよ」

 意味が分からないという顔をしている私に、ハンナさんは続けました。

「あの子は幼い頃に両親を亡くしてるんだよ、自分のせいでね」

「死神、って知ってるかい? あの子、それなんだよ」

「死神の血筋ってのは不思議なものでね。 魂を刈る力だけが、制御も効かずに継承されてるんさ」

「あの子の場合はね、愛する人の魂を刈る力――いや、呪いといった方がいいかな」

「それを知って以来、あの子は誰にも心を開かなくなった」

「自分の呪いで、誰も死なせないためにね」

 そこまで聞いて、ようやく話の輪郭が見えてきました。

「昔は人懐っこい性格でね。 だから、行く先々で人を死なせてきたと知った日の顔は、絶望としか呼べなかった」

「それで、ずっと独りで生きてきたのですか?」

「あぁ、ぼくも色々手を打ってみたが、結局できたことは独りでいられる場所を提供することくらいさ」

「そんな……。あんまりじゃあないですか」

 ふつふつと沸き上がる感情は、憐れみの類の、彼女を見下すものではありませんでした。

 孤独なら、私も知っています。 その辛さも、苦しみの末にある、触れた心の温かさも。

 私の命の恩人が、どこまでも続く絶望の中にいるなら、そんなの見過ごせるわけない、でしょう?

「決めました。 私、アイさんを諦めません」

「へ? 話聞いてなかったのかい?」

「聞いたから、退けなくなったのです。 今のアイさんには、きっと誰かが必要なんです! その誰かが私ではうぬぼれが過ぎるとは思いません」

 そうです。 今度は私が、アイさんを――あの日の私を――助ける番です。

「……わかったよ。ぼくは君を止めない。 止めても無駄ってことくらい、君の眼差しを見ればわかる。 君が死んでアイが余計に傷つくかもしれない、それでも、彼女を独りにしないでやってくれるかい?」

「言われなくても、やらいでか!」

 * * *

「……なんて、メンチを切ってみたものの……はぁー……」

 あれから何日かが経ち、私は死神のルーツを求めて、図書館で死神にまつわる書物を漁ってみたけれど、どれもオカルトやファンタジーの類の本ばかりで、取れ高は全くと言っていいくらいありませんでした。

 怪しげな本の山に囲まれてうなだれる私のもとに、転機は突然に舞い込みました。

「もしもし、死神のことで何かお困りかしら?」

 話しかけてきたのは、私と同い年くらいの少女。黄土色の瞳には、どこか近寄りがたい神秘性を感じます。

「警戒しないでいいわ。 私はソーニャよ。 あなた、さっきからずっとため息ばかりついてるものだから……はい、これをどうぞ」

 差し出されたのは分厚い本。 半信半疑のままページをめくってみると、死神に関するあらゆる事柄が、網羅的に記されていました。

 渡りに船とはいえ、いくら何でも都合がよすぎる……。 ソーニャさんは一体何者なのでしょうか。

「あの、あなたは一体――」

 問おうとしたときには、ソーニャさんはどこかへ消えていました。

 狐につままれた様なもどかしさを抱きつつも、さしあたっての糸口となりそうな本は持ち帰ることにしました。

 * * *

 そして、その日の夕暮れ時。 いつも通りアイさんの帰りを待ってキャンプの入り口で佇んでいると。

「あんた、まだ諦めてないわけ? いい加減、しつこいわよ」

 アイさんが初めて、自分から話しかけてきてくれました。

「あの、アイさん、ごきげんいかがですか」

 ハンナさんとソーニャさんから知った事柄は秘密にしよう、少し卑怯だけど、勝手に詮索するのはもっと卑怯だと思ったからです。

「見ての通りよ、あんたの顔を見たあたしの顔を見たら、わかるでしょ?」

 アイさんはこれ見よがしに不機嫌そうな顔をしました。

「今日は、あの日助けてもらったお礼を言いに来ました!」

「はぁー……。 何度目よ、それ。 いい加減ウザいわよ?」

 半ば睨みつけるような視線で私に問いかけてきます。

「いえ、きちんと感謝を受け取ってもらうまでは、私も退けません」

 我ながら、何をわけのわからないことをいってるのだろう、と思います。

 会いに来たのは、アイさんのために何かできないかって思って、それで必死で。

「あたしは、降りかかる火の粉を払っただけ。 たまたま近場にいただけのあんたに、感謝される筋合いはないって言ってるでしょ」

 アイさんは、嘘が下手だ。 けれど、そのおかげで成り立っている今の関係が、私にはどうにも居心地が悪いものとは感じられませんでした。 だからこうして、今日もここに立っているのかもしれません。

「たとえ結果論でも、命の恩人には礼を尽くさなければ、末代までの恥です」

「いちいち大袈裟なのよ、あんたは。 さっさと帰りなさい。 見てくれからしてあんた、いいとこの令嬢でしょ? 門限とかないわけ?」

「あっ、そですね。 それでは、今日はここで失礼します。 またお会いしましょうね」

「あー、はいはい、そーねー」

 限りなく素っ気なくあしらわれて、きびつを返す。

 キャンプから出て帰路に就く途中、私は思いました。

 今日もダメでしたけど、いつかアイさんに本当の意味で恩返しができたらいいなあ。

 * * *

 一方その頃。 アイはキャンプに組まれた簡易ベッドに横たわっていた。

「あーもう。 なんなのよ、あいつ」

 あいつの、エステルとかいう女の顔が目に浮かぶ。

「なーにが、命の恩人よ。 余計なお世話だっつーの」

 心の声を乱暴に叫ぶ。本当に、厄介なやつに絡まれたものだわ。

「だいたい、何が悲しくて、あんだけ突き放してもしつこく付きまとってくるのよ。 嫌われてる自覚持ちなさいっての」

 ――わかってるわよ、目を背けてるのは、あたしの方。 あいつに対して、何も思わないわけないじゃない。

「そんなことしたって、あたしは……」

 迷いを振り解く様に、あたしに課せられた運命を唱える。

「もう二度と、あたしのせいで誰かが死ぬのは御免よ!」

 あたしは死神で、疫病神。 誰にも関わらないのが、誰もにとって一番いいの。

 それは、変わらないわ。 これからも、ずっと……。

「あたしだけが犠牲になれば、それでいいんでしょ……」

 捻れた心の中で、エステルの面影がちらつく内に、まどろみに飲まれてゆく……。

 * * *

 数日後、あたしはエステルに宛てて手紙を書いた。

 会って話がしたい。 ただその一文だけを。

 会って、伝えるのよ、私の運命を。 このままじゃ、あんたも死ぬって。

 けれど、それでも、あたしに向き合ってくれたことは、嬉しかった、とも。

 そろそろ、いつもあいつが来る時間。でも、あいつは来なかった。

 ふと気づく、あたりに漂う異臭に。 どこか覚えがあるような……。

 そのとき、目の前に一人の少女が現れた。

「こんばんは、アイちゃん。 想い人に遭えなくて残念だったかしら」

 小さな体躯にそぐわない威圧感を纏った少女は、黄土色の瞳を歪に見開き告げた。

 直感でわかった。 エステルが来ない理由は、こいつにある。

「誰よ、あんた。 返答によっては情けはかけないわよ」

「警戒しないでいいわ。 とは言えないわね。 私はソーニャ。 あなたを絶望させに来たの」

 そこで、辺りの異臭の正体に気づいた。 これはあの日、サーカスの襲撃の日と同じ――。

「ふふっ、そうよ。その顔、その顔がいいわ。 サーカスを襲ったのはね、私なの」

「ふざけろッ!」

 叫ぶと同時に、鎌を振りかざしてソーニャに攻撃を試みた。

 しかし何体ものゾンビがそれを阻み、刃はソーニャに届かない。

「あなたのお友達は預かったわ。 処刑はすぐにでもできるけど、ふふっ、あなたにも見せてあげる」

 ソーニャはそう告げると、小高い丘の上の墓場を指さし、そして消えた。

 気づけばゾンビに囲まれていた、というよりは、ここから墓場までの道がゾンビで埋め尽くされていた。

 それでも私は鎌を振るう。 あいつを、エステルを助けるために、ゾンビ共を薙ぎ倒しながら、墓場へと向かった。

 ゾンビを切り刻みつつ走り続け、ようやく見えてきたエステルは、絞首台の上に立たされていた。

「アイさん! 来てはダメです! これは罠です!」

 エステルの声が聞こえる。 あんたのためなら、罠の一つや二つ、踏み抜いてやるわよ。

「ソーニャ! あんたの狙いはあたしでしょ?! そいつは関係ない!」

「えぇ、知っているわ。 関係ない人が死ぬ方が、あなたに効くってことも」

 ソーニャの言葉に耳を貸す間もなく、ゾンビをかき分けてエステルの元へ向かう。

「役者は揃ったわ。 さぁ、ショータイムよ」

 そう言ってソーニャが指を打ち鳴らすと、絞首台の床が抜け、エステルが宙づりになった。

 * * *

 また、あたしのせいで人が死ぬの? 呪いを抜きにしても、あたしは人を死なせる事でしか生きられないというの?

 生まれた事が、罪だとでも……?

 絶望に暮れ、膝を突こうとした時。

「それは違います!」

 不意にエステルの声が聞こえた。

 辺りを見渡せば先ほどまでのゾンビはなく、白い靄に包まれていた。

 死神のあたしにはわかる。ここは死者の魂を手繰る場所、冥府の入り口。

「アイさんは悪くなんてありません!」

「ずっと独りで戦ってきたのでしょう?」

「あの時だって、私を助けてくれたじゃないですか!」

 でも、結局は死なせてしまったわ。

「私が死んだから、何だっていうんですか!」

「全ては、私のを守るための行いだったのでしょう?!」

「生きてください!あなたは、生きる価値のあるお方です!」

 こんなあたしを、許そうっての?

「あなたみたいな生き様が罪なら、私が背負ってやる!」

「アイさん、ずっと伝えたかったことがあります!」

「ありがとうございます!私は、あなたに会えてよかった!」

「そして、一緒にいきましょう!これからもずっと!」

 あぁ、そうね……ありがとう……か。

 エステルの魂が流れ込んでくるのを感じる。 奪うだけだったあたしでも、これなら、エステルがついててくれるなら、やれる気がする。 死神の極意を!

 ……目を開けると、眼前にはソーニャが立っており、その傍にはエステルの亡骸が横たわっている。

「やっと……手に入れたのね」

 ソーニャが何かを言い終わるより先に、死神の鎌をエステルの亡骸に突き立てる。

 ――本来、死神とは死と生を司る神。

 正の力が死をもたらすのなら、負の力がもたらす物は――

「蘇りなさい!エステル!」

 その瞬間、生命の活力が溢れ出る!

 神々しいばかりの光は、あたしを覆い尽くさんとするゾンビの群れを瞬く間に灰に変えた。

 そして、さっきまで亡骸だったエステルが、ゆっくりと目を開けた。

「どうよ!これが死神の真骨頂!名付けて、活殺自在!」

「アイさん、気をつけて!ソーニャさんが……あれ?」

 あたし達を包み込む光が晴れた時、そこにソーニャの姿はなかった。

 逃げたのか、隠れたのかと周囲をみわたしても、ソーニャは見当たらない。

(そう、これでいいのよ、これで……)

 気のせいか、耳をなでるそよ風が、そう告げた様な気がした。

「アイさん!やりましたね!」

 そう言いながらエステルは抱きついてきた。

 あぁ、いつ以来だったかしら……。

 人肌の温もりに、触れたのは……。

 彼女の小さな体を、そっと抱き返す。

「でも、活殺自在はちゃけダセェですよ!」

 彼女は息絶えるどころか、もっと強く抱き返し返してきた。

 本当に、変われたんだ、あたし。

 愛する人を、抱きしめてもいいんだ……。

 * * *

 愛故に愛を捨て、孤独に生きる彼女はもういない。当たり前のように愛し愛されることを許された、幸福な少女がふたり。

 ふたりを祝福するような月明かりの下、互いの命を愛しあった。




おわり

まずは、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

感想などありましたら、ここでもツイッターでもいいのでお気軽にお聞かせください。

ここから先は愚痴だか言い訳だかわかんない駄文なので、読まなくてもいいです。



正直、かなり不安の連続でした。

これまで執筆はおろか読書すらろくすっぽやってこなかった私が、作品を作って、投稿して、それが読者にどこまで通用するのかという心配ももちろんあるのですが、何よりも私が生み出したキャラ達が皆さんに受容されるのか、というのが気がかりでした。

このキャラ達のこと、大なり小なり好きなんですよね、筆者自身が。

その点でバイアスがかかって、傍目には醜いものに見えてしまったら、どうしよう。

そんなことを考えながら書いてました。

脇役の描写については、特にソーニャちゃんが不十分というかイミフなレベルで雑になってしまった感はあるのです。しかし冒頭で「愛の物語」などと豪語してしまった手前、これから死ぬキャラに肩入れさせてしまうのも悪いかなーっていうのと、ソーニャちゃんに関しては脳内設定を語りだすとそれこそ一本書けるくらいごちゃごちゃした事情を抱えたキャラなので、いっそバッサリ切り捨ててしまおうと。

本当は小説家になろうだなんて考えてなくて。むしろエロマンガ家になりたいと常々思っているのですが、なんつーか左脳派すぎて(逆だっけ?)適正を考える過程でどうしても逃げ道になっちゃうんですね、理詰めである程度は形になる、小説っていうジャンルが。

いま方々に向かって失礼なこと考えてしまったかもしれません。

それはともかく、この体験もまた、私の最終到達点(夢)であるエロマンガの執筆という目標の足掛かりになればいいなあ、と、いい感じに脱線してきたところで、筆を置きたいと思います。

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