【第二章】第二十六部分
「あたしがふたりを殺すのはお兄ちゃんの代わりにやるだけだよ。どうやったら殺せるのか、お兄ちゃんよく見ててね。全然全く殺したくなんかないんだけど。じゅるじゅる。」
「あのう、箱子さん。頬筋肉の弛緩がすごくて、涎が銭湯のライオン口みたくなってるのは、見間違いだよね?」
向かい側のコートにいるふたりも同じ形態をとっていて、グラウンドは水浸し状態になっていた。
「吝奈ちゃん、特にウラミはないけど、いやあるから全力でぶっ飛ばすねっ。カーン!」
箱子は片手で鉄球を目の前に投げて、野球ノックの要領でスイングする。文字通りのイタい金属音を響かせて、吝奈めがけて飛んでいく鉄球。
「飛んでくる方向が見えてますから、打ち返すのはカンタンでちゅわ。カキーン。」
吝奈は両手でバットを振ると、鉄球のど真ん中を見事に打ち抜き、箱子に返す。箱子も軽々と片手バットでテニスボールのように跳ね返す。鉄球は木憂華の方に飛んでいく。
木憂華は打ち返そうとしたものの、勢いの増した鉄球に耐えきれず、バットと一緒に吹き飛ばされた。木憂華はそのままコンクリートのフェンスに激突した。『ドーン』という衝突音がした。木憂華の骨折は必至である。
『プシュー、トバババ!』
衝突の直後に、何かが破裂した音が耳に付いた。昆太はそちらに目を向けた。
「なんじゃ、こりゃ!」
巨大アメーバのように、散乱した肉片と血液。あまり日本人好みでないスプラッター映画のクライマックス画像が展開されていた。フェンスには、無数の大きな針が張り付けられていたのである。
『そんなの、聞いてないぢゃん。』という血のダイイングメッセージがフェンスに残されていた。断末魔の瞬間に書いたとすれば、タダでは死なないという木憂華の意地である。「あ~あ。キューリー夫人博士が死んじゃった。この程度で逝っちゃうなんて、ケンカ弱すぎ。」
「そうでちゅわ。たったの一撃でゲームオーバーとか、レベル1にもなりまちぇんわ。このパートナー組み合わせには改めて、苦言を呈しまちゅわ。」
箱子と吝奈のふたりになり(傍観者昆太を除く)、鉄球打ち合いが始まった。ふたりの高いレベルのラリーは止まることなく続いた。
「打ち合いじゃ勝負がつかないでちゅわね。童心に帰りまちぇんか。」
その言葉が昆太の琴線に触れた。




