【第二章】第六部分
「これからどこに行ったらいいのだろう?」
エサを要求するカメのように、首をくるくると動かす昆太。
「先生からもらったメモには、『市役所に行け』と書いてあるよ。」
箱子が小さく折り畳んだメモをながめている。
「あれをご覧なさいでちゅわ。」
吝奈が指差す方向に、安っぽい木の立て札があった。そこに、とてもきれいとは言えない、幼児が書いたような文字が並んでいる。それもあっちこっちに泳いでいて、読みづらい。
『市役所はこちらだじょじょ。→』
「ずいぶんな案内看板だな。幼女の香りがするぞ。ワクワク。」
「お兄ちゃん。自分のロリ心に火をつけちゃ、ダメだからねっ。」
まん丸な目を、マテガイの形状で横に変化させて威嚇、もとい警戒する箱子。
四人揃って、矢印の方へ進んでいく。
「これが市役所なのかな?」
真ん中に聳え立つ、天井が四角錘の砂色の建築物。かなりの歴史を感じさせる。両脇に少し低い同色の直方体形を侍らせており、さながら国会議事堂のような威圧感に溢れた建物である。
四人は正面から堂々と入り、一階の受付に向かった。そこには受付嬢が見当たらない。
「仕方ないので内線電話を使ってみよう。」
昆太は受付の電話を取ろうとした。ガチャガチャと受話器を取る音がした。
「うるさいなあ。だれや、ウチの安眠を妨害するボンは?関西弁のかん高い声が聞こえてきた。」
どこかでみたような幼児服。帽子は橙色。
「あっ、ちゃんと受付嬢がいたんだ。てか、どこかでみたような幼女だけど。」
昆太は受付の中心で萌えを叫びたかったが、不吉な予感がして、太ももをつまんでガマンした。
「あ~あ。客が来たのは何百年ぶりやろ。めんどくさー。」
受付嬢からは、やる気がミジンコレベルすら感じられない。
「市民に対して客という呼び方はおかしくないか?」
もっともな意見を述べた昆太。
「わかったよ。もうめんどくせーわ。ほら、戸籍係はこっち方面。税金納付ならあっちの税務課。都市計画係なら別棟やで。好きなところにお行きなはれ。以上、説明は終わりや。冬眠するで。おやすみ。」