【第一章】第三十部分
『武器があるんだから、不思議じゃなく、不公平なだけぢゃん!』
この頃のキューリー夫人博士はあたしたちにもビビっていて、遊ぶ時もいつも木の陰に隠れてね。木が大きいというよりはキューリー夫人博士の体が小さいから完全に隠れてしまっていたから、かくれんぼすると全然見つからないということがよくあったんだよ。暗くなるまで隠れているキューリー夫人博士が泣いていたっけ。
『いったい、いつになったら見つけてくれるぢゃん!うわ~ん。』
よく考えたら、キューリー夫人博士はかくれんぼにかこつけて、あたしたちから無視されたと思っていたみたいだね。いやそれだけではなく、あたしたちの中ではキューリー夫人博士は存在感が薄かったから、子供ながらそれを気付いて気にしていたみたいなんだよね。
この世界にはいろんな植物があって、透明な木があるんだよ。それは『注射木』と呼ばれているんだよ。注射器を立てたような形で、針のように葉が生えて、その先に花が咲くんだよ。
いつもの通り、三人でかくれんぼをやっていた時、キューリー夫人博士は注射木の林に隠れたんだよね。すると体が透けているからすぐに見つかったんだよね。
『今日は見つかったぢゃん。すごく残念ぢゃん。』
口ではそう言いながら、キューリー夫人博士はすごく満足そうにしてたよ。
かくれんぼなのに自分をみてほしいという自己主張だったんだね。
それからキューリー夫人博士は、注射器を武器にするようになったんだよ。
吝奈ちゃんは狼族だから、もともと大きな牙があるんだけど、本人はかわいくないって言って大嫌いだったんだよね。狼族の貴族でお嬢様だから、清楚さと相反する牙がイヤだったのかなあ。
吝奈ちゃんは、部屋で鏡に映る自分の顔を見ていたとき、何を思ったのか、いきなり牙を抜いちゃったんだよね。
『あ~。これで呪縛から解放されたでちゅわ。今日からエレガントなワタクチに生まれ変わりまちたわ。』
吝奈ちゃんはすごく喜んでいたらしいよ。
そして、吝奈ちゃんはいつもの黄金のドレスで外出して、あたしたちと遊ぶためにいつもの野原にやってきた。
こういう時、女の子は友達に気づいてもらおうとして、ワザと声を掛けなかったりするよね。ご多分に漏れず吝奈ちゃんもそれをやったんだよね。ツンデレなんだから、尚更だよね。