7話 私があなたのお友達
7話 私があなたのお友達
《由宇》
私の1年生は友人ができた年だった。他の子は小学校に来る前は幼稚園や保育園に通ってたらしい。それ故か、入学日早々に仲良く喋ってる子もいた。だから自分にはなぜそんな友達がいないのかと、己の境遇を恨んだこともあった。そこに現れたのがエリーだった。
エリーは私の最初の友人だった。私とエリーが一緒にいると、まるでどこか外国の仲良し2人に見えるらしい。白い髪の日本人に日本人の血が混じったイギリス人だ。無理もないだろう。だが、それが物珍しかった為か、ほかの子も集まってきた。男女関係なく。みんなに囲まれ笑いあっている。そんな日常が続いた。
2年生になり、学年は1つ上がった。唯一の不安はエリーとクラスが離れてしまうことだった。だが、それは杞憂に終わった。運良く私もエリーも同じクラスになった。しかし喜んだのも束の間、エリーとは席が離れてしまった。普通席順は縦に姓の50音順で並べられる。私は「岸宮」、そしてエリーは「クイナー」連番ではあるがちょうど列の後ろに私が来てしまった。エリーは一番前だ。ちょっと残念だ。
「あはははは!由宇ちゃんそんなこと気にしてたの?」
エリーは私の前の席に座り笑う。
「そっ、そんなことって…」
私たちが話せるのは休み時間だけになったので、その間にエリーはこちらに来る。その席の持ち主である男子はほかの男子の輪へ行っているので問題なかった。
「ぷくくくっ。だからそんなにおなか痛そうな顔してたんだ。」
エリーはまだ笑いを堪え切れないでいる。
「もうっ!エリーちゃんったら。」
「いや〜ごめんごめん。でもそんなに一緒に居てくれようとするなんて嬉しいよ。」
そう言って彼女の笑いはひと段落着く。
これが私とエリーの新しい学校生活になった。
ある日、私がランドセルから教科書やノートを出し、授業の用意をしているとふと違和感を覚えた。
「無い…あれ?おかしいな...」
入れたと思ってた筆箱はランドセルに入ってなかった。どうしようか。
その時、となりの席から手が伸びてきた。
「ん。使っていいよ。」
私の右に座る男の子は本を読みながら手をこちらに伸ばしている。その手には鉛筆と消しゴムが乗っかっている。
「腕疲れる。使うなら受け取って。」
「あ…ありがとう」
彼は私より背が少し低いことに私は気づく。そして彼は本に再度向き合う。
「その本、面白いの?」
恐る恐る尋ねる。
「…ああ、これね。面白いよ。あり得ないことばかり書いてあるんだ。いつもの世界から抜け出せるような本だよ。」
「へぇ。私も読んでみようかな。」
彼は少し驚いた表情を見せる。そして顔がパッと明るくなる。
「ほんと?嬉しいね、一緒のことができる人が出来るなんて。」
私はこの言葉に違和感を感じた。
「あなた、お友達とかいるでしょう?」
「実はまだ。話す人はいてもそこまで仲良くないから。いつも本が友達だよ。」
私は思い切って言う。
「じゃあ私があなたの最初の友達になる。あなたが一番って言う友達になるよ。」
この人は不思議な人だと思っていた。昼休みは男の子はみんな校庭でボール遊びにいそしんているのに彼だけは一人本と向き合っていた。いつも陽を避けて室内にいた私は彼を結構見ていた。
なぜみんなと一緒じゃないのか。
なぜいつも一人で本を読んでいるのか。
なぜ、彼は時々どこか遠くを見る目をしているのか。
彼は躊躇いがちに答える。
「本当にいいの?僕なんかの友達で。」
「いいや。あなたがいいの。休み時間も遊べる男の子は私の友達にいないもの。」
「優しいんだね。ありがとう。」
「友達には優しくするものでしょ?これからよろしく… ええと…」
「七倉。よろしくね、岸宮さん。」