6話 リスタート
6話 リスタート
《七倉》
誰だ、この人は。
人のいるはずのない化学室には見覚えのない女子高生がいた。違う学年?いや、同学年であることは彼女の校章の色からわかる。
彼女は口を開く。
「君が七倉くんだよね… やっと会えた…」
「 君は?見たところうちの生徒のようだけど…」
彼女は少し気を落としたように言う。
「流石に覚えてないかな。ほら、小学生の時を思い出して。私を助けてくれたでしょ。」
「…!あ、あの時の!」
僕は唐突に思い出した。なぜ忘れてたのだろう。忘れるはずないと思っていたのに。
「意外だね、七倉君が忘れてたなんて。私はこんな見た目なのに。」
そう、彼女は見た目がほかの人と違う。一言で言うなら、白。穢れの知らない白だ。
彼女と始めて会ったのは小学生の時。2年生の頃だっただろうか。同じクラスのとなりの席だった。彼女あった時には色々な衝撃を受けた。一番大きな衝撃は、見た目だった。
白だった。彼女の肌は白だった。絵の具で塗ったような白でなく、何の色の絵の具も垂らされていない、純粋な白だった。肌だけでなく、髪も綺麗に流れる白だった。
僕は、彼女の体の持つ秘密に心当たりがあった。家にあった本に書いてあったような。なんかの科学雑誌だったのだろう。だから、僕は知っていた。
なぜ彼女はいつも、つばの大きい帽子をかぶっているのか。
なぜ彼女はいつも長袖の服を着ているのか。
そして、なぜ彼女はこんなに内気なのか。
僕は知っていた。だから、その苦しみも少しわかるような気がした。
しかし、
「どうしてここに?」
そうだ。あの日、僕と彼女は離れ離れになってしまった。あの時はもう会えないと思っていた。
「実は、お父さんの仕事が終わって急にこっちに帰ってこれるようになって。」
彼女の父は単身赴任が多く、彼女も父について行き、引っ越していた。
「こっちに戻れる事になって、高校はどうする?ってなった時に、七倉君ならここにいるだろうなって思ってさ。そしたら本当にいたんだもん。ビックリしちゃった。」
「まだみんなは知らないよ、転校生が来るってこと。大丈夫なの?」
そう、そこが問題だ。
「大丈夫よ。過度な期待はさせたくない。だって…」
だって…『見た目がこんなだから』彼女は口にしないが、僕にはそういったように感じた。
「あ、そろそろ始業の時間じゃない?8時半だっけ。」
彼女は気づいて言う。
「そうだよ。僕はそろそろ行かないと。」
そう言って僕は化学室の扉に手を掛ける。すると不意に彼女は呼び止める。
「ねぇ。七倉君は何組?」
「? 4組だけど…」
すると彼女の口角が上がる。
「ふふっ。」
笑う彼女を何年ぶりに見ただろう。
「どうしてそんなこと…」
「いーの。お楽しみは秘密じゃないとつまらないでしょ?」
今日の朝のホームルーム。先生はいつもより遅く来た。1人の生徒を連れて。入った途端、クラス中がザワザワとした。
そして先生は4つの漢字を書き口を開く。
「えー、紹介します。今日からうちのクラスに入る、岸宮由宇さんです。」