4話 見知らぬクラスメイト
4話 見知らぬクラスメイト
《七倉》
母が死んだ。突然のことに実感が現実について来てなかった。僕は1人になった。
1人の生活は苦ではなかった。いつも自分の身の周りの事は自分でこなしていたから。だが、家はいつもより広く感じ、寂しさを与えるようだった。
一週間、僕は学校を休んだ。
一日目。僕は何もせずただ過ごしていた。目的もなく本棚から適当に引っ張り出した本を読んで過ごした。
二日目。僕は一人で生きていく計画を立てた。これからは自分で稼ぐ必要がある。今の家も近々引っ越さなければいけなくなるだろう。
三日目。僕は休みの間に勉強を進めることに決めた。一週間いない間にも授業は進み、追いつけなくなることもある。しかし、あまり僕の問題になるようなことでもなかった。なんといっても、僕はもう高1の勉強はもう大体済んでいるのだから。数学に関しては数IIBまで終了している。だから今日の勉強もその先の範囲だ。
特段変わったことなく、六日が経った。母の遺品整理もあらかた終わり、部屋は余計に広くなったような気がする。遺品整理といってもただ母の持ち物を売るものか捨てるものかに分けるだけだった。まだ実感がないからなのだろうか。それとも、あの暗いナナクラが僕の中にいるからだろうか。選別には驚くほど無感情に取り組んだ。
学校に復帰した。須藤と熊谷はいつも通り接してきた。だが僕はこれ以上に嬉しいことがあった。
それは朝会うなり発された須藤の一言だった。
「よかったら一緒に暮らす?」
彼は東北にいる親から離れてこちらで一人暮らしをしていたため、二人で暮らすことを提案してくれたのだ。
こんなに嬉しいことは今までなかった。もちろん僕は速攻yesの返事をした。
ここから僕は熊谷と二人で暮らすことになった。
とはいえ、二人暮らしはほぼ一人暮らしと変わりない。その中でも家事は二分の一に減り、家に一人でなく、暇を持て余す時間もほとんどなくなったのは大きいものだった。
僕と熊谷は家事の担当を分けた。
家事に慣れてる僕は料理。熊谷には美味しいと絶賛でそれを聞いた須藤は僕の料理目当てにわざわざ二人のアパートまで来た。彼はしばしば僕と熊谷の共同生活を羨むようになった。
一方、几帳面な熊谷は部屋の掃除を志願した。潔癖な彼は掃除好きなようで、初めてここに来た時もその綺麗さに僕は思わず驚いてしまった。
しかしながら、共同生活も楽ではない。今まで熊谷は親からの仕送りで生活していた。しかし、僕が一緒に暮らすには仕送りだけでは厳しい。もちろん、こちらとて居候するつもりはなく、“共同生活”と言うからには、僕にも収入は必要である。祖父母もすでに他界していた僕は働くことでしか収入源はなかった。しかし、校則ではバイトは禁止されている。そこで、なんとしても働かなければいけないということを二人暮らしという状況とともに話すと校長はあっさり許可した。しかも、僕だけでなく、熊谷の許可もだ。こうも簡単に話が進んでいいのか。二人で顔を見合わせるしかなかった。
新しい日常がスタートした。
今日も学校が終わり、僕たちは部活のために化学室に行く。元々は僕だけが行くと思っていたが、熊谷が化学部に興味があると知った須藤が「自分だけ他の部なのは嫌だ」と言ったために三人とも今は化学部だ。
7月にもなれば気づいてくるが、三人には化学の才能と言うのだろうか、取り組み方がそれぞれ異なっていた。例えば、特定の物質を作るときだ。
僕はその物質を作るまでの過程が何となく頭に浮かぶ。それに従い、物質を化合していくというスタイルだ。
僕より頭のいい熊谷はまずは最終的の作る物質の構成を考えて紙の上で何回もシミュレーションする。三人の中で一番成功率は高く、きちんと狙ったものを作る。
二人より若干頭脳の劣る須藤は一番成功率が低い。彼は閃いた手順でとにかく作っていく。しかし、偶然できた物質がまだ何かわからない物だったりして騒ぎを起こす、ちょっとしたで問題児だった。
二人は作業を終えて先に帰ったが、今日の僕の反応は少し時間のかかる反応だったので次の日の朝に反応の具合を確認することになっていた。
次の朝僕は早めに学校に着いた。そして化学室に向かう。
ドアに手をかけると、妙に軽い感触がした。鍵が閉まっていない。恐る恐るドアを開くと、そこには女子生徒がいた。
校章の色から自分と同じ一年生ということはわかったが、こんな人、同じ学年にいただろうか。いや、いたら外見ですぐわかる。
彼女は口を開く。
「七倉くん…だよね。また会えた」
彼女の目は薄く赤が差していて、でも静かな海の底のような色を持っていた。