1話 生
1話 生
《由宇》
初めて祝福された。初めて親の顔を見た。初めて空気を吸い、声をあげた。
1月。私は寒い季節のとりわけ寒い日に生まれた。暖かいところから寒いこの世界に来たことの不快感は未だに若干覚えている。いや、そんな気がするといった方が正しいか。生まれた時の記憶なんてそうそう信用できない。
しかし、この時の助産師の顔だけは異様にはっきりと覚えている。そんな気がすると言ったほうが正しいか。彼女らはとても困ったような顔を互いに見合わせていた。
5年経って助産師の表情の意味がわかった。はじめは母の言うことの意味がわからなかったが、物心ついた時には理解した。
私の髪は白かった。絵の具を垂らす前の紙のように、むしろそれ以上に白かった。
ごく稀に動物にはメラニンの生合成に関わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体が発生すると言う。
私は先天性白皮症、いわゆるアルビノといわれるそれだった。
「ねぇお母さん、何でいろんな人が私を見ているの。」
ある日公園に行った時、私は尋ねた。春の日差しが心地いい日だった。
母は気まずそうに答えた。
「それはね、貴女があまりいない珍しい見た目だからよ。」
「珍しい?」
「そう、だからみんな気になるの。」
「珍しいってのはいいことなの?」
母は困ったように私に言う。
「良いか悪いかなんて気にしなくていいの。貴女はいつでも自慢の私の子。誰に何と言われても貴女は貴女。」
私は頷く。
「でもね、これから周りの人に貴女の白い髪で嫌なことをされるかもしれない。その時は自分を恨んじゃダメ。わかった?」
真剣な表情の母に私は頷くしかなかった。
母は私の髪を「個性」だと言ってくれた。他人にジロジロと見られるのは嫌だったが、母の言葉が嬉しかった。自慢の髪だった。
母は私の髪に非常に気を遣った。なんでも、メラニンの極度に少ない私は紫外線に非常に弱いらしく、長時間まともに日光に当たっていると皮膚がんを発症する可能性がものすごく高くなる。だからいつも、外に出る時は大きなつばのついた帽子を被っていたし、日焼け対策も年中欠かせなかった。
いつも私のことを気にかけてくれた。優しくて大好きな母だった。
その頃妹が生まれた。初めて目にしたのは母のお見舞いに行った時。寝ている妹のほっぺをツンと触っても反応はなかった。しかし、手を触るとその小さな手は私の指を握った。可愛い。
妹の髪は黒かった。しかし、あまり気にならなかった。だって私の妹だから。私と違っても可愛い妹と一緒にいたい、という気持ちの方が強かった。
そうして私はお姉さんになった。