童帝男に乙女ゲー転生は無理がある
ゲームに罪はない。
だから、積みゲーは作らない主義である。
再度言おう。
ゲームに罪はない。
だから、詰みゲー必至のクソゲーでもエンディングまで到達して見せる。
最後にもう一度。
ゲームに罪はない。
だけど、摘みする勇気が必要なゲームが存在する。
高校生に上がってから二度目の夏が来た。
蝉が命を燃やし始め、太陽がこれから本気出すとギラギラしている夏休み初日。母上様による電気代節約エアコン禁止令を受けて、扇風機で暑さを凌いでいた正午のことである。
思春期真っ盛りの俺の部屋に我が家の権力第二位にいる姉上様がノックもなしに勝手に入ってきた。
思春期と言いつつ、早くも三次元を棄て全力で二次元に生きる俺だが、これでも超健全な青少年なのだ。
正午から溢れるエネルギーを放出している可能性だってあり得る。だからせめてノックくらいはしてと切に願う。
特にイヤホンとかヘッドホンしてるときにいきなり来られると心臓が止まるかと思う。物理的に。
少年の心はガラスのハートなのだと理解してほしい。精神的に。女々しくて何が悪い。デリケートなのだ。
まあ、昼間はちゃんと警戒して十中八九ベットに寝そべりながらソシャゲーの作業に励んでいるだけなのだが・・・夜は内緒だ。
話が逸れてしまった。ひとまず、閑話休題。
姉上様はズカズカと部屋にはいるとだらけて視線だけ寄越す俺に一つのゲームを勢い良く渡してきた。いや、渡すというかゲームパッケージが武器にしか見えないスピードで目の前に差し出された。思わずのけ反って後退り。当たったら絶対痛い感じだったね、今のは。
「興味があったらやってみてね。感想待ってるから。」
いや、それ完全に強制ですよね。
それだけ言うとじゃあ予定があるからと片手を上げてどっかに行ってしまった。相変わらず嵐のような姉上様である。
視線を手元に移す。
渡されたのはパソコン用ゲームソフトだった。姉上様の布教用のものだ。
姉上様のゲームスタイルは広く浅くであり、仲の良い友達同士で布教しあってるとのこと。そのためジャンルは様々でかぶった物を俺に渡してくる。
ちなみに俺は狭く深くという感じだ。
母上様と親父からの圧倒的支援で羽振りの良い姉上様と違い、俺には先立つものがない。家の経済は母上様と姉上様のツートップにうちのお金が集中している。何でも女は色々入り用とのこと。
扱いに格差や不平があるのに不満が無きにしもあらずだが、日々の平穏を保つことが出来るのなら安いものだ。
そもそも口で勝てないのだから是非もなし。一言うと百返ってくる。その上、日頃のことまで持ち出されては勝ち目などありはしない。
故に地位の低い俺と親父には雀の涙程度のお小遣いが支給されることになる。一番可愛そうなのは家庭内カーストにおいてぶっちぎりで常にワーストワンに輝いている親父だ。
なんせ愛犬のタロウより低い。
お小遣いの金額もそうだが扱いも酷い。特に金欠に陥ったときの姉上様が親父の頑張って貯めたヘソクリを奪うときがエゲツナイ。
まるで熟練のハンターのように強かながら妖しげな足取りで親父に近づき、狙い済ますと一気に容赦なく口擊する。
結果は見るまでもない。
格が違うのだ。天と地、月とすっぽん、大人と子供。親父も反撃をしようと試みるが、無駄な抵抗だ。狙われたときにはもう既に手遅れだ。成す術などありませんよ。諦めましょう。
チワワがライオンに勝てるはずもない。狼に睨まれる兎に何ができようか。その後の展開は、絵的には蛇に丸飲みされるハムスターが想像しやすいだろう。
残るのは狩られたモンスターのように全てを剥ぎ取られ消えそうな親父。
そんな親父に資金を求めるのは見てわかる明らかな間違いだ。かといって姉上様のように親父からむしり取ることは俺にはできない。というか、そもそも取れるものがない。あったとしても千円届くかどうか・・・。それを取るなんて良心の呵責に堪えられない。
親父は泣いて良いと思う。
その日の夜はいつも晩酌に付き合っている。まあ、俺は聞いてると相づちしながらもスマホ片手に愚痴を聞き流してるだけなのだが。俺ができるのはこれくらいだ。許せ親父。愛してるよ。だから強く生きてください。
そんなこんなで必然と欲しいもの新しいのが手に入らない。そうなると手持ちのゲームをどれ程極めるかに挑戦するようになった。
欲を持たずに生きる秘訣は新しいものを見ないことと衝動に流されないことだ。
どうしても欲しいものでも大体三ヶ月じっくり考えると自然ともう良いかなと思えてくるものである。そして、まだあのゲームでやり残してることを全部やってから新しいのを探そう、と後回しにすれば気が付けば買う意欲が無くなっているものだ。
そんな感じで少ないゲームを徹底的にやり込み、狭く深くの成果を見て姉上様からの一言。
「アンタ変態ね。」
「ハァ?ちっげーよ。変態じゃねーし。俺は変態じゃないから。それとこれとは違うから。俺はまだ変態ではありません。ありませんよっ。いや、まだって言うか。自分でもやり込み具合みて少し引いたけど、まだ許容範囲内だから。ギリギリ、紙一重くらいで変態じゃないから。いや、ホントに。違うから。ちがうから。いやいやいや。ホントn・・・。」
・・・こほん。
失礼。取り乱した。
さて。
改めてパッケージを見てみる。
それはネットを始めとするどのメディアの評価でも物凄く高い評価をされるゲームである。
受け入れやすい主人公。魅力的なキャラクター。分かりやすい設定。笑いあり涙ありの素晴らしいストーリー構成。思わず見惚れるようなイラスト。中の人は人気声優ばかりで、その声と絵ががっちり嵌まってると称賛の声が吹き荒れた。細かな設定ときつめな場面もやんわりと表現する抜群なセンス。先が気になって仕方なくなる、次が欲しくてたまらなくなる。
そう、例えるならタバコやら酒みたいな中毒を引き起こす、そんな一品なのだそうだ。あれ、なんか一気にイメージ悪くなった感じがした。まあ、気のせいだろう。
人に貴賤はない。ゲームもまた同様である。
ただこのゲーム、『永遠の誓いと遥かなる愛を君に』は乙女ゲームなのである。
女子ならイケメンパラダイスにヒャッホイするだけだと思うが、残念ながら俺は男である。何だろうか。この乙女ゲーの手を出しずらさは。少しばかり、いや思ったより抵抗がある。
女性がギャルゲーをするのはありだと思うのだ。愛でる的な意味で。
それが一転、男が乙女ゲーをやるとなると途端ハードルが高くなる。あくまで俺のイメージだが。なんかこう、これをやった瞬間男として大切な何かが失われてしまうのではないかと思ってしまう。
俺はパソコンを起動した。そして、ディスクを入れようとしてそれを止めるを繰り返す。
残念ながら姉上様は絶対。大きな面倒を退けるためには小さな面倒をコツコツ退けるのが最適解だ。
家庭内カースト維持のためなら労力をあまり必要としない媚なら喜んで売り払おう。
その為なら例え男のプライドなど・・・!
いざ行かん、未知の領域へ!!!!
あれから一週間が過ぎ去った。
述べ二十五人にも及ぶ全ての攻略者対象を攻略し、全てのルートをクリアして、当然CGも全部集めて、バットエンドもコンプした。ほぼ寝た記憶がない。ご飯もお風呂もトイレも十分以内に済ませるよう行動した。そしてそれ以外の時間全部をゲームにつぎ込んだ。
今、パソコンの画面にはエンドロールが流れている。
俺はその前に正座をして座っていた。
静かに両手を地面につけると流れるような所作で頭を下げた。そう。それは完璧なるジャパニーズ☆DO☆GE☆ZAの姿勢である。
御見逸れ致しました。
その一言に尽きた。
多大なる感動と興奮を、過剰なる糖分と笑いを。
心は今、全てを成し遂げた達成感とそれが無くなってしまった喪失感で埋め尽くされていた。
間違いなく神ゲーであった。今世紀最大の神ゲーであった。
正直言おう。
嘗めていた。
一週間前の自分をぶん殴ってやりたい。そして関係各所に頭を下げて回ろう。やはり、ゲームに貴賤は無いのだと大声で叫ぼう。
どうせギャルゲーの反転版。キャラ付けなど男の欲望、業の深さ故に属性やら個性やら出し尽くしてる。だから、どう頑張ってもあれの二番煎じ等と言われ始める。ストーリーも大概出揃って先の展開が予測できるものが多くなるものが出るのもしょうがなくなる。
もうパターンが決まっていて、お約束を守っていれば良ゲー扱いが普通だ。イラストさえ良ければ、ボイスさえ良ければ、ストーリーさえ良ければそれで良い。なんてハードルがどんどん低くなっていく。
そのうちありふれた設定では売れないと様々な要素を取り入れ始め、無理なこじつけで辻褄が合わないものだって現れる。
そんな中、このゲームはまさしく王道を往く王道だった。
迷走の末、迷作にたどり着こうとしている今のぐらついてる作品にしっかりしろよと渇を入れてるような作品だった。
無理に変な設定を使わず、剣と魔法の異世界を伺わせる背景にイメージしやすい中世の貴族風学園もの。
人以外のエルフやドワーフ、獣人といった異種族も登場する多種多様なキャラクター。
ライバルヒロインも各々に魅力的で憎めないのだ。
ザマァが好きな人にはそんなに響かないかもしれないが、このゲームは婚約者が存在しない。その代わりに婚約者筆頭候補となる。その令嬢たちと攻略対象の心を射止めるために競い合う内容になっている。
しかも特徴的なのは攻略者ハーレムルートが存在する。
攻略者を愛でながら、ライバル令嬢も愛でる新境地である。
その一つひとつのストーリーが生き生きとしていて、終わったあとはまるで一本の映画を見終わったような感動に包まれた。それが連続するのだ。
夏休みの一週間をつぎ込んだ意義のある、本当に最高のゲームだった!
ふう。
待て、一息ついただけだ。
徹夜とパーフェクトクリアで生まれたハイテンションのままに行った自分でも謎の儀式を終えた俺は立ち上がって背伸びをした。
そしてノートパソコンを自分の机の所定の位置に片付けて、ベットへ向かった。
一週間分の睡眠を取るために泥のように眠るのだ。
「・・・・ださ・ま・。」
声が聞こえる。
「デーヴィットお・・。・き・く・・・・せ。」
・・・デーヴィッド。
デーヴィット・ウォーレン王子。
『永遠の誓いと遥かなる愛を君に』において、メインヒーローの異母弟でありながら攻略不可の名前あるモブ。
メインヒーローの弟らしくイケメンに属すが、影があり陰鬱な雰囲気と陰険そうに顔を歪ませている表情をしているキャラだった。いつも俯いている立ち絵のみで、ストーリーにおいても悪役というほどの役割はなく、最初に主人公にちょっかい出してはしっぺ返しをくらうチュートリアル用に用意された雑魚みたいなやつだった。
「デーヴィッド王子。起きてくださいませ。」
・・・寝る。




