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夢を見る。  作者: 富井
4/21

絵を描く

俺はその日から、最後の宿題の絵を描き始めた。




その時はテレビも見られず、プールにも行けずにもう暇すぎて死にそうだったから始めただけで、特に絵が好きなわけではなかった。


それまでの夏休みの宿題で絵を提出したことは一度もなかった。




描くきっかけも、描きたいものもなにもなかった。


けれどその時は柴乃を描きたいと思った。


同機は単純で、何時間も飽きもせずピアノを楽しそうに弾き続ける柴乃を紫乃自身に見せてやりたい・・・


ただそれだけだった。




俺と紫乃は親がいるとこではあんまり話しをしなくなった。


でも二人は仲が悪いわけではなかった。



「蒼ちゃん、絵描くの好き?」


「あんまり・・・マンガは好きだけどな。」


「マンガ好き?」


「大好き。」


そう言うと紫乃は、いつも俺が見ているマンガの主題歌を弾き始めた。


「なんで弾けるんだ。」


「だって、毎日聞いているもん。」


「聞くだけで弾けるのか?すごいな。」


俺が歌って紫乃がピアノを弾く。なんだかとても楽しくて、大声で歌う。




でもあの女が帰ってくると、二人は話しをやめて、お互いが見えていないかのようにふるまった。




たぶん、紫乃も俺が母親を嫌っているのを知っていたのだろう。




俺がそんな風でも、それになんとなく合わせてきた。


退屈すぎる夏休みが終わりに近づいたころだった。


「俺、おやつ買ってくるけど紫乃はどうする?」


初めて紫乃を外に誘った。それまでは俺が自転車で適当に買って来て分けた。


「僕も行きたい。」


「じゃあ、一緒に行こう。」


二人で歩いて近所のお菓子屋さんに行った。


「二百円ずつだからな。」


そう言って俺が菓子を選んでいると、紫乃は勝手に菓子の袋を開け始めた。


「紫乃ダメだよ。まだお金払ってないだろう。」


「ごめん。コレは買える?」


「買えるけど…チョッと待ってろ、俺がお金を払ってくるから、店の外で食べるんだぞ。」


「蒼ちゃん、これもほしい。」


「コレとコレは買えないよ。二百円までだから。」


「どうしてわかるの?」


「ココに書いてあるだろ。コレとコレを買うと二百八十円になるだろ。」


「そう、じゃあコレいらない。コッチ。」


「この封を開けてしまったのは買わないとダメだろ。」


「でもこれがいい。」




俺は言い返せなかった。




俺は今までばあちゃんや、じいちゃんにねだりたいだけねだって、わがまま放題やって来た罰が当たったんだと思った。


だから、俺が買おうとした菓子を1個諦めて紫乃が欲しい菓子を買った。


「お買い物楽しいね。」


「明日からは俺が一人で買いに来る。おまえは留守番だ。」


「いやだ。一緒がいい。」


「じゃあ、たし算ができるようになれ。だいたい、四年生なんだから、暗算くらいできないとかっこ悪いだろ。」


「かっこ悪いの?」


「うん。」


「でも、できない。」


「家に帰ったら教えてやる。できないと明日から買い物なしだ。」


家に帰って、とっても簡単な勉強を紫乃にやらせてみたけれど、恐ろしくできなかった。


俺の1年生の時の計算ドリルを何度もやらせてみたけれど、あっているのは三個くらい。


すぐ飽きてピアノをひきだしてしまう。


「もうちょっと頑張れよ。明日お菓子買いに行けないぞ。」


「嫌だ。行く。」


「今日みたいになるだろ。」


「買えたよ。」


「買えたじゃない。俺が我慢したんだ。いいか、明日は絶対二百円ずつだからな。」




一人は気楽だった。


イライラすることもない。


二人になっただけで、たった一人増えただけでとてつもないストレスを感じていた。


次の日もまったく同じことをした。




「なんでだよー。買うまで開けちゃダメって言っているだろ。もーどうするんだよ。」


「ごめん。」


「ごめんじゃない。」


結局また俺が我慢することになった。


せんべいは嫌いだった。硬くてしょっぱくて、2枚も食べたらお腹がいっぱいになる。


甘くて柔らかいお菓子が好きなのに、紫乃のせいで、2日連続のせんべいが嫌でたまらなかった。しかも隣で紫乃はチョコのお菓子を嬉しそうに食べている。




「なんで紫乃は計算ができないんだ。ほんのちょっとの計算でも全くできないし、やろうともしない・・・」


晩御飯の時、親に聞いてみた。なんでこんなに勉強ができないのか不思議だったからで、別にバカにしていたわけではなかった。


「紫乃は長い間入院していたから、学校に行ってないんだ。だからだよ。」


「ピアノはこんなに弾けるのにか?」


「ピアノはお母さんが教えていたから・・・・」


「でも、ピアノは病院にはないだろ。勉強は教科書とノートだけでできる。


それに・・・」


「蒼史、もういいだろう。」


「ごちそう様。」


父親が話しをさえぎったから、俺は箸を置いて、部屋へ戻った。





俺がいいたかった事は、小学生の勉強くらいなら親だって十分教えてやれるだろうって、ピアノより簡単だ。


たぶん、そこまで言っていたら人生三度目のビンタを食らうことになっただろう。

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