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夢を見る。  作者: 富井
13/21

冬休みまではあっと言う間だった。

俺は終業式が終わるとすぐに学校を出た。少しでも紫乃のそばにいなければと思い、急いで帰った。

紫乃はあのあと回復し、学校でもなかなかの成績で、何かコンテストでも賞を取り、小さなコンサートも何回かやったらしい。

俺は何も知らなかった。

一度もそういうところで紫乃を見たことはなかったし、親からも教えてももらえなかった。家に帰ってきて飾ってある賞状や写真を見て初めて知った。

スーツに蝶ネクタイの紫乃を囲んで、嬉しそうに3人で写っている写真がいっぱい飾ってあった。


・・・なんだかまぶしく感じた。


帰ってきて早々に出かけた。また山中のところだ。

ほかには特に行くところなどない。


「蒼史君。君、本当に絵には興味がないのか?」

「はい。まったく。」

「奨学金の話しや、留学の話しもあるんだけど。」

「何度も言いますが、俺、紫乃を食わしていかないとだめなんで。絵で食っていけると思えないんです。留学しても売れる絵が描けるとは限らないでしょう?

途中でダメになったら、誰が紫乃の面倒を見るんですか?」

「それはそうだけれども、君もまだ高校生だ。少しくらいは夢をみてもいいんじゃないか?」

「そんな話なら失礼します。紫乃が家で待っていますので。また、夏休みお邪魔します。

紫乃に新しい絵を描いてやらないといけないので。」

俺は山中のところを後にした。冬休みは短い。


「次は春休み・・・」


春休みは帰ってくることができるのか、とても微妙だった。

約束していいのか・・・紫乃を元気にするためには仕方ないと嘘をついた。


どうせ覚えてなんかいないだろう、今回だってコンサートやコンテストに出られるほど回復したんだ、・・・どうせ俺なんかいてもいなくても


・・・ほんの軽い気持ちだった。


春休みは帰らなかった。


進級の為の論文もあったし、聞けば紫乃もコンサートやコンテストがあって忙しそうだったから、もう帰る必要もないかと思っていた。


春休みに入って数日、珍しく父親から電話があった。


紫乃がいなくなったと言う電話だった。


俺の学校のある地域でコンサートが開かれることになり、こちらに着いてそうそうに俺に会いに行くと行って出掛けてしまったらしい。見た目はごく普通の高校生だ。でも、何度説明を受けても道は覚えられない。絶対、迷い子になっているに違いない。


俺は寒気が走った。

(どうやって探せばいい・・・)

この感じ、子供の頃に何度も味わった。

とりあえず校舎から飛び出した。


門に1台のタクシーが止まっていた。

「蒼ちゃん・・・・」

紫乃が手を振っていた。

「ごめん蒼ちゃんお金ない。」

「わかったよ。大丈夫だから。」

紫乃は俺の学校の名前だけが書かれた紙切れだけを頼りにここまで来たようだ。

どこからタクシーに乗ったのか知らないけれど、びっくりするほど払った。


「紫乃、コンサートだろ。」

「だって蒼ちゃん来てくれないから・・・」


「ごめん。勉強が終わらなくて。お父さんに連絡するよ。」


「僕、帰らないよ。今日は蒼ちゃんと寝る。」

「わかった。でも、心配しているから電話だけはするからな。」



父親にはまた怒られた。


なぜ怒られるのか、納得できないが「すいません」と謝った。


謝ることで終わればそれが一番楽だと思ったからだ。


俺はまだ勉強があったから、紫乃にはしばらく使われていないホールのピアノを弾かせた。


俺も紫乃のピアノの音色を聞きながら勉強をした。


するとまた、アニメの曲を弾き出した。


「いきなり何だ?」

「蒼ちゃんの応援歌です。」

「五時だからか?」

「そうだね。五時からはテレビの時間。」

「紫乃、もう勝手に出て来てはダメだぞ。」


「蒼ちゃん帰って来れない?また前みたいに一緒に住みたい。一緒にご飯食べて、一緒にテレビ見て・・・」


「そのために今頑張っている。早く大人にならないと一緒に住めないんだ。」


「ふうん。」

「今はお父さんとお母さんがいるだろう。二人に支えてもらえ。その後は俺が支えるから

紫乃はピアノだけ弾いていればいいよ。」

「わかった。」


紫乃はアニメの曲を弾き続けた。その曲に合わせて俺が歌った。あの時のまま、時が止まれば本当によかったのだけれど、俺は大人になる時が来た。


俺にならなければいけない時がきたんだ。


紫乃と寮のベッドで寝た。同じ部屋の隆は帰省していて助かった。

弟に障害があるなんてできれば言いたくはなかった。


寮のベッドは狭くて、俺は結局、床で寝た。

あのときと同じだった。

翌日、父親と母親がそろって早い時間に迎えに来た。


父親は仕事を休んだんだと思った。


俺のためには一度もした事のないことを紫乃には出来るのだなと思っていた。


紫乃はまた泣きべそを描いて手を振った。


俺も車が見えなくなるまで手を振った。

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