必然
「倉木裕貴。22歳です。4年前までこの高校に通っていて、みんなの担任の谷原先生にお世話になってました。
これから4週間程ですが、よろしくお願いします!」
凛と通る爽やかな声、白い肌に茶色い短髪。少し曲がったネクタイ。
気が付くと私は彼を見つめながら涙を流していた、、
すると担任の先生が
「猫澤?どうした?具合でも悪いのか?」
キーンコーン、、
タイミングよくチャイムが鳴り、私は慌てて
「あ、ちょっと気分が悪くて、、!
、、保健室に行ってきます、、。」
と言って席を立った。
歩きながら考える。
(何、さっきの。
初めて会ったのに、知らない人なのに、、
逢いたかった、、なんて、、)
そんな事をぼーっと考えながら歩いていると後ろから
「おい!大丈夫か?」
「えっ!、、ゆ、、倉木先生。はい、、。大丈夫です。」
「確か谷やんが猫澤って言ってたよな?
5月なのに今日は暑いから、もしかしてそれで具合悪いとか?」
優しい声。
心配してくれてるのが伝わる、、
暖かい。嬉しい。また泣いてしまいそう。
そんな思いに駆られて、思わず見つめてしまう。
すると彼は
「目も潤んでるし、顔も赤いな、、
保健室まで着いてってやるから、クラスのこととか教えてくれよ!」
とまた優しく笑ってくれた。
そして保健室に着くまで他愛のない話をした。
自己紹介をすると
「ねこさわみやこ?すげー猫!って感じの名前なんだな!可愛いし、みんなから慕われそうじゃん!」
と言ってくれて、嬉しかった。
クラスはめんどくさがりが多いとか、数学の平均点が低くて、実力テストの後に怒られたとか、1年から一緒のクラスの子は誰だとか。
そんな話。
保健室に着くと保健の先生に体温計を渡してもらって測ってみると、38.2°、、
熱があった。笑
私の家は母しかいなくて、仕事に迷惑をかけたくないから一人で帰るつもりで保健の先生にはなすと、倉木先生が
「午前は授業がないから、車で付き添うよ。」
と言ってくれて、担任の先生からもOKが出たので、甘えることになった。
徒歩でも20分ほどの距離。
車なら10分もかからない。
それでも嬉しかった。
先生に住所を伝えると、
「俺ん家の近所じゃん!全然合わなかったなー!」
と言われて驚いた。
話を聞くと、先生のお家は私の家から徒歩で5分ほどの場所だった。
「あの交差点のそばの駄菓子屋さんわかりますか?」
「あのばーちゃんとでっかい犬のいるところ?」
「はい!あのわんちゃんテツヤって言うんですけど、実は女の子で、去年5匹も赤ちゃんが生まれたんですよ〜!」
なんて地元トークで盛り上がってたら、あっという間に家に着いた。
「あの、、これからまだ授業があるのに、実習初日に送ってくださってありがとうございました。」
「いいよ。感謝してくれるのは嬉しいけど、早く元気になってくれたらもっと嬉しいよ。実習に来て初めて話した生徒だしな!」
「はい、、。 授業頑張ってください!」
「おう!じゃあまた。お大事にな!」
先生の車が見えなくなるまで玄関で見送った後、ドキドキ音が止まらない胸に手を当てながら家に入って、ベッドに横になった。