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4:変身

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


パラパラと石の破片が揺れる天井から落ちるのを眺めながら、ヒーローになるきっかけとなったあの事件を追憶していた。


「…しゃあーねえーなぁ。 正直、全然やる気ないけど。」


地下シェルターの出口はっと、ここから2時の方向だったな。 騒ぐ人々の間を俺はゆっくりと縫うように歩いていった。すると、さっき絶望して崩れ落ちたお兄さんが俺にこう言った。


「お、おい!!君!地下シェルターから出る気か!? 死ぬつもりか!?」

「あぁ、死ぬかもな。地上で暴れてるメルスさまがな。」

俺は歩みを止めることなく、背を向けながらお兄さんに手を振った。


後ろから俺を止めようとするお兄さんの声が聞こえた気もするが、喧騒に打ち消されて彼の声かどうかは分からなかった。


そういえば、かえでのやつ途中でメルスの攻撃のショックで気絶してたな。この場合、好都合かもしれない。 だって、俺がヒーローってことばれたら、めんどくさそうだしな…〔私のこと置いてどこにいっちゃったの!!プンプン!〕とか言って怒ってそうだな… 帰ったら何か奢ってやるか。


そんなことを考えていると地下シェルターの出口に目の前まで来ていた。


「さ、始めますか。」

気怠そうな声で、それでもどことなくやる気が感じられるその言葉は、これから待ち受ける彼の人生を大きく変えることになるとは誰も知らなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


地下シェルターを開けると、そこには見るも無残な光景が広がっていた。 家や橋は倒壊し、木々は倒れ地面は割れている。稀崎英雄は、手を頭にあて、あちゃー大分やられてんな、とため息混じりに言う。

そして、稀崎英雄は10時の方向にメルスがいるのを認めた。 その容貌は、いかにも《エイリアン》っぽい見た目だった。 緑色の皮膚をしており、首が異様に太くて長く、首の先には顔らしきものが付いているが、その顔に目や鼻は存在せず、二本の触覚のようなものだけが見えた。 そして短くて太い足が二本ついている。問題は胴体の周りから無数に生える触手のようなものだった。

「うっひゃー。気持ち悪りー。宇宙にはこんな生物がうようよいるって思ったら、一生地球から出たくなくなるな…」


英雄は、相手に聞こえないように言ったつもりだったが、その緑をなすメルスの触覚はピクッと動き、長く太い首のを英雄の方に向け、一目散に向かってきた。

「あーあ気づかれちまったよ。 …でも、 早めに終わらせたいのはお前も一緒みたいだな。」


英雄は両手を前に構え腰を低くし、戦闘態勢に入る。 メルスは奇声を上げながら向かってきて、 いくつかの触手を1つの束にして、英雄を殴ろうとしているのが分かった。


「いくぞ〜〜。 何年ぶりの【スパイラルブロウ】をお見舞いしてやるよ!!!」


「なぁ〜〜〜〜にが【スパイラルブロウ】よ!!! 」


その声と共に、直径1メートルはくだらないほどの大きな氷が、英雄と拳を交えそうになっていたメルスの体を直撃し、メルスは遠くへ吹っ飛んでいった。


「へ?」

稀崎英雄は、【スパイラルブロウ】を見事に空振りをして、声が聞こえた右の方向を向く。


「へ?じゃないですよ…!!! 危うく死ぬところだったじゃないですか…! アホなんですか? 死にたいんですか? 死にたいなら1回死んで、生き返ってまた死んでください!!」


罵詈雑言を英雄に浴びせているのは、プ●キュアの主人公が着るような、キラキラしていて生地もふわふわしているいかにも子供の女の子が好みそうな衣装を着ている少女だった。

手には水色の装飾が施された棒のようなものを持っており、まるでテレビ画面から出てきたヒーローそのものである。

英雄は、ふっ、鼻で笑った後にこう言った。


「お前、大分痛い格好してるな。」


ムキーーッとその少女は怒る。


「ちょ、折角助けてやったのにお礼の言葉もないのですか!?? 伊織、怒っちゃいますよ?」


短くて小さなステッキをぶん回しながら彼女は言う。


「それに、あなたどう見てもヒーローじゃないですよね? 一般人はそこのシェルターに避難しろってアナウンス聞かなかったんです!?」


「そっくりそのままその言葉をお返しします。」


英雄は両手で何かを差し出すようにして、頭を下げる。


「ふふーん、伊織のこの素敵な衣装のよさが分からないんです」逆に私がヒーローに見えないって凄いですよ? メルスも頷くレベルですよ?!」


続けて伊織が、胸に手をあてて誇らしげに言う。


「私の名前は〔水原伊織(みずはら いおり〕! E-ject所属のA級ヒーローであります! 首都圏では結構有名なんですよ?」


「へぇ〜〜! 本当にヒーローだったんだ、コスプレ大会に紛れた少女じゃなかったんだね。」


すっとぼけた顔で、英雄は平然と返す。

水色の透明感のある、ふんわりとカールされた伊織の髪の毛が、地団駄を踏むたびにふわりと揺れる。


「 〜〜〜〜!!!!!!//

っていうか!あなたは誰なんですか!レディーに先に自己紹介させないでくださいよっ!もぉ〜。」


「俺?俺の名前は稀崎ひで...うぉっと!」


名前を言い切る前に、起き上がったメルスが触手で攻撃してき、英雄は間一髪でよけた。


「は!そういえば、何か動きが鈍いなと思ってたら、俺まだ変身してなかった…!! 」


英雄の顔は見る見るうちに真っ青になり、伊織は白い目で英雄を見つめる。

(この人、本当に危ないやつなんじゃないんですか…)

そう思っていた矢先、メルスが第2波の攻撃を仕掛けようとしているのが視界の隅に捕らえられた。


「っっ!!あっ!危ない!!!」


伊織は、茫然自失している英雄を忽然に押しのけて、メルスの攻撃を体全体にもろに受けた。


「きゃぁっ!」


伊織は、攻撃の勢いでそのまま後ろの瓦礫まで吹っ飛ばされ、勢いよく叩きつけられた。


押し退けられた英雄は正気を取り戻し、倒れている伊織を認めた。


そこには、追撃をしようとするメルスが徐に伊織に近づく。

振り上げた触手は、大きな塊を作っている。

メルスが大きな塊を伊織に振り下ろしたその瞬間、メルスは後ろから拳の一撃を喰らい、再び大きく吹っ飛んだ。


「悪かったな、A級ヒーロー水原伊織ちゃん。

随分と戦いから離れてたもんだから、変身忘れちゃってたんだよ…。」


全身真っ赤のヒーロースーツに、頭部にはV字型の黄金の装飾が飾られており、首には黄色のスカーフが巻かれている。ヘルメットで覆われている顔のうち、目の部分はサングラスのような偏光グラスで覆われていて、2つの偏光グラスの下には白い流線が流れている。


ついに、稀崎英雄はおよそ7年ぶりに変身したのである。

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