2: 第二の目覚め
流れ星?がこの付近に衝突して、俺は爆発とそれに伴う爆風を背に受けながらかえでをぎゅっと強く抱きしめていた。
…死んだと思ったが、あの大きな流れ星?の見た目から予想していたより、それほど強くない衝撃波だった。 俺は目をそっと開ける。その麗しい瞳の中に涙を浮かべながら、腕の中で震えているかえでの安全を確認する。
「かえで、大丈夫か?怪我はないか?」
「…う、うん。でも怖くて足がすくんじゃって動けないよ…。」
俺が支えてやらないと今にも倒れそうに見える。
「そうか、じゃあ俺がおんぶして安全なところまで一緒に行こう。」
「だめだめだめ!それだけはだめだよ!!私、重いし、、それに…」
こんな危険な状況にありながら、恥じらいを見せるかえでを、俺は不謹慎ながらにも可愛いと思ってしまった。違う違う!そうじゃなくて!今は安全を第一に考えないと!
「大丈夫だよ。俺だって一応生物学上では雄に分類される! 余裕だから、ほら、よっこいせっ!」
「わっ、わわわっ///」
俺はかえでをおんぶしようと腰をかがめ、無理やりかえでをおんぶさせた。
「うっっっ!!」
よ、予想以上に重いことに気づいた俺は、一瞬、少しだけ顔を引きつらせてしまった。でも、かえでに恥をかかせちゃいけない、絶対に安全な場所まで連れていく、と決心して余裕の笑みをかえでに向けた。 ここでへたれたらヒーローの名前にふさわしくないよな!
……どうしてヒーローの話になるんだよ。俺の名前は英雄だろ?それはただの固有名詞であって、一般的なヒーローとは何にも関係がない。 …まあ、俺自身は「一般的」ではないのだろうけど。
「重くて支えきれないって思ったら、すぐ下ろしていいからね!!!//」
心配するな、と一言だけ添えて、俺たちはメルス襲来用に作られた地下シェルターへと逃げ込んだ。
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地下シェルターにつくと、ここらに住む住民が既に避難しているのが見えた。 よかった。流れ星?が落ちたといっても、人を殺すほどの衝撃は発生しなかったみたいだ…
安心していた矢先、地上から耳を割るほどの爆撃音が聞こえた。同時にそれに伴う地震が起こり、自然発生したものでないことは自明のように思えた。ま、まさか、さっきかえでが言ってたメルスがこの街に来たんじゃ…
「さっきの流れ星は、普通の流れ星じゃない!!!! あれはメルスが侵略してきたんだ!!!」
地下シェルターに避難している誰かが、スマホから情報を得たのだろう、メルスの存在を周囲に大声で知らしめた。
地下シェルターに避難している群衆は宇宙人の到来に愕然とし、忽ち喧騒に包まれた。
おいおいまじかよ、よりによってこの街に来たのかよ、それも今日新学期初日だぞ!?
おめでたい日にとんだサプライズだな…。
こんなことを考えている間にもずっと、かえでは俺と腕を組んで俺から離れない。無理もない、こんな平和の象徴みたいな子だ。
「英雄くん… 大丈夫かな…」
「今までメルスが地球にやって来た時は絶対に、ヒーローがすぐ駆けつけて すぐにやっつけてるから、今回もすぐ終わるはずだよ!だから、俺たちはここでじっと待とう、かえで。」
かえでは小さく頷き、それ以上は何も喋らず、再び俺に密着している。 …そのおおきなマシュマロを俺に押し付けながら……。
「お、おい…これ今回マジでやべえんじゃねえの……」
さっき流れ星がメルスだったことを叫んでいた男がスマホを見ながらぶつぶつ喋っていた。 どうやら彼はTV付きのスマホらしい。
「どうかしたんですか?」
俺は何も考えずに彼のスマホを覗き込んだ。彼の顔には絶望がありありと見てとれる。 その表情の理由がすぐに分かった。
「なっっっ…!?? 既にやってきたヒーローが、瞬殺……!? 」
俺はあまりの驚きで数歩後ずさりしてしまった。驚いたのは俺だけじゃない、その彼も同様に驚いているのがよく分かった。
「 ヒーローは大体1つの地下に1人設けられている。そのヒーローが今、やられた。【UOC】(未確認生物対策委員会)からヒーローは新しく派遣されるだろうが、その【UOC】本部は東京にある。ここはそこから遠く離れている…。恐らく早くても30分はかかるだろう。 その間、この地下シェルターが見つからなければいいが… いや、見つからなくてもこのメルスは次々と隣町を侵略しはじめるだろう。どちらにせよ犠牲は…」
まだ私には家族と子供がいるのに…と、その男の人はスマホを手放して泣き崩れた。そうだ、地下シェルターと言っても、所詮は人間が作ったもの。未確認生物で未知の能力をもつメルスが地下シェルターを突破してこないという保証は全くない。 さっきの大きな衝撃音はもしかしたら既にあのメルスはこの地下シェルターの場所を突き止めている証拠かもしれない。
ドンッッッッッッ!!!!!!
「キャァァァァァァァアアア!!!!」
住民が悲鳴混じりの金切り声を上げる。
再びさっきと同じくらいの衝撃音がなり、地面が響く。 やはり、ここの場所を突き止めているのに違いない。
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俺はなぜか、中学校の頃に読んだ、ルソーの『エミール』を思い出していた。
確か、その中の言葉が強く印象に残ったんだっけか。『私たちはいわば二回この世に生まれる。一回目は存在するために。二回目は生きるために』
俺は稀崎家の第一子として『存在するために』生まれてきた。それは間違いない。
「二回目は生きるために、か。」
何度も何度も轟音が鳴り響き、揺れる地下シェルターの天井を見上げながら俺はつぶやく。
パニック状態に陥っている住民と、それに随伴する喧騒の中で、俺はまるで先の方に向かって鋭く尖っていくランスであるかのように1人感じていた。
気がつくと俺は「あの時」のことを思い出していた。
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