この世界は異世界である。
この世界を表現するならばファンタジーワールドだろう。この世界は元いた世界と大きく異なっている。日本という国に酷く似た文化を持った国はあれど名はヤマトの島国という、そしてそれ以外の国は全く知らない国や土地が乱立する世界にいた。
ブリュンレーナ・キーアラツァー。
どうやらそれが私の名で私の出身はヤマトの国。いや待てヤマトの国は私が生まれた日本と酷く似た文化を持っている、日本語と同じようなヤマト語という物がある。それなら私もヤマトらしい名前でなければ可笑しいだろう、何?出身自体はそうだが両親自体の出身は他国?ああそういう事なのね……。
兎も角私はあのクソ幼女によって肉体を交換させられほぼ強制的に転生、第二の人生を歩む事をしなければならなくなった。生前男として生きてきた自分には酷く苦痛な人生としか言いようがないが12年も過ごせば嫌でも慣れてくるのが嫌になってくる。人間というのはどんな事にも時間さえ掛ければ適応する事ができる生物である、肉体的に出来るかはさて置くとして精神的には可能である。
そんな女としての生活に好い加減に慣れた12歳の4か月目の昼下がり。執務室で書類仕事に勤しんでいる、12歳の幼女がご立派な部屋で書類仕事というのは可笑しいだろうか、世間一般的には可笑しいだろう。この世界を管理するも同然のギルドに所属する最後の憲兵団の頂点たる私が優秀なのだからここにいるのだ………決して自惚れなどではそうギルド本部に評価されているのだから。
「燻銀の戦乙女……大層な名を貰ったものだ」
「隊長、如何致しましたか?」
「クリモフ補佐官、それは君が気にすべき事なのかね」
独り言を救い上げてくる補佐官を牽制しつつ溜息を付く。しかし何故こうなったのだったか、両親に育てられていたが魔法の高い適正がある事が判明して5歳なのにギルドに入る羽目になった。幼いが熟練の魔法使い顔負けの力を宿している私は期待を受けつつ様々な指導を受け成長した。その結果がこれである。
「隊長、こちらが本日最後の書類です。お疲れ様です」
「うむ、本日も無事に終わったか」
前世の記憶を持つ私はあっという間に魔法の知識や術式を吸収していき一人前には15年かかると言われているらしい魔法をマスターし8歳にはS級魔法使いの資格を得た。両親もそれに酷く喜んでくれていたが同時に私を恐れていた。まあ当然だろうな、8歳の子供が15年の年月が掛かるのを3年で終わらせたのだから恐れて当然、寧ろまだ縁を切っていないのが不思議なほどだ。因みに母は専業主婦で父はサラリーマンだ。
「本日の業務は終了致しました。真にお疲れ様でした」
最後の書類にサインとハンコを押し終えるとクリモフ補佐官の事務的だが何処か優しげな声が終わりを知らせてくれる。ぶっちゃけ私は忙しい、最後の憲兵団とかいう物を設立してしまったせいで忙しさが倍増してしまった。
―――こんな餓鬼が俺たちの役に立つ訳ねえだろ。
そんな中年魔法使いの言葉に苛立ちと怒りを覚えて反抗的になった私は当時持てる限るのコネと人脈を使って人材を集め作ったチームが最後の憲兵団。それは瞬く間に成果を上げていき気づけばギルドの中でも屈指の強さを誇る集団となっていた……何もここまででかくする気はこれっぽっちもなかったんだよなぁ。なんで途中でやめるって考えが出なかったのだろうか……。
「そういえばギルドより第3班への褒賞が来ていました」
「そうか、紛いなりにもオークオーガ二個小隊に相当する群れを掃討しルートを開拓したのだからな」
「はい、我ら最後の憲兵団の評判はまさに鰻登り。飛ぶ鳥を突き飛ばして空を支配する勢いです!」
既に世間的な評判でいえばギルド最強の所属チームとして名を馳せている憲兵団が更に何かをやらかした程度にしか思われないかもしれないとブリュンは考える。それはあっているようで間違っている。
オークオーガは十段階ある危険度でCランクに位置し群れを成せば都市の一つの機能を壊滅させるほど。そんなら怪物の群れをたった20人編成の班が単独で殲滅したという事実は世界に駆け巡るニュースになり得るもの。つまり更に最後の憲兵団の評価は上がっていくことを示す。
また一歩、ブリュンレーナの目的である辞任が遠くになったことも意味していることに全く気付いていない。




