第一章
顔の見えない彼女は僕に問いかける。
「ねぇ、もしも君に翼が生えてたら、空を飛びたい?」
この言葉を聞き終え、目が覚める。よくわからない夢だ。空を見上げると鳥が飛んでいる。高く高く、空高く。
「翼が生えてたら飛ぶに決まってるだろ。鳥たちのように自由に。」
手を伸ばし鳥を掴もうとするが掴めるはずもない。予鈴が午後の退屈な授業が始まることを知らせる。嫌々だが屋上の階段を下りていく。授業は面倒で退屈だから気が引けるが、学生なのだから仕方がない。しかし、窓際の席であることが救いだ。空は見やすいし何より周りと目が合わない。とても居心地がいい。鐘がなり授業が始まる。
退屈な授業を耐え僕は教室を出る。放課後は決まって屋上を訪れる。昼も来たが放課後は放課後で空の色が違うから好きだ。いつも誰もいない屋上にただ一人。本を読むか空を見上げるかして日が沈むのを待つ。日が沈む少し前から、フェンスに近づき夕陽を見る。夕陽の赤に自分が燃やされるような気持ちになる。灰になってこの世からいなくなれるような気持ちになる。だから、夕陽が一番好きなのだ。
夕日が沈む少し前頭上を一羽のカラスが飛んでいく。子供のもとにでも帰るのだろうか。帰りを知らせるかのように鳴いている。もしかしたら、僕に帰れと言ってるのかもしれない。まだ、日は沈まないまだ帰るわけにはいかない。帰ったとこでなにも面白いことは無いのだからもう少し、このきれいな光景に浸らせて欲しい。
「なにしてるんですかぁ?」
後ろからの突然の声に反応ができない。
「無視はひどいです」
「あ、いや。そんなつもりはなかったんです。ごめんなさい」
そこには僕と同じ学年であろう女の人が立っていた。周りと目を合わせることが嫌いな僕には、それが誰だか分からない。でも、声に少しだけ聞き覚えがある。
「あ、鳥だ。カラスですかねぇ。夕陽で真っ黒だから全部カラスに見える」
彼女は微笑みながら僕のことなど気にせずに、まっすぐな目で飛んでいるカラスを見ている。
「ねぇ、もしも君に翼が生えていたなら、空を飛びたい?」