第7話 鬼、侍、騎士、集合
注意︰この物語はフィクション(創作)です。実在の地名を使用している(日本など)等々ありますが、実在の地名、人物などとは無関係です。あくまで作者たかゆきの創作でございますのでご了承ください。なお実在の人物や場所を誹謗中傷する目的もありません。読者の方々も誹謗中傷などはご遠慮ください。
坂本文助、侍。女騎士と共にいたところ、謎の女に愛人宣言されました。
端的に説明するとこうである。しかもその女、男を吹っ飛ばす怪力女ときたもんだ。
「あのー、愛し合ってたってどういうことだ?」
文助は冷や汗をダラダラかきながら聞いた。ちなみに文助には恋人も結婚相手もいない。まるで覚えがないのだ。
「どういうって、、私たち、夢で愛し合ったじゃない♡あなたが主人で私は健気で献身的な愛人で、、♡」
「ちょっと文助?あなた、こんな幼い子に何したの?」
鈴月が軽蔑に満ちたジト目で文助を睨む。文助は鈴月と目が合うと一層焦った様子を見せた。
「なっおいおい!そんなはず無いのはお前がよく知ってるだろ咲!そもそも夢って何だ、お前の勝手な妄想じゃないか!」
文助は見に覚えのない疑惑をきっぱり否定した。
しかし桜の紅い顔と、鈴月の軽蔑の目は止まなかった。
すると追い詰められた文助は鈴月の手を掴んで歩いて逃げようとした。
「行くぞ咲!」
「え、ちょ文助、、」
(この女、絶対頭おかしい!早く逃げねばもっと面倒くさくなる!)
だが目の前に桜が立ちふさがる。
恐ろしいすばやさだ。やはり身体能力は普通ではない。
しかもその目はハートマークだ。
「くっ、いつの間に、、おい、そこをどかんと斬るぞ!」
だが、そんな文助の脅しは桜にはきかなかった。むしろ体をくねくねさせて喜び始めた。
「ダーリンに斬られるなら最高よ♡」
文助の顔は急激に青ざめた。
(オエ、明らかにやばい女だ、、、)
「とにかく、人違いだ。お前の運命の人とやらは別にいる!見つかるといいな!」
すると文助は鈴月を抱え、渾身の力でジャンプして桜の上を通り、そのまま走った。
「文助、、! こんなとこ誰かに見られたら、、」
「静かにしてろ咲、とりあえず逃げるぞ!」
「待ってよダーリンーーー!!!」
その声を聞いた文助の背筋に寒気が走る。桜が追いかけてきているようだ。
文助の足に追いつく彼女の足の速さも、これまたすさまじいものだった。
「な、なんという俊足、、、」
「待って!ここを右に曲がって真っ直ぐ行ったら、私の案内したかった店があるわ!」
文助は鈴月の指示を聞き、右に曲がってひたすら前へ走った。
桜は相変わらず追ってきている。
「あれをどうするのよ。」
嫌な顔をしながら鈴月は言った。
「なんとかまく。屋根に登るぞ。」
そう言うと文助は、鈴月を強引におぶると店の近くの建物の屋根に登った。
「ちょっ、文助!?」
「ここまで来ればいい。あとはあの女が通り過ぎてくれるのを待つだけだ。」
ひとまず文助は一息つくことができた。あの女もさすがに屋根の上に逃げたとは思うまい。江戸で岡っ引き達から逃げ慣れている文助ならではの策である。
すると文助の手を柔らかな感触が襲った。
それを彼は不思議に思い、とりあえず揉んでみた。
(ほう、、悪くない、、なんだこれ、、)
「ちょ、ちょっと!どこ触ってるのよ!」
文助の頭に鉄拳が何発も入る。彼が揉んでいたのは、鈴月のお尻だった。どうやらおぶった時にちょうど手がその位置にあたったようだ。文助の頭には何個もたんこぶができた。
「す、すまん、すぐ位置を変える、、」
文助が焦って手の位置をなんとか変えた。
「悪気はない、許してくれ!」
「黙れケダモノ!」
鈴月は顔を赤らめ、また頭をぽかぽかと殴りながら怒鳴った。
「や、やめてくれぇ、、」
何発か鈴月の鉄拳が炸裂した時。
その時、急に文助が黙り出した。
「え、文助?どうしたの?」
鈴月も文助の様子を察し尋ねた。
「俺からおりろ。」
文助の声色が変わっている。
「えっ?」
「そ、その、言いすぎたかしら、、」
「違う、来るぞ、構えろ。」
文助は鈴月を下ろし、居合の構えをした。
(なんだ、この痺れるような気配は、、)
文助はただならぬ気配を感じていた。それは文助に恐怖心を掻き立てるような気配であった。
「文助?」
鈴月は訳の分からないというような顔だった。
「来るって、あの女が?まいたんじゃないの?」
「わからない。だが気をつけろ。」
すると、声が聞こえた。
「ダーリンーーーー!!」
桜の声だ。どうやら屋根に登ってもまけていなかったらしい。
そして声の主、桜は当然文助を追って屋根に登ってくる。
しかし、その桜の様子に文助は驚くことになる。
「な、なんだ!?」
現れたのは、まぎれもなく桜だが、右腕が獣のように変化した桜であった。
人間のものの数倍は筋肉量がありそうな腕。どうやら殺意はないようだが、桜の目はとろけていてもはや正気では無い。
あんな獣の腕で攻撃されればいくら文助でも助かるかわからない。
(まずいな、なんだあれは、、だが自衛のためなら見知らぬ女に刀を抜いてもよかろう。)
そこで桜が猛スピードで文助に突進してきた。もはや文助を目標に我を失い、殺気はなくとも殺しかねない雰囲気である。
「秘家 絶壁!」
文助も負けじと技を放つ。
ゴンッ
鈍い金属音をたて、文助の刀と、桜の獣の腕が衝突した。
普通の店の屋根の上で獣同士の衝突が起こる。桜の気迫、それに対抗する文助両者とも凄まじいものであった。
桜はまるでまたたびを数年ぶりに山盛りもらった猫のように、また世界一のご馳走を目の前にした貧者のように、正気を失っている。
そばにいた鈴月はただ驚くばかりであった。だが桜の腕を見て何かを察したらしい。
「あの腕って、、」
そう言うと鈴月は剣を抜く。その剣は次の瞬間白く光り始めた。
(馬鹿な、、俺が、、押されてる、、)
刀はじりじりと桜の獣の腕に押されていた。このままでは押し負けてしまう。
(どういう訳か分からんが、こいつの狙いは俺、、
なんとか鈴月だけでも逃がして攻撃に集中したいところだが、、)
文助が鈴月の方を見る。
(な、何やってるんだあの阿呆は!)
鈴月は剣を抜き、片手で構えていた。その目は怪物桜を見据えている。そしてその刀身は白く光っている。
(なんだあの光は、、ってそれよりあいつじゃこの怪物には勝てんぞ!)
「やめろ咲!邪魔だからさっさと逃げろ!」
「うるさいわねぇ、、こういうのは私たちの専門なのよ!」
そう言うと鈴月が横から剣で桜の腕を斬ろうとした。
(阿呆が!駄目だ、守りきれん!)
しかしそれに気付いた桜が寸前で避けたため、鈴月の剣はスパッと桜の腕を少し斬っただけだった。
衝突はなくなり、文助は新たに刀を構え直した。
「無謀な、、だが助かったぞ、咲」
「まだ油断しないで、気をつけて」
「あぁ。」
鈴月も刀を構え直す。
が、桜が着地すると膝をついて苦しみ始めた。まるで傷口に酸でもかけられたのような悶え方であった。どうやら追撃はしてこないらしい。
「あんた、、ただの天使じゃないな、、ピュアエンジェルの聖性体質を持ってるのか、、」
桜が苦しみながら何やら謎の用語を言い始めた。
「やっぱり。あなた本物のケダモノだったのね。人間っぽい見た目をしてるし、半鬼と言ったところかしら?」
どうやらあの浅い一撃がかなり効いているようである。
鈴月も何か知っているようだ。
どうやら鈴月は謎の力で剣を輝かせ、その力でここまで桜にダメージを与えたらしい。
「チッ、なら全力でやるわよ、、!ダーリンを手に入れるためなら殺人の1つや2つ!!」
桜はそう言うと低い声で唸り始め、ただならぬ雰囲気とともに体をさらに獣へと変化させていった。変身である。
(お、鬼?一体何なんだこのバケモノは、、)
文助は恐ろしい変身を目の当たりにし驚いていた。
もちろん文助は鬼という妖怪の存在は幾度と聞いたことがあった。いざ目の前にしてみると想像や伝承より何倍も禍々しかった。
(こいつはすごい、、)
もはや腕だけでなく、身体中が女の子だとは思えないほど筋骨隆々になっていた。
「噂には聞いたことがあるけど、、獣人ってのがここまで近くにいるとはね。しかも鬼の獣人、、応援を呼ぶべきかしら。」
鈴月は剣を構えた。何やら桜は鬼の獣人という、人ではない生き物らしい。
「よくわからんが、俺がやる。危ないから下がってろ咲。」
そう言って文助が鈴月と桜の間に入った。
文助は見たこともない禍々しい変身に驚いてはいたが、ある感情があった。
「久々に本気を出せる相手がいる。しかもバケモノか。」
文助は強き者に武者震いをした。そして刀を抜き構えた。その刀は興奮にカタカタと震えている。
(ジジイを斬る前に超える壁としては、ちょうど良い)
すると、それを見た桜がその刀に反応した。
「そ、その剣は、、」
桜が鬼丸を見つめる。文助をも怖がらせていたその気迫が少し薄れ、桜は刀に気を取られていた。
「いくぞ、鬼。」
文助はそれに気づかず構えから攻撃に転じようとしていた。もはや文助は桜を危険な怪物と見なしている。
「あ、待って、文助!」
鈴月が何かに気づき止める。しかし文助の耳には届かなかった。
「秘家 三散華!」
文助は技を繰り出す。その技は今までで1番の勢いを持ち、桜を襲おうとしていた。
だが、文助は途中で刃を止めた。
(ん?)
文助も何かに気づいた。
そして桜に向けていた刀を下ろし、後ろにさがって距離をとった。
(なんだ終わりか)
「お、鬼から人に戻っている、、」
鈴月の言う通り、桜は獣から人に戻っていた。
桜は唸りながら獣の体から華奢な人の体へと戻っていく。どうやら刀を見て何か変化があったようだ。桜の狂気性は収まり人に戻っていった。
「はぁ、何なんだ全く、、」
文助が半分落胆した様子で刀を収めた。
-戦闘後、屋根の上
「その、説明がいるわよね?」
鈴月がそう言う。桜の体は完全に人の姿となり心も落ち着いた様子だった。
「私がするわダーリン♡」
桜が先ほどの気迫がなかったかのように甘い声で言う。
しかし鈴月はそれに黙っていなかった。
「黙れケダモノ。鬼に説明されるものなんかない。あんたは本来駆除の対象よ。」
「んだとこらぁ!」
桜も負けじと言い返し、口喧嘩になりかけている。
「お前ら!」
2人の喧嘩が激化する前に、文助が止めに入った。
「とりあえず咲、説明しろ。」
文助はまず鈴月に説明を頼んだ。
「わかったわ。まず、このケダモノは獣人、半鬼とかって呼ばれる存在。半分人間半分バケモノ、よ。」
鈴月が簡単に説明をする。しかしその直後に桜が口を挟んだ。
「少し違うわよ。やっぱり私が説明するわ、ダーリン。」
「あ、あぁ、なら頼む。」
「なっ!?」
鈴月の仕事を奪われた怒りを無視して、桜は説明を始めた。
「まず、名前からもう一度ね。私は桜・キミリア。半鬼、、どころではないわ。私の人間の血は、クオーターのさらにハーフくらいに薄いの。まぁ、ほぼ鬼ってとこね。」