第5話 お手合わせ願います
注意︰この物語はフィクション(創作)です。実在の地名を使用している(日本など)等々ありますが、実在の地名、人物などとは無関係です。あくまで作者たかゆきの創作でございますのでご了承ください。なお実在の人物や場所を誹謗中傷する目的もありません。読者の方々も誹謗中傷などはご遠慮ください。
晴れて騎士団員になった文助は鈴月とともに大臣室を出ていた。
そして鈴月に連れられ、まず騎士団の練習場に案内されることになった。
鈴月はどうやら文助への警戒を完全に解き、騎士にさせる気満々のようだ。
「ここが練習場よ。剣、盾、素手、、いろんな練習ができるし騎士団員と手合わせもできるわ。」
練習場はとても広い、屋外コートのようなものだった。中心部はデカい広場となっており、練習用の人間大の藁人形が隅に置かれている。
藁人形の横にある武器入れには剣、盾が準備されている。練習用の武器だろう。
「おぉ、広いな。」
文助はその広さに感心した。練習場は何十人が一気に練習しても十分な広さである。
「すごいでしょ。今日はもう授業ないし、うちの団員は皆ここで練習する予定なんだけど、、サボってるのか忙しいのか来ないわね、、」
褒められて一旦喜んでた鈴月だが、誰も来ていないのを見て落胆した。
「それならば俺がいるだろ。咲、手合わせを頼む。」
文助がそんな鈴月を見かねて練習相手を申し出た。
その提案に鈴月は驚いた様子を見せたが、
「え、えぇ、、随分早速ね、、」
不安を抱えた表情をしながら鈴月は了承した。
鈴月は砕かれた鎧を捨てて練習場に備え付けてある新しい鎧に着替えた。そして武器入れに備え付けてあった練習用の木剣を手に取った。
その後2人は広い練習場の中心に立ち、それぞれ剣、刀を抜いて構えた。
やはり文助は侍らしい持ち方。刀を両手で持っている。
鈴月は細い諸刃の木剣を片手で持っていた。
「怪我をさせるのはなし、寸止めよ。」
「それじゃあつまらないだろ、峰打ちでもいいか?お前も当てていいから。」
「いいわよ、、軽くね?」
鈴月はすでに1度文助に負けている。すでに鈴月の表情には敗北のイメージがにじみ出ていた。
2人がじりじりと距離をつめる。
文助は見るからに余裕。鈴月の不安げな構えとは真逆であった。
「でやぁー!!」
鈴月が一気に文助に距離をつめ剣を振り、攻め始めた。
「ふっ」
鈴月の猛攻を文助は軽くいなす。
もはや殺しにかかっているような猛攻を文助は少し刀を触れさせる程度で逸らせていた。技量の差は圧倒的である。
「どうした咲、こんな攻撃ならサルでもできる。頭を使え。」
「くっ、なによ頭って」
文助は鈴月の隙をついて足を払い、鈴月の姿勢を崩した。
剣での攻防に集中していた鈴月にとっては予想だにしない攻撃。まさに頭を使った攻撃を文助は実践して見せたのだ。
(やはり、見たことない剣術だな)
文助は鈴月に追い打ちをせず後ろに下がり始めた。あえてとどめをささず、立ち上がる時間を与えた。
「勝負を、、決めないの?」
鈴月は立ち上がり剣を構え直した。
「今はな。ここに来てから体が鈍ってるし、準備運動だ。それに試したいことがある。」
「準備運動って、、かなりなめられてるみたいね、、」
すると文助は刀をおさめ、棒立ちの体勢になった。
「ちょ、それはなめすぎじゃないかしら、、」
鈴月はまたジリジリと距離をつめると剣を振り上げ、文助を一刀両断にしようとした。
-次の瞬間
「秘家 曲雷」
ガキン
すさまじい音がたったと思った瞬間、いきなり鈴月の剣が割れた。当然振り下ろしていた鈴月の攻撃は無効になる。文助は無傷だった。
「な、なによこれ!?」
鈴月が驚いたのは剣の粉砕だけではない。
剣が割られていただけでなく、鈴月の鎧がまるで巨大な猛獣の爪で引き裂かれたように斬られていた。
「曲雷。曲がりくねる斬撃で様々なところを一気に攻撃できる、居合技の一種だ。鍛錬を続ければ鎧だろうと斬り裂ける。」
鈴月が気づくと文助はいつの間にか刀をおさめていた。
一瞬の出来事、これもまた早業であった。
「心配するな。峰打ちな上に体を斬らずに鎧だけ斬った。」
文助は当然のように言った。
「そんな、こんなの剣でつけられる傷じゃないわ!しかも、しまった状態から私の剣を砕いて鎧も裂くなんて、、」
「それが居合だ。刀をおさめて静止した状態からの斬撃。鎧がそんなボロボロになったのは予想外だったが。もっと良い鎧をつけた方がいい。」
鈴月の鎧は先ほどの居合で2回斬撃を受け、十字形に傷、、というより、激しい損傷が入っていた。
鈴月はそんな使い物にならなくなった鎧を脱ぎ捨てた。もはや鈴月に戦意はなくなり、戦いは終わっていた。
「この鎧を斬るのもおかしいけど、もっとおかしいのはそれで壊れない剣とあなたの体よ。体は相当鍛えたみたいだけど、その剣、どれだけ強靭なのよ。」
文助は腰にさしていた刀をスッと鞘ごと抜き、鈴月に見せた。
「綺麗な日本刀だろう。
この刀は江戸一番の剣士だった祖父が、江戸随一の刀匠に作らせた、最高の一品だ。その代わり俺以外が使うとなぜかその人間に不幸が起きる。」
そう言うと文助は鈴月に刀を渡した。
「え、不幸が起きるなら私が使ったらまずいんじゃない?」
「見せるくらいならこの鬼丸も許すだろう。」
「な、名前があるの!?」
「刀に名前があるくらい普通だろ。」
「そっか、、鬼丸ちゃん、使わせてもらっていいかしら?」
そう言って鈴月は刀を抜こうとした。
少し抜いただけで黒光りする凶暴な刃が顔を見せる。鈴月はその様子に身震いをするほどおののいた。
「なぁ、ずっと聞きたかったんだが、、」
「何?」
「お前の背中についている羽は何だ?人間じゃないだろ。」
すると鈴月が後ろを向いて、文助に羽を見せ、ぴょこんと動かして見せた。
「これはここの人間の特徴なの。」
鈴月はその羽を動かしながら言った。
「私たちは天使と交わった人間、とされているの。」