第4話 勉強決定
注意︰この物語はフィクション(創作)です。実在の地名を使用している(日本など)等々ありますが、実在の地名、人物などとは無関係です。あくまで作者たかゆきの創作でございますのでご了承ください。なお実在の人物や場所を誹謗中傷する目的もありません。読者の方々も誹謗中傷などはご遠慮ください。
-待て、何者だ
早速2人は大臣棟に入ろうとしたが、扉を入った所の横にいた護衛らしき男達に行く手を阻まれた。外にいる護衛とはまた違う警備が2人ついていた。
(ん、扉の中にも護衛を?変な警備の仕方だ。)
「どこの誰とも分からん者は通せんぞ。」
「あぁ、この者は少し問題で。そこで大臣殿に相談しに参ったの。ところで、一体この奇妙な警備はどういうこと?」
騎士団長である鈴月が警備相手に状況を説明し、質問をし直した。
「団長がおっしゃるなら、どうぞお通りください。この警備のことについては極秘事項なので今は言えません。」
そう言うと護衛はペコリと頭を下げ、中へ促す仕草をした。
その言葉に2人は素直に中に入ることにした。
-2人は護衛に通され、大臣室へと続く階段を登っていた。
「あの警備は気味が悪い。警戒しているくせにそれを悟られたくないような口だ。」
2人はまっすぐ前を見て階段を上りながら話し合った。
「私もおかしいと思うわ。敵国が攻めてきそうだから厳重に警戒しておこう、とかかしらね。国が厳戒態勢なのは知ってたけど、なにか新しい出来事でもあったのかしら、、何にしろ普通より警備がかたくなってるわ。」
そう言って鈴月はチラッと文助の方を見た。文助は少し微笑んでいた。
「さすが何とか団の団長だ。察しがいい。普通なら堂々と警備すればいいからな。水面下で尋常ならぬ緊張状態となっている、と考えるのが自然だろう。」
「何とか団」にひっかかった鈴月の文句を遮るように文助は言葉を続けた。
「しかも、この街の入口付近、それだけでなく街中でも装備こそ隠しているが兵が待機している。それも距離が均等になるよう配置されているようだ。明らかに外部からの何かの攻撃を警戒している。」
言葉を遮られた鈴月はその分析に驚いて口を開けていた。
「あなた、相当目と頭がいいのね。」
その時、グーッと腹の虫が鳴いた音がした。
「お腹も働き者なんだ、困ったもんだ。」
その言葉に、鈴月は呆れたようにため息をついた。丁度大臣室の前に着いた時である。
「せめて大臣の前ではやめてよね?」
「どうだかな、腹に言ってくれ。」
「言えるもんなら言ってるわよ!」
すると、突然大臣室のドアが開いた。
「なにやら楽しそうじゃの。」
出てきたのは白髪のヒゲを生やした老人だ。背は鈴月よりも小さい。2人の喧嘩が中まで聞こえていたようだが、老人の表情は穏やかであった。
「だ、大臣!」
鈴月が驚いて大声をあげた。
(この老人が大臣か)
一方文助は表情を変えず老人を見ていた。文助と比べるとその背の小ささが一層際立つ。
「彼は?どなたじゃ?」
大臣が文助を見て尋ねた。その目はやはり穏やかだ。
「っとすまないの。ここじゃなんじゃ、中で座って話そうじゃないか。」
大臣が2人を部屋の中へ招く。文助と鈴月、大臣は大臣室へ入り、椅子に座って落ち着いた。
大臣室は大臣のデスク、3人が座っている椅子とテーブル、ブラインドのついている大窓、があるくらいであった。
「殺風景ですまないね、何も飾らない主義なんじゃ。」
「着飾る人間ほど中身は醜いものだ。」
文助は大臣の発言に同調した。そこで鈴月が咳払いをした。
「おほん、この者の説明をしていいでしょうか大臣?」
「あぁ、すまんの。頼む。団長直々の訪問じゃ、何かあったんじゃろう。」
そして鈴月は大臣に説明をした。出会い、会話の噛み合わなさ、また剣の腕前や鎧を砕かれたことなど。
その話を大臣は時々うんうんと頷きながら、または目をつぶって腕を組んだりしながら聞いていた。
そして話が終わると、大臣は一旦下を向いて考えて顔を上げた。
「なるほど、、君が嘘をつくような人間とも思えないの、坂本君。それにその鎧の砕き具合も尋常ではないの、、」
相変わらず穏やかな目で大臣は文助を見た。
「嘘などつくものか、こっちは困ってるくらいだ。解決してくれるなら情報を出す事は惜しまないぞ。」
文助は積極的な協力を提案した。大臣は文助にとって頼みの綱なのだ。
「少し席を外していいかな?」
大臣はそう言って、そのまままっすぐ大臣室の隅にある扉から奥の部屋へ行ってしまった。
-数分後
書籍を持って大臣が戻ってきた。文助は退屈から、窓際に立って外を見ていたところだった。ドアが開いた瞬間文助は大臣の方を向いた。
「待たせてすまんね、実は役に立ちそうな本があったんでの。持ってきたんじゃ。」
ドサッと彼は本をテーブルに置き、文助はその後席についた。
「まずは君の使っている言語からじゃ。」
大臣は本を手に取ると開き、パラパラとページをめくり始めた。
「言語?」
文助は意表をつかれたような表情をした。
「君の使っている言語、それは古期和語と呼ばれている。古期和語は昔の日本語なんじゃが今も細々と受け継がれているんじゃ。団長は純和家系じゃったからペラペラじゃ。それに教養のある者ならある程度話せる。騎士団では公用語にもなっているんじゃ。」
文助の使っている言語はどうもこの日本では少し古い言葉のようだ。やはり文助の知っている日本とは全く違う日本のようである。穴に落ちてからというもの、文助の周りの世界はガラッと変わってしまった。
そこで鈴月が止めに入った。
「ちょ、ちょっと待ってください大臣、それをここで全部説明するつもりでは、、ないですよね?」
この時点でも文助は混乱していた。
「うむ、それもそうじゃな、、」
大臣は説明をやめ、少し悩んだ素振りを見せた。
それを見た鈴月がニヤッと笑った。
「そこでですね、私の騎士団に入れて授業を受けさせるのが一番いいと思います。」
文助は驚き、大臣はなるほどと相槌をうった。
「彼は悪い人間でも、敵国の人間でも無さそうです。素性は不明ですが、この実力者を野放しにしておくのは大変もったいないです。」
鈴月は弁論を続ける。
「それに彼はおそらく、、」
鈴月はそういうと大臣の横へ移動し、耳打ちをした。
(なんだ?何を話しているんだ?)
「というわけで、彼は日本国の騎士として身元を保証するのが良いかと。」
鈴月の言葉を聞いた大臣は少し考える素振りを見せ、口を開いた。
「確かにいい考えじゃ。坂本君の剣の腕前をぜひ騎士団でも活用してもらいたいと、わがままながら考えていたところでもあったのじゃ。」
(あぁ、江戸に帰れればそれで良いのに、、なんか変な話になってきたな、、)
「しかし、坂本君は本当に敵ではないのじゃな?」
大臣は身を乗り出し聞く。
「えぇ、敵なら今頃私は切り刻まれてますよ。」
鈴月はそれにまた身を乗り出し答える。
「うむ、、それもそうじゃな。」
大臣は椅子の背もたれに背中を預け深く座って考えてる様子だ。
「彼の素性や事情が何にしろ、坂本君には今情報が必要じゃろう。騎士団で色々学ぶのは確かにいいかもしれぬ。」
「じゃあ決まりですね!彼は今からテンペラ騎士団第5団の団員です!」
大臣は文助の方を見た。
「坂本君、異議はあるかの?君は客人なのじゃ、拒否権はもちろんあるんじゃぞ。希望するなら、騎士ではなく少しの間一般市民としての居住権を与えよう。」
文助は少し不満そうな素振りを見せ苦い顔をしたが拒否はしなかった。
「いや、ない。ちょうど刀を振りたかったところだ。」
(情報を集めてさっさと帰るとしよう。)
違う思惑を抱えながら文助は了承した。