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第40話 出発

 合宿までは、あっという間に過ぎていった。

 結局ユアとはあの後も特に何もなく、生徒会も順調なままに日常が続いていた。ここまで何も起きないというのは、こちらに来てからは初めてだ。それ故に、俺は油断とともに一抹の不安を抱いていた。あまりにも不自然だ。ティトの話を信じるなら、俺を狙う奴らが学園内に潜んでいる。合宿に合わせて何らかのアクションを起こすのだろうか。それとも、そのまた先に……。

「うーん、考え過ぎか」

 いかんいかん、昔からの癖で疑り深さが出てしまったか。折角のハレの日というのに、こういう所が我ながら駄目だと思うね。ここは素直に年相応らしく、はしゃぐ事を考えよう。

「何をぶつくさ言ってんだよ」

 馬車に同乗するアルバートに突っ込まれた。むっ、人の独り言を詮索するとは感心しねぇな。

「んなもん聞こえたんだからしょうがないだろ」

「そりゃそうか」

 向かい側にはクラスメイトの男子二人が座っている。馬車は男女別で4人乗りだったので、紆余曲折あってこうなった。俺としては下手に異性と相乗りするよりかはそれなりに会話できる野郎共とトゥギャザーしていた方が気が休まるもんなんだが、どうもお隣の彼はそうでもないようで。

「あー、しっかし辛いものだなぁ。男に生まれたばかりにこの有様とは」

「当然の判断と思うがな、学園側の対応として」

「冷たいな、アイン。そうだ、お前が生徒会権限発動してオレを女子の馬車に同乗させ……」

「ただの庶務に何を期待してんだ。それ以前に会長様をどう納得させる?」窓の外を見やりながら、俺はアルバートを諭す。「最悪の場合、お前と俺とでぶらり途中下車の旅がスタートするぞ」

「……分かったよ」

 向かって座る男子二人が苦笑いしながら俺達の漫才を眺めていた。うんうん、よぉく理解しているようだな。これからもその調子でこのアホを冷めた視線で見守ってやってくれたまえ。

「ようやく草原を抜けたな。この先は確か……『静謐の山林』だったか」手持ちのしおりを見ながら、景色を楽しむ。大きな荷物は別ルート……『巨大転送魔法陣ギガテレポーター』で直接ホテルまで送り届けられるらしい。そんな便利なものがあるならこの移動パートすっとばして直接俺達ごと転送してくれよと思ったが、曰く『有機生命体の直接転送は成功確率が著しく下がる』との事。誰がそんな事を検証したのか、と聞こうとしたところ、同級生も教師も揃って暗い顔をしていたので流石に自重した。まぁ、嫌な事件があったんだろうね……。



 ぼーっと外を眺めていたところ、突然馬車が止まった。御者に許可をもらって一度降りると、前方の馬車もまた停止していた。確かその馬車は女子が乗っていた奴だったな。その証拠に、中から女子生徒が四人降りてきていた。

「何が起きた!?」とりあえず異常はないか確認すると……あった。前方に大きな岩が落ちていた。なるほど、これでは通れねぇのも当然だな。

「おい、おま……じゃなくて君達は、あの岩をどうにかできるか?」

「いえ、私達ではあんな巨大な岩には……」女子生徒の一人が答える。確かにカリキュラム上はまだ比較的威力の低い魔法しか習っていないはずだ。ユアやヴァンみたいに元から英才教育を受けて来たり、孝やアルバートのように予め自らの得意魔法を磨いているならともかく、多くの生徒は未だにそういった段階には至っていないという訳か。

「アイン、どうかしたのか!?」なかなか戻らない事を心配したのか、アルバートが馬車から首を出してきた。

「問題ない、今すぐ片づける!」俺は念のため女子達と御者に退避を命じた。これからやるのは、少々荒っぽい真似だからな……。ミスった際のリスクを考えるのは間違っちゃいないさ。

「『増強』!」俺は『無限機関』を発動し、目前の大岩を抱えるようにして持ち上げた。ぐっ、こいつは結構ハードワークだ……しかし!

「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅ……っらっしゃぁ!!」岩を道端に転がし、何とか道を開けた。

 この力技に女子生徒達はしばし唖然としていた。仕方ないので、俺はさっさと元の馬車に戻る。

「はぁー、つっかれたー」

「へっ、お前もよくやるぜ」

「うるさいなぁ。単なる善意だよ」

 そんな会話をしていると、再び馬車が動き出した。前がつっかえていたのが解消されたからだな。さて、今度こそ何事もなくホテルまで着きたいものだ……。



 珍しい事に、今回ばかりは俺の願いが天に届いたようだ。あの後は特にトラブルが起きる事もないまま、無事最初の目的地・セルべナ高原ホテルに到着した。ちなみに今回の合宿は騎士科・魔術師科の2年生が全員参加で行うものだ。よって、俺の知る同級生は全員参加となる。

「阿陰、お疲れ様です」

「お疲れって、ただ馬車に揺られていただけだろ?」先行してホテルに向かっていたユアが駆け寄ってきた。ったく、妙に大げさだな。

『………………ちっ』

「おい誰か舌打ちしただろ。しかもうちのクラスの奴だろ」

『………………』くっ、この仕打ちは酷いもんだ。まぁ、八割は身から出た錆なので文句は言えないんだけど。

「あー、なんかすまねぇな……悪い奴らじゃないんだ」

「?」全く気付いてないように、ユアは首をかしげている。

「それより、ユアは……というより魔術師科はどんなスケジュールなんだ?」

「あ、それはですね……」

 手提鞄からしおりを取り出した彼女の背後から、何者かが接近していた。

「こーらっ!勝手に騎士科の奴に見せないの!」

「わわっ……サヤちゃん!」ユアの背中に抱き付いてきたそいつは、かつて亜理素が学園に来た際に出会った少女だ。思い出した、その名前は……。

「……って、なんだ。ユアの彼氏君じゃん。そういえば騎士科って言ってたね。じゃあ改めまして自己紹介、私はサヤ・ミュルゲンシュハイト……ってこれもあの時私から言ってたかな?」

 そうだ、彼女は確かにそう名乗っていた。丁度三人組の、一番活発な少女だ。

「いつもユアがお世話になっております……じゃなくて、寧ろユアがお世話をしてる系?」

「ちょ、ちょっとサヤちゃん、いい加減に……」

 お世話?うーん、考えてみるとエルシア家の居候としてはそれなりには働いているが、ユア個人にはあまり何かしてあげたり出来ていないな。

「いずれ考えておくとするよ」

「……それってつまり、そういうの望んでたりするって事?」

「何を驚いてるのかは知らねぇけど、その解釈に対して特に異論はない」

「ほほぅ?」人の悪い笑みを見せたサヤは、隣で焦っていたユアの耳元で囁いた。「折角釣り上げた大物を逃すなよ、ユア君?」

(な、何を言ってるんだ?)発言の意味を掴みあぐねているのは俺だけではないようで、ユアも「う、うん?」としきりに困惑していた。

 そんな俺達の様子を見て、まるで「ダメだこりゃ」とでも言いたそうに軽く自らの頭に手をやったサヤ。

と、ここでクラスメイトの視線が攻撃から興味へとその性質を変えていることに気付く。

「おっと、そろそろ整列の時間だ。じゃあね、彼氏君。ほらユア、すぐ戻るよ」

「ま、待ってよ。阿陰、また後で会いましょうね!」

 手を引かれながらももう一方で手を振るユアを見送り、この後に来る試練に備える。

「さて、どう説明すべきか……」

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