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第38話 合宿準備

案ずるは難く産むは易しとよく言いますが、僕の場合はアイデアだけは物語の先を行ってそれを文章にするのが置いてけぼりを喰らってるように思います。


ところで、恐らく僕が一番前書きの使い方を誤ってるかもしれないと思ってるんですが、どうでしょうか?

「はーい皆さん、おはようございます」イリス先生の号令で、

『おはよーございまーす』クラスメイトの多数は礼儀正しく挨拶をするが。

『ざいやーす』何人かはこんな感じで誤魔化してるように聞こえるのは俺だけだろうか。ちなみに俺は一応礼儀正しく挨拶した方の人間なので、悪しからず。

「さて、今日の午後はロングホームルームとして、合宿に関する説明と班及び部屋決めを行いますよー」

 すると、教室がにわかに騒めいた。そりゃそうか、とも思うが。

「はーい、静かにして下さい。それで、班決めの前にしおりを配りますので後ろに配ってくださいね」

 前から順番に送られていく小冊子。俺は最後列なので受け取るだけである。で、早速中身をペラペラ捲る。持参品と服装、注意事項なんかは現実のそれと一緒みたいだ。

「場所は……セルべナ高原ホテルか」

 セルべナ高原って、前に地図で見たな。確かここから西へ1000キロメートルほど離れた辺りにある高原で、貴重な動植物が数多く生息する事で有名な帝国一の観光名所だったっけ。一度行ってみたいとは思っていたから、有難い話だ。

「にしても、班決めかぁ」

 人気があったり親しい友人が居て悩まなくていい奴はともかく、孤立しがちな人間だとこの言葉にドキッとする方も多いのではなかろうか。かくいう俺もそのケがあってな、怖いイメージを持たれて忌避された覚えがね……。

「ま、なるようになるさ」



 結果としてそれは杞憂に終わったようで、俺は何とかたらい回しにされる事なくグループを組めた。

「やっぱり、この5人になるよね~」

「新入りが居るのに定番みたいに言うなっ」

「で、でも勝手知ったる仲の方が遠慮しなくていいかな、とは思うけど……」

「そ、それはそうだな、文乃ちゃん。いやぁ困るな、こりゃ楽しくなりそうだ」

 リーゼロッテ班長を筆頭に、孝、文乃、アルバート、そして俺の5人組になった。うーん、俺としてはもっと他の連中についてもそれなりに親交を深めたいとも思わなくもないが、女子はともかく男子からの視線が時々刺々しく感じる今日この頃でもあるので気にしちゃいけないね。

 時は午後3時50分、あっさり決まった以上は残りの時間を合宿の相談に当てる。どうも俺の認識が微妙にずれていたみたいで、合宿という名の修学旅行というのが正式名称らしい。

「三泊四日で自由時間は三日目の午前9時から午後6時か。その間にホテル周辺の散策を楽しむのが筋だな」

「あぁ、それでどうする?俺としてはここの博物館が気になるな」おぉ、渋い趣味だな、孝。

「えぇ、地味過ぎるぜ!それよりもここに行こうぜ、バンジージャンプ!」だが、アルバートは不服のようだ。いや、女子もいるんだしそれは厳しいんじゃ?

「私は、オルゴールショップやソフトクリームのお店でも回りたいけど……」文乃も、全く別の場所を指差している。

「ありゃ、会議は踊るって感じだね。そうだ、アイン君はどこに行ってみたい?」リーゼロッテに話を振られたものの、こう、特定の場所にこだわりはないのが本音だ。強いて言えば孝のいう博物館がまだ有益だと思うが……。

「場所が散らばってるのが難点だな」ホテルを出て直ぐに土産屋が立ち並ぶ通りがあり、そこを西方にずっと進むと博物館や植物園などが並ぶエリアに出られる。一方で北側に行けば、バンジージャンプやボートといったアクティビティを楽しめるエリアだ。しおりの表記に従えば、前者はホテルから4㎞、後者は8㎞離れた地点に存在するようだ。

「いっそ、全部回るってのはどうだ?」

『全部?』

「あぁ、先に博物館を見て回って、その後にバンジーをやりに行く。最後に帰りでウインドウショッピングだ」

「ま、待てよアイン。お前の言うようにすると、ホテル~博物館~ホテル~バンジージャンプ~ホテルで、時速四キロで歩くとして……6時間も移動に費やすつもりか?それじゃ、殆ど遊べないじゃねぇか」

 アルバートが焦ったように突っ込んでくる。へぇ、よくこの短時間で計算できたな。だが甘い。

「早とちりをするんじゃねぇよ。誰が馬鹿正直に道なりに進むって言った?」

「ど、どういうこったよ」

「まぁ見とけ」

 俺は鉛筆と定規を取り出し、自分のしおりの地図に何本かの線を引いた。

「これがホテルから博物館までで、これがホテルからバンジーまでの距離を示す線分だ。先に言った通り、それぞれ4㎞、8㎞だな。これらを仮にA、Bとする」

「あぁ、だけどそれが一体……」アルバートが今更何を、と言わんばかりに頷く。他の三人も、何を言い出すのだろうか興味津々だ。

「で、もう一本の線は博物館とバンジージャンプまでの距離を示している。これも仮にCと置くが、この距離は先述の二本の線分と合わせれば簡単に出せる。一見するだけで分かると思うが、最も長いのがBの8㎞。よって、これを斜辺として三平方の定理からCを求める。

 C=√(B^2-A^2)より、C=√(64-16)=√48=4√3≒6.9(㎞)

 つまり、博物館へ行ったあと直線距離でバンジージャンプに行けばお前の言うように往復する場合と比べて5.1㎞短くなる。所要時間に換算すれば、約1時間15分の節約だ」

「そ、そうなのか」アルバートが今一つついていけてないような反応なので、寧ろ俺も困ったものである。いや、この辺は高校数学の図形分野で言えば基本中の基本であるので俺にとってはそこまで難しい話はしていないんだがな。

「で、更にもう一つ朗報だ。この直線距離にほぼ近いように登山道らしきものが沿っている、しかもその傾斜は緩やかな下り坂だ」

 俺は地図の中で、細い道を指差した。こうやって地図に載っているって事は、最低でも獣道よりは人様が通っても問題ないという事だ。

「……読めたぜ、アイン。この下り坂であれば、小走りしてもさほど体力の消耗は進まないって訳だな」孝が得心してくれたようだ。

「無論、体力との兼ね合いもあるがな。とはいえ俺個人としては全員が時速6㎞で各地点を移動できると思うが……」

 一番心配なのは文乃だったが、ああ見えて彼女は意外に体力があった。この前の持久力走では、女子の中で一番タイムが短かったのは彼女だった。最高速こそ他に劣るが、その分粘りの走りが出来るという訳か。つくづく運動部に加入していないのが勿体ないな。

「が、頑張ります!」俺の視線に気づいてか、文乃は何故か気合を入れて返事した。

「そうか、無理はしないでくれよ。もし厳しそうなら代わりにアルバートの意見をボツるだけだし」

「オイッ」

「冗談はともかく、これが俺の意見だ。もし疑問があれば遠慮なく言ってくれや」

 しばしの間、目くばせで会議する4人。やがて、代表するようにリーゼロッテが口を開いた。

「じゃあ、アイン君の言う通りでいいよ。楽しんでいこう!」

『おーっ!』皆に合わせて、俺も腕を挙げた。なんだかんだで適応しつつあるかもしれんな。



「へぇ……そんな事があったんだ。心配して損したわ」

 放課後、生徒会室で作業を手伝っていると、楓にこう言われた。

「心配って何だよ」

「いや、あんたって何となく孤立しそうなタイプな気がして……ほら、敵とか多そうでしょ?」

「余計なお世話だっちゅーに……。それに、孤立ならお前の方が可能性あるんじゃねーの?」

「ハァ!?あたし!?失礼ね、そんな口を聞くなんて」

 その言葉、そっくりそのまま返してやろうか。

「言っとくけど、あんたが思ってるほどあたしは孤立なんかしてないわよ。そう、腐っても人気者だしね!」

「腐ってんのか」

「言葉尻だけ捉えて揚げ足をとるな!とにかく、あたしは人望もあるし人気もあるから引っ張りだこんんだから……」

 急に不貞腐れた楓には悪いが、お前の外向きの性格では取り巻きは増えても親友は増えそうにないとは思う。しかし、この場は信じておいてやろう。うん、俺って大人だな。

「……必要のない生暖かい目線をあんたから感じるんだけど……気のせいかしら」

「気のせいでございますですよ、楓たん」

「鳥肌が立ったわ!」

 こんなアホみたいな会話をしていると一般生徒にばれたら俺は別にいいとしてこいつの評価が下がりそうな気がするが、それもこれも含めてこの空間が一種の秘密基地みたいなものだからかね。

 さて、今は俺と楓、それにマリアの3人しかこの場に居ない。残りのメンバーはと言うと……。

「オーロラ先輩は魔導真理研究部に、キリカ先輩は陸上部の助っ人に行きましたわ。クローネさんは……多分仮病ですわね」

 入ってきて早々にマリアに説明された理由が総じて頭を抱えるべきものなのはどうしてなのでしょうかね……とりあえず。

「オーロラ……先輩ってあの部活に入ってたのか……」

「寧ろ創立の立役者らしいですわ。何でも『学園内の闇の勢力を倒さなければならない』と理由で興したとか何とか……」

「キャラクターが大渋滞起こしとるわ!」

 俺のツッコミの横で楓が「初々しいわね……その反応……」と呟いていた。お前も苦労したクチなんだね……。

 てなもんで、三人だけの生徒会である。って、あぁ。もう一人忘れてたね。ミルラだ。

「あの人はあの人で何をしてるんだろうか」

『あたし(私)にもさっぱり分からないわ』

 そう、彼女だけ来ていない理由が不明なのだ。というか仮にも生徒の上に立つ組織として、この有様はダメなんじゃないのか……と思っていた矢先。

「おはよう、諸君!副会長が帰ってきたよ~」

 勢いよく開かれた扉から元気そうにやって来たのは、ミルラであった。

「お早うって、もう夕方じゃねぇか……」

「何を言うか、アイン君!業界じゃいつの時間でも挨拶はおはようって決まってるの!」

「何処の業界の話だよ……」

 それに、予めやるべき作業はこちらで粗方済んでしまっている。よって、副会長様は戦力外だ!

「それがね……ふっふっふっ」

「何ですかその邪悪な含み笑いは……」八割の呆れと二割の恐怖を混ぜたような表情で、楓がぼやく。俺もこいつに同意見だし、マリアもうんざりした顔を隠さない。

 しかし、一人だけ愉快そうなミルラにはどこ吹く風であった。

「2年生には合宿もあるけど、あたい達は本来学生!つまりは、学業に集中しなきゃならないの!もっと言えばテストに」

「ほう、それで?」

「……勉強教えて下さい」

 ……それを下級生に言うんですね、ミルラ先輩。

現実が辛いです。


……後書きの使い方もまた怪しいものですね、はい。

あ、次は週末に更新する予定です。

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