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第37話 悩む者、悩まざる者

また変なところで区切ってますね……スミマセン。

本編外で毎回謝る小説、それが森貴スタイル。

 充実と困惑の週末を終え、再び地獄のような過密スケジュールに追われる日々が始まった。

「……げ、またかよ」

 先日はラブレター、というかティトの呼び出し文が入っていた下駄箱だが、無論俺のようなチャランポランに恋文を渡す物好きはまず居らず。代わりに入っていたのは……。

「うわー、また執念深い事」

 明らかに尋常でない程の怨嗟を籠められた呪詛で表面を埋め尽くされた、封筒だった。無遠慮ながら中身を開けてみると、これまた両面にびっしりと書き込まれた俺へのカースド・スペルの数々。

「まだ胸に五寸釘の刺さった藁人形がおまけについてきてないだけマシと思わなきゃなぁ」

 とはいえ、こう精神攻撃に徹されると厳しいものがある。別に俺はボーガーでも何でもないんだから、相手がリュ◯セイさん並の邪悪メンタルだったとしても遠慮してもらいたいものなんだが。それよりは分かり易くリアルファイトを仕掛けてくれる方がよっぽどいい。

「どうした?下駄箱の前で立ち止まって」

「にょわっ!」

 誰かに声を掛けられ、びっくりした。それはもう、変な声が出るくらいびっくりした!

「にょ、にょわって……」

「何処の誰かは知らないけれど、俺のそのリアクションは今すぐ忘れろ……って何だ、アルバートか」

 実技ですっかり仲良くなった(と思ってるのは俺だけかもしれないが)、一番槍様の御登場である。

「何だとは何だ、失礼だな……ん?お前、その手紙は」

「ああ、見るか?おぞましくてSAN値が下がるやも知れんぞ」

「……何を言ってるのか知らねぇけど、少なくともろくでもない代物って事は分かった」

 あぁ、いいなぁ、お前は何も考えてなさそうで。俺は悩ましい限りだ、何もかも。

「馬鹿って素晴らしいんだなぁ」

「……喧嘩売ってんのか、アイン」

「いいや、何にも」

 下足室から廊下を経て、教室へ至る道をアルバートと会話しながら歩く。こいつの週末は俺にとっては平々凡々で、必要以上の刺激のないその人生は羨ましくもあった。

「でな、バイト先の店に凄い可愛い子が来てさ。こっそり番号交換持ち掛けてみようかと思ったら、後から彼氏がやって来たんだよ。それも超デカい奴」

「ふーん」

「で、そいつが無駄に偉そうだったんだよ。例えば、注文する時に上から目線だったりな」

「そうだったのか」

「まぁな。だからすっげームカついたけど、頑張って仕事したぜ!それにしても勿体ねぇよな、あんなカワイコちゃんがあのクソ野郎と付き合ってるなんて」

「いや、それは良く知らんが」

 お前が見る限りではそうだったとしても、実際はまた別の面があったりすんじゃないか?まぁ、平和なようで何よりだ。

「そんな事はどうでもいいんだ、アインの話を聞かせろ」

「なんだ、そんなに面白くもないぞ。それでもいいなら話してやる」

 という訳で、俺は自分が言える範囲でこの週末の出来事を順番に話してやった。その結果……。

「……アイン。俺はお前とそこそこの関係だから耐えられたが、絶対にクラスの男子共には話すなよ……」

「………………」

 何だろう、大変だったなと労ってもらえると思ったのに。アルバート、どうしてお前は握りこぶしを作っているのか、そしてわなわな震えているのか。ワケを聞いてみたくなったが、やめておこう、うんそうしよう。

「ったく。これから合宿だってのに火種を作りかねん事をしでかしやがって」

 ほぼ全編不可抗力なんですが、とツッコみたくなったところで不思議なワードが耳に入った。

「合宿?」

「あぁ。毎年この時期に、2年生はクラス単位で合宿を行うんだ」

 へぇ、そんなイベントがあったとはな。もしや配布資料に書いてあったかもしれないが、目を通してなかったかすっかり忘れていたかのどちらかだな。悪いねぇ、おじいちゃんもう年だから……。

「急にキャラを変えるな。まぁ、表向きには学友との親睦を深め、一層の学業への努力を期待する行事って話らしいけどな」

「……つまり、現実は違うと?」

「当たり前だ!」大声を張り上げるな。他の生徒の迷惑だろうが。しかし、本当の目的とは何だ?

 アルバートは、ここで使う必要のない無駄に爽やかな笑顔を見せた。そしてこう一言。

「それは……愛だよ!」

「何故そこで愛ッ!?」

 論理の飛躍が過ぎるぞ、お前!合宿がどうしてそうなるのか教えてくれ。

「分かってねぇなぁ、アイン。普段は互いを意識しない男女同士が一つ屋根の下で過ごす事で、その距離感が大きく縮まったりするもんだぜ!」

「分かってねぇのはお前だ阿呆が。学校行事をねるとんパーティーか何かみたく言うんじゃない」

 いや、まぁ確かにこいつの言うような事態が起きないとも限らないが、そもそも夜間は男女別々で寝るというのがこの手のお約束だ。まさか、お前……。

「……いや、そんな訳ないか」このクソザコヘタレ金髪バカ野郎に限ってそんな真似をしでかすとは思えないし、万が一起こしたとしてもその時は俺の学びの友の内の一人が社会的or肉体的に消え去るだけなので問題はないだろう。流石にそんな事まで俺が責任を負ってやる義理はどこにもないし。

「まぁとにかく、安心しろ。お前にだって案外良い事が起きるかもしれねぇし」

「お前も安心しろ。間違いが起きたら俺が逐一風紀委員に連絡してやるから」

 というか、俺が生徒会役員という事をこいつは覚えているのだろうか。いや、そもそも話してすらなかったかもしれんが。

 そんなどうでもいい事を考えていられる幸せを感じている内に、俺は教室に到着した。



 合宿。実にノーマルな響きだ、今の俺にとってはかなり貴重であるように思う。クラスメートとともに緩い非日常に浸るというのは、素晴らしい事のように思えて仕方ない。未だ考えなきゃいけない事を忘れて馬鹿をやれる時間は、学生までの限られた期間にしか存在しない。

(そこから先は成果に追われた忙しない毎日でしかないから……っと、もうそんな事を考えなくていいのか)

 受験勉強も就活も、無駄な残業も行う必要がなくなった。しっかり卒業すれば少なくとも食ってはいける世の中ではある。だが、それが理想かと言われれば、どうだろうか。

(現実逃避とは別の意味で、救いようが無くなっているのかね)

 帰る場所を失って宙ぶらりんの俺だが、かといって開き直ってこの世界に適応できるかと言えば……これは分からない。しかし、社会から外れてしまった者の末路を知っているからこそ、俺は必死に生きていかなければならない。レールのない人生は一見自由があっていいと思うが、その実自由という名の束縛が自らの歩くべき方向を見失わせるもんだ。俺のようなアウトローならいざ知らず、もしこの境遇に置かれたのが親や他人の敷いたレールの上を走る事に何ら抵抗のないような人間なら、そのまま迷って気が付けばバッドエンド一直線でした、なんて事になりかねない。

 まぁ、長々と語って申し訳なかった。言いたい事はただ一つ。

 俺の未来とは、何だ。

次も多分そう近いうちに書きますので、どうか読んでくれる方は御贔屓に。

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